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会社や事業を譲渡(売却)する際に、論点になりやすいのが「のれん」という言葉です。のれんは、譲渡価格が対象会社の純資産を上回る背景を説明する会計上の概念であり、買収価格の妥当性や、譲渡後の会計・税務にも影響します。
この記事では、のれん・負ののれんの意味から、買い手側で行われる会計処理・税務処理、そして株式譲渡と事業譲渡で扱いがどう変わるのかまでを、M&A仲介の現場に立つストライクが解説します。あわせて、売り手であるオーナー経営者にとって何が重要になるのかという視点も添えています。
後半では、当社の直近12カ月の成約記録264件から契約種別の構成を紹介し、取引形態によって変わる買い手の会計・税務を整理します。

<この記事の概要>

株式譲渡と事業譲渡では、のれんの計上先(個別か連結か)も、税務上の取り扱いも異なります。
会計上ののれんの金額と、会社への評価や売り手の手取額は、同じものではありません。
買い手は買収後の減損リスクを見ています。経営者への依存度や収益の再現性は、価格交渉に影響し得ます。

のれん・負ののれんとは

会計上、のれんとは、買い手が支払った対価が、取得した資産・負債の差額(PPA〈取得原価の配分〉後の時価純資産)を上回った場合の、その差額をいいます。一般に「のれん代」と呼ばれることもあります。対価が時価純資産を下回った場合の差額は「負ののれん」と呼ばれます。
のれんは「譲渡価格-時価純資産」(100%取得の場合)で計算します。ここでいう時価純資産は、買収対価を識別可能な資産・負債に時価を基礎として配分するPPAを行った後の、資産と負債の差額です。
ここで注意したいのは、ブランド、特許、顧客関連資産などは、識別要件を満たせばPPAで無形資産として別途認識されるという点です。のれんは、それらを識別した後にも残る超過収益力やシナジーなどの部分を指します。
とはいえ、帳簿に表れにくい価値が譲渡価格に織り込まれた結果として現れる部分、という理解が出発点になります。「のれん」という言葉が、もともと商店の屋号や信用という目に見えない価値を指すことにも通じます。

負ののれんが発生する主な要因

以下は、評価額や提示価格を引き下げ、結果として負ののれんが発生する、またはのれんが減少する要因の例です。

  • 後継者不在や資金需要により、売り手が早期売却を優先している
  • 業績悪化や将来性への懸念から、評価額が引き下げられている
  • 訴訟リスクや簿外債務など、貸借対照表に表れない将来の不確実性が価格に織り込まれている
  • 事業再建やPMI(統合作業)に必要な追加コストを買い手が見込んでいる

ただし、負ののれんが見込まれる場合、会計基準上はまず、資産・負債の認識や時価評価が適切に行われているかを再確認することが求められます。評価の前提を点検するのが正しい手順です。

のれんの計算方法(具体例)

のれんは、譲渡価格から時価純資産を差し引いて算定します。前述のとおり、時価純資産はPPA後の資産と負債の差額です。

計算式
のれん = 譲渡価格 - 時価純資産(PPA後の資産・負債の差額)

たとえば、PPA後の時価純資産3億円の会社の株式を100%、5億円で取得した場合、差額2億円がのれんになります。

のれんが発生するM&Aスキーム(株式譲渡・事業譲渡)

のれんを計上する財務諸表は、M&Aのスキームによって変わります。
事業譲渡では、買い手が承継する資産と負債のPPA後の差額を上回る対価を支払えば、その差額がのれんになります(下回れば負ののれん)。一方、株式譲渡により子会社化する場合は、買い手の個別財務諸表にのれんは計上されません。支払った対価は全額が子会社株式として計上されるためです。ただしこれは個別財務諸表上の話であり、連結財務諸表を作成する場合は、取得原価と、PPA後の時価純資産のうち親会社持分相当額との差額に応じて、のれんまたは負ののれんが計上されます。
のれんは買収価格全体ではなく、PPA後の時価純資産との差額です。そのため、のれんの金額だけで買収価格の妥当性は判断できません。加えて、のれんを計上する買い手は「買収後にのれんの減損が起きないか」も同時に見ています。この減損リスクについては記事後半で解説します。

のれんの会計処理

ここからは、のれんが実際にどう会計処理されるかを見ていきます。処理を行うのは買い手側ですが、仕組みを知っておくと、後述するスキーム選択や価格交渉の判断材料になります。

株式譲渡の場合(個別・連結の違い)

株式譲渡で、買い手がPPA後の時価純資産300の会社の株式を100%、500で取得したとします(現金預金で支払)。以下の仕訳例の単位は万円とし、取得関連費用・税効果・消費税などは省略します。

個別財務諸表上

借方 貸方
子会社株式 500 現金預金 500

個別財務諸表では、株式譲渡の対価は全額が子会社株式として計上され、のれんは計上されません。

連結財務諸表上(合算後の相殺仕訳)

借方 貸方
純資産 300 子会社株式 500
のれん 200

上記は、各社の決算書を合算し、必要な時価評価を反映した後の相殺仕訳です。「純資産300」は、株主資本等と時価評価による評価差額をまとめて表示しています。
連結財務諸表は、各社の個別財務諸表を作成し、合算したうえで、親会社の投資と子会社の資本等を相殺する連結仕訳を行って作成します。子会社の資産と負債の差額(本件では300)と、親会社が計上している子会社株式(500)との差額200が、のれんとして計上される関係にあります。
こののれん200は、買い手が作成する連結財務諸表上の金額です。買収された子会社自身の個別財務諸表には計上されず、連結上ののれんの計上だけで税務上の資産調整勘定が生じることもありません。

事業譲渡の場合

事業譲渡では、買い手が承継した資産・負債のPPA後の差額を上回って支払った対価が、そのままのれんとして買い手の(個別)貸借対照表に無形固定資産として計上されます。株式譲渡と違い、連結を待たずに個別段階でのれんが立つのが特徴です。
PPA後の承継資産1,000・引受負債700の事業を、現金預金500で譲り受けた場合の簡略イメージは次のとおりです。

借方 貸方
承継資産 1,000 引受負債 700
のれん   200 現金預金 500

のれんの償却(日本基準とIFRSの違い)

資産計上したのれんの取得後の会計処理は、採用する会計基準によって異なります。

  • 日本基準:原則20年以内の「効果の及ぶ期間」にわたり定期償却する(通常は定額法)。償却費は販売費及び一般管理費に計上される。
  • IFRS:定期償却は行わず、毎年および減損の兆候がある場合に減損テストを行い、必要な減損損失を計上する。

この違いはM&A後の損益に直接影響します。日本基準では定額法の場合、毎期一定の償却費が営業利益を押し下げ続けるのに対し、IFRSでは減損が起きない限りのれんに係る費用が計上されないため、利益が大きく見えやすくなります。中小企業のM&Aでは多くが日本基準で処理されますが、上場企業が買い手の場合はIFRSのケースもあります。
償却時の仕訳も簡単に確認しておきます。たとえば、のれん200を10年間で定額償却する場合、毎期の簡略仕訳は「のれん償却額 20/のれん 20」となり、この償却額が費用として計上されます。
なお、のれんの減損処理は、日本基準でも行われます(IFRS特有の処理ではありません)。

参考:
ASBJ「企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準」
IFRS「IFRS 3 Business Combinations」

のれんの税務処理(資産調整勘定)

税務では、会計上ののれんとは別の枠組みが用意されています。法人間の一定の事業譲渡や非適格合併等では、対価の額と、移転を受けた資産・負債の税務上の時価純資産価額との差額の一部を、「資産調整勘定(しさんちょうせいかんじょう)」として認識します。会計上ののれんとは、認識・評価する資産や負債などの計算要素に違いがあるため、両者の金額が一致するとは限りません。なお、移転を受けた資産のうち独立して取引される慣習のある営業権(独立取引営業権)は資産調整勘定とは別に扱われます。
資産調整勘定は、原則として60カ月(5年)にわたり月割均等に減額し、損金算入します。一方、税務上の営業権は耐用年数5年の減価償却資産で、損金経理などの要件に従って償却します。課税所得が生じている買い手には、この損金算入によって税負担の軽減効果が見込まれる場合があります。

会計と税務で「費用化のタイミング」がずれる

事業譲渡等で会計上ののれんと税務上の資産調整勘定が生じる場合、両者は費用化される期間が異なるため、会計上の利益と税務上の課税所得の間にズレが生じます。

比較項目 会計上の「のれん」(日本基準) 税務上の「資産調整勘定」
償却期間 原則20年以内(効果の及ぶ期間) 原則5年(60カ月)で固定
費用化の方法 規則的に償却(通常は定額法) 月割で均等に減額(損金算入)
損益・税への影響 毎期の利益(営業利益等)を減らす 損金算入され、課税所得を減少させる
(参考)IFRS 定期償却せず、毎年および減損の兆候がある場合に減損テストを実施 ―(税務ルールのため影響なし)

会計は最長20年かけて費用を分散するのに対し、税務は5年で損金算入します。会計上の償却期間が5年を超える場合などには、事業譲渡の直後は税務上の費用が会計上の費用を上回りやすく、課税所得の圧縮に寄与することがあります。

負ののれんの会計・税務処理

負ののれんも、会計と税務で扱いが分かれます。ここで会計・税務をまとめて整理します。

区分 負ののれんの扱い
会計(日本基準) 資産・負債の把握と取得原価の配分を見直しても残る差額を、発生した事業年度に特別利益として一括で利益計上する(貸借対照表には残らない)
会計(IFRS) 再評価・再検討をしてもなお差額が残る場合、バーゲンパーチェスによる利得として直ちに損益に認識する
税務 一定の事業譲受け・非適格合併等では、税法上の要件に従って負債調整勘定を計算し、区分に応じて益金に算入する(下記参照)

会計上の負ののれんと税務上の負債調整勘定は、金額や認識時期が異なる場合があります。会計では負ののれんを発生年度に一括で利益計上しますが、税務上の負債調整勘定は区分に応じて益金算入するため、会計上の利益と課税所得の認識時期に差が生じます。

税務上の「負債調整勘定」3つの区分

一定の事業譲受け・非適格合併等で計算する税務上の負債調整勘定には、次の3つの区分があります。

区分 内容 益金算入のタイミング
退職給与負債調整勘定 承継した従業員等の退職給与債務を引き受けた場合の、法令に従って計算する引受額に相当する金額 従業員等でなくなった場合や退職給与を支給した場合などに、法令に従って減額・益金算入
短期重要負債調整勘定 承継事業に係る一定の将来債務(履行がおおむね3年以内に見込まれるもの)についての損失見込額。移転資産の取得価額合計の20%を超えること等が要件 対応する損失が生じたときはその相当額、3年経過時は残額を減額し、益金算入
差額負債調整勘定 非適格合併等対価額が、税務上の時価純資産価額に満たない場合に生じる差額(法令上の調整後) 残存価額ゼロ・60カ月(5年)で月割均等に取り崩して益金算入

なお、株式譲渡等により連結財務諸表上に計上されるのれん(または負ののれん)は、税務上の資産調整勘定(または負債調整勘定)には該当しません。

事業譲渡で注意したい消費税

のれんが発生する事業譲渡では、消費税にも注意が必要です。事業譲渡は資産の譲渡取引として扱われ、営業権(のれん相当)などの課税資産は消費税の課税対象になります。課税資産と非課税資産(土地や有価証券など)を合理的に区分したうえで、課税資産に対して消費税がかかります。株式譲渡(株式そのものの売買)では消費税は非課税のため、ここもスキームによる違いです。
取引の流れとしては、課税事業者である売り手が課税資産に対応する消費税を受け取り、原則として申告・納付します。買い手側は、課税事業者であることなど一定の要件を満たせば、支払った消費税相当額が仕入税額控除の対象となる可能性がありますが、支払額の全額を控除できるとは限りません。売り手としては、譲渡価格や手取り額を試算する際に、この消費税の存在を考慮する必要があります。

参考:国税庁「営業の譲渡をした場合の対価の額」

買い手が警戒する「のれんの減損リスク」

のれんは将来の収益期待を前提に計上されるため、その前提が崩れた場合には、減損の判定・測定を経て損失計上が必要になることがあります。買い手側の会計処理ですが、売り手にとっても無関係ではありません。減損リスクが高いと見られると、そもそもの譲渡価格が抑えられることがあるためです。

のれんの減損とは

のれんの減損とは、資産計上したのれんの価値が下がったときに、帳簿価額を引き下げて損失として計上する会計処理です。将来の収益が見込めなくなった場合などには、のれんを含む事業の単位などで減損の判定・測定を行い、その結果に応じてのれんの帳簿価額を減額します。

減損が起きるケース

買収時に想定した事業計画と実際の業績に乖離が生じた場合などには、減損の兆候があるかを検討します。代表的なケースは次のとおりです。

  • 買収後、期待していた利益水準に到達しない
  • 市場環境の変化や競合の出現で収益性が低下する
  • PMI(統合作業)の遅れでシナジーが発現しない
  • キーマン(重要人物)の離脱で組織体制が不安定になる

減損が与える影響と、売り手にとっての含意

減損が発生すると、買い手企業の当期利益が大きく減少して赤字に転落する可能性があり、自己資本比率の低下や、金融機関の信用評価・融資条件への影響にもつながります。

売り手の立場で重要なのは、減損リスクが低いと見られる会社ほど、買い手が安心して価格を提示しやすいという点です。特定の経営者に過度に依存せず、収益に再現性のある体制を整えておくことは、買い手が認識するリスクを抑え、評価にプラスに働く可能性があります。ただし減損は買収後のPMIや経営にも左右されるため、売り手側の状態だけで決まるわけではありません。

売り手(譲渡オーナー)にとって何が重要か

ここまでは主に買い手側の会計・税務を説明しました。売り手が取引条件を検討する際の要点を整理します。
スキーム選択は税負担・手取りまで含めて判断する。オーナー個人が保有株式を譲渡する場合、対価は個人が受け取ります。一方、会社が事業を譲渡する場合、対価は会社が受け取ります。買い手に税負担の軽減効果が見込まれる場合も、売り手側の税負担や、許認可・契約を引き継げるかを確認し、取引条件を比較する必要があります。
価格に影響し得る要因は、早期に把握しておく。簿外債務や係争など、株価が下がる要因は、早期に把握し、是正できる事項は改善するとともに、適切な開示の準備を進めておくことが望ましいといえます。
経営者への依存度を下げ、収益の再現性を高めておく。これらは、買い手が認識するリスクを抑え、評価にプラスに働く可能性があります(ただし減損は買い手のPMIや買収後の経営にも左右されるため、売り手企業の状態だけで決まるものではありません)。

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ストライクの具体的な支援体制や品質管理の仕組みについては、ストライクのM&A仲介・アドバイザリーサービスで詳しく解説しています。

よくある質問

Q. 株式譲渡と事業譲渡で、のれんの扱いはどう変わりますか?

事業譲渡でのれんが生じる場合は、買い手の(個別)貸借対照表に計上します。また法人間の一定の要件を満たす事業譲渡では、税務上、資産調整勘定として原則5年(60カ月)で損金算入します。課税所得が生じている買い手であれば、これにより税負担の軽減効果が見込まれる場合があります。株式譲渡では個別財務諸表にのれんは計上されず(連結財務諸表を作成する場合は差額に応じて計上)、税務上の資産調整勘定にも該当しないため、この効果は生じません。

Q. 「営業権」と「資産調整勘定」は何が違うのですか?

税務上の営業権は、独立して取引される慣習のある無形資産として個別に認識されるものです。一方、資産調整勘定は、事業譲渡など一定の取引において、対価と税務上の時価純資産との差額を基礎に計算される税務上の調整項目です。営業権は耐用年数5年の減価償却資産で、損金経理などの要件に従って償却します。資産調整勘定は原則60カ月で均等に減額し、損金算入します。

Q. 負ののれんの税務処理はどうなりますか?

会計上の負ののれんとは別に、一定の事業譲受け・非適格合併等では税法上の「負債調整勘定」を計算します。負債調整勘定は、退職給与負債調整勘定・短期重要負債調整勘定・差額負債調整勘定の3つに区分されます。会計上は発生年度に特別利益として一括計上されるのに対し、税務ではそれぞれの区分に応じて益金算入されるため、認識時期にズレが生じます。

Q. 事業譲渡には消費税がかかりますか?

営業権(のれん相当)を含む課税資産には消費税がかかります。課税資産と非課税資産を合理的に区分したうえで課税され、課税事業者である売り手が原則として申告・納付します。買い手は要件を満たせば仕入税額控除の対象になり得ます。株式譲渡には消費税はかかりません。

Q. のれんの償却は、日本基準とIFRSで何が違いますか?

日本基準では原則20年以内の効果の及ぶ期間で定期償却しますが、IFRSでは定期償却せず、毎年および減損の兆候がある場合に減損テストを行います。採用する会計基準によって、買い手の利益への影響の出方が変わります。

記事情報・ご注意

本記事は一般的な会計・税務上の取扱いを解説したものであり、個別の取引に対する税務・会計上の助言を目的とするものではありません。実際の処理は、取引形態や契約内容、適用する会計基準等により異なるため、公認会計士・税理士等の専門家にご確認ください。