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M&Aにおいて「買い手は何を基準に判断しているのか」が分からず、不安を感じている経営者は少なくありません。
価格や直近の業績だけで評価されるのではないか、交渉や調査で不利にならないかと悩む場面も多いはずです。
M&Aに不安を抱える経営者様に向けて、数多くのM&Aを仲介してきたストライクが、買い手企業がチェックするポイントと対策について解説します。

監修者プロフィール

株式会社ストライクグループ コーポレートアドバイザリー部

コーポレートアドバイザリー部は、弁護士・司法書士・公認会計士・税理士など、法務・会計・税務の専門性を持つメンバーが在籍する専門部門です。累計3,600件超のM&A成約実績を持つストライクグループにおいて、アドバイザーと連携し、M&Aの手法提案、契約実務、企業価値評価、税務上の留意点などの観点から、案件支援およびコンサルティング品質の向上に関与しています。

<この記事の概要>

M&Aにおける買い手判断は、価格や直近の利益ではなく、買収後に事業を継続・成長させられるかで決まります。
重要なのは、将来収益の見通し、事業の再現性、人材・契約・経営体制といったリスクと価値の両面です。
買い手がどの段階で、どの情報を使って判断するのかを把握し、自社の強みと懸念点を整理できれば、交渉や条件提示を論理的に進めることができます。

買い手は「買収金額」や「今の利益」だけで判断しない

買い手企業がM&Aを検討する際、注目しているのは提示された買収金額や直近の利益水準だけではありません。
将来にわたって事業を継続できるか、買収後にどのような価値を生み出せるかという観点で、総合的に判断しています。
ここでは、売り手が誤解しやすい判断基準について整理します。

「安ければ売れる」わけではない

買い手にとってM&Aは投資判断です。
たとえ価格が低く設定されていても、事業の将来性が乏しい、リスクが多いと判断されれば検討対象から外れます。
一方で、価格が相場より高くても、安定した収益見通しや成長余地が確認できれば、前向きに検討されるケースもあります。

「赤字=価値なし」ではない

直近が赤字であっても、買い手が必ずしも価値がないと判断するわけではありません。
独自の技術、顧客基盤、専門人材などがあり、買い手の資本やノウハウと組み合わせることで収益改善が見込める場合、評価対象となることがあります。

M&Aのプロセス別:買い手が見ている「深度」の違い

買い手による会社評価は、M&Aの進行段階によって確認内容と厳しさが変化し、初期段階では全体像の把握が中心ですが、プロセスが進むにつれて、情報の正確性や一貫性が細かく確認されます。
ここでは、各段階で買い手がどの情報を重視しているかを整理します。

検討初期

検討初期では、業種や事業内容、売上規模、地域などの基本情報をもとに、買収対象として成立するかが判断されます。
この段階では詳細な数値よりも、自社戦略と合致するかが確認されます。

トップ面談時

トップ面談では、経営者の考え方や売却理由、今後の関与姿勢などが確認されます。
事業説明と実態にズレがないか、人として信頼できるかが判断材料になります。

デューデリジェンス(買収監査)時

デューデリジェンスでは、これまでに説明された内容が事実かどうかを検証します。
数字や契約、労務状況に矛盾がないかが細かく確認され、最終判断に直結します。

買い手はいつ、どのように会社を調べるのか

買い手は、M&Aの検討段階ごとに調査の深さを変えながら、売り手企業の実態を確認します。
初期段階では限られた情報をもとに大枠を判断し、基本合意後に詳細な調査を行う流れが一般的です。
特に重要なのが、基本合意後に実施されるデューデリジェンスです。

「デューデリジェンス(買収監査)」とは?

デューデリジェンス(買収監査)とは、基本合意書を締結した後に、買い手が売り手企業の実態を精査する手続きです。
公認会計士や税理士、弁護士などの専門家が関与し、財務・税務・法務・労務・事業内容などを多角的に確認します。
書類上の数字だけでなく、契約関係や運営実態が事前説明と一致しているかも調査対象になります。

デューデリジェンス(買収監査)の目的と重要性

デューデリジェンスの目的は、買収後に想定外の損失やトラブルが生じるリスクを把握することです。
決算書に反映されていない負債や、契約上の制約、労務問題などがないかを確認します。
この調査結果を踏まえ、最終的な買収価格が調整されたり、条件変更が行われたりする場合もあります。
内容によっては、取引自体を見送る判断につながることもあります。
対象会社のリスクを正しく把握するには、財務・法務・税務・労務などの観点から実態を確認する買収監査(デューデリジェンス)が重要です。

買い手企業がチェックする5つの評価ポイント

買い手はデューデリジェンスにおいて、単一の指標ではなく複数の観点から企業価値を判断します。
評価は「財務」「事業」「人材」「法務」「経営者」という5つの領域に分けて行われることが多く、それぞれが買収後の安定運営や成長可能性に直結します。
ここでは、買い手がどの情報を、どの場面で、どのような判断に使っているのかを整理します。

1. 財務・税務(数字の信頼性と実態収益)

財務・税務は、買い手が最初に事業の健全性を把握するための重要な判断材料です。
決算書に記載された利益額だけでなく、その数字がどのような前提で算出されているかが確認されます。
特に中小企業では、節税目的で利益を抑えているケースや、経営者個人の支出が経費として計上されている場合もあり、実態収益を把握するための調整が行われます。
買い手が確認している主なポイントは以下のとおりです。

  • 実態収益力(役員報酬や私的経費を調整した本来の利益)の把握
  • 不正会計や粉飾の有無
  • 過去の税務調査の指摘事項の有無
  • 未払い税金や偶発債務の有無
  • 将来的に発生する可能性がある課税リスクの有無

これらの情報は、買収価格の算定や条件調整の場面で使われます。
数字の整合性が取れていない場合、信頼性の低下につながり、交渉が難航する要因になります。

2. 事業内容・強み

事業内容の評価では、現在の業績以上に、将来も安定して収益を生み出せるかが見られます。
買い手は、買収後に経営環境や担当者が変わっても、事業が成り立つ構造かどうかを確認します。
確認される主な項目は以下のとおりです。

  • 強みの源泉が技術・ノウハウか、人脈や属人的要素か
  • 主要取引先への依存度
  • 競合との差別化要因
  • 参入障壁の有無

これらの情報は、買収後の事業計画や投資回収シミュレーションに使われます。
属人的な要素が強い場合は、引継ぎ条件や経営関与期間が検討されることもあります。

3. 組織・人材

組織と人材は、買収後の事業継続性を判断するうえで重要な要素です。
特に中小企業では、経営者一人に業務や判断が集中しているケースも多く、その体制が買収後も維持できるかが確認されます。
買い手が確認しているポイントは以下のとおりです。

  • 社長以外のキーマンの存在
  • 役割分担や意思決定体制
  • 未払い残業代やサービス残業の有無
  • 社会保険の加入状況

これらは、買収後に発生し得る人材流出や労務トラブルのリスク判断に使われます。
人材面の課題が明確な場合、条件見直しや対策が求められることがあります。

4. 法務・契約

法務・契約の不備は、買収後に直接的なトラブルにつながる可能性があります。
そのため、買い手は契約関係や権利関係を慎重に確認します。
主なチェック項目は以下のとおりです。

  • 株式の分散状況や名義株の有無
  • 取引契約書の整備状況
  • 就業規則や社内規程の有無
  • COC条項(経営権変更時に解除される契約)の存在

これらは、買収後にトラブルが発生しないかを判断する場面で使われます。
契約関係が整理されていない場合、追加対応が求められることがあります。

5. 経営者の人柄・姿勢

最終的な判断において、経営者への信頼が大きく影響するケースは少なくありません。
定量データでは測れない要素ですが、買い手にとって重要な評価項目です。
確認されるポイントは以下のとおりです。

  • 情報開示に対する姿勢
  • 売却理由の一貫性と納得感
  • 従業員や取引先への配慮
  • 買収後の引継ぎに対する協力度

これらは、トップ面談やデューデリジェンスの過程で判断材料として使われます。
誠実な対応が、条件面や進行スピードに影響を与えることもあります。

買い手が「買いたくない」と判断するNG項目

買い手は将来のリスクを強く警戒しており、一定の条件に該当する場合、検討の早い段階で見送りを判断します。
ここでは、実務上よく見られる「買い手が敬遠する典型的な要因」と、その理由を整理します。
これらは事前に把握し、対策や説明ができるかどうかが重要です。

相場を無視した希望価格

売り手の希望だけで相場とかけ離れた価格を提示すると、買い手は投資として成立しないと判断します。
将来の収益見通しやリスクに対して価格が見合わない場合、詳細検討に進まず、初期段階で見送られることもあります。
客観的な評価根拠を示せない価格設定は、交渉の前提を崩す要因になります。

粉飾決算・脱税

意図的な売上操作や経費の隠蔽、脱税行為が判明した場合、買い手との信頼関係が大きく損なわれます。
将来的な追徴課税や法的責任につながる可能性もあるため、買い手が発覚時点で取引の中止を判断する場合があります。そのため、数字の正確性は、すべての評価の前提条件になります。

経営者への極度な依存

事業運営が経営者個人の判断や人脈に依存している場合、買収後の再現性に疑問が生じます。
社長が退くことで業績が維持できないと判断されると、企業価値は大きく下がるため、引継ぎ体制や組織化の有無が重要な判断材料になります。

盲点になりやすい、買い手が嫌がる隠れリスク

以下のようなリスクは決算書や表面的な資料だけでは見えにくく、デューデリジェンスの過程で発覚することが多い項目です。
事前に把握・整理できていない場合、評価の大幅な引き下げや取引中止につながる可能性があります。

名義株の存在

実態と異なる名義で株式が保有されている場合、将来的な権利主張や訴訟リスクが生じます。
株主の所在が不明なケースでは、取引が遅延したり破談につながることもあります。

「口約束」の重要取引がある

主要取引が契約書なしで行われている場合、買収後に取引継続が保証されません。
また、買い手は契約書という形式で確認できない取引を評価に反映できません。

会社と個人の資産混同

不動産や知的財産が個人名義のままの場合、買収後の権利関係が不明確になります。
整理されていない状態は、将来的なトラブル要因として懸念されます。

「買い手の視点」を事前に知ることがM&A成功のカギ

M&Aを円滑に進めるためには、売り手側の希望だけでなく、買い手がどのような点に不安を感じ、何を判断材料としているかを理解しておくことが重要です。
売り手は、これまで築いてきた事業の価値や将来性を適切に評価してほしいと考える一方で、買い手は、買収後に想定外のリスクが顕在化しないか、投資として妥当か、買収後も事業を継続・成長させられるかを重視します。
そのため、財務数値の正確性、契約関係、顧客・取引先の状況、人材・組織体制、法務・税務上のリスクなど、買い手が確認する項目を事前に整理し、説明できる状態にしておくことが大切です。買い手の懸念をあらかじめ把握し、判断材料を適切に提示できれば、交渉を円滑に進めやすくなります。

安心して売るために。売り手が準備すべきこと

買い手の検討を円滑に進めるためには、売り手側の事前準備が欠かせません。
準備の有無は、評価額や条件交渉だけでなく、取引の進行スピードや信頼性にも影響します。
ここでは、売り手が実務上対応しておくべき代表的な準備項目を整理します。

資料の整理・可視化

まず重要なのは、会社の状況を客観的に説明できる資料を整えることです。
月次決算や資金繰り表を作成し、収益構造や費用の内訳を説明できる状態にしておく必要があります。
また、取引契約書や許認可資料を一箇所にまとめておくことで、デューデリジェンス時の確認が円滑になります。

マニュアル化・権限委譲

経営者が不在でも業務が回る体制を示せるかは、買い手の判断に影響します。
業務フローを文書化し、担当者ごとの役割を明確にすることで、属人性を下げることができるため、権限委譲が進んでいる企業ほど、買収後の運営リスクが低いと評価されます。

マイナス情報の開示

過去の赤字要因やトラブルを隠したまま進めると、後の調査で発覚し信頼を損ないます。
事前にアドバイザーを通じて開示し、背景や改善状況を説明できるようにしておくことで、評価への影響を抑えられる場合があります。

買い手は会社を託す「パートナー」

買い手は、リスクを避ける立場である一方、長期的に事業を共に成長させられる相手を探しています。
単なる売買の相手ではなく、事業や組織を引き継ぐパートナーとして売り手企業を評価しています。
買収金額や直近の業績だけに目を向けるのではなく、事業の強みや継続性、人材、引継ぎ体制などを整理し、どの点が評価に使えるかを明確にすることが重要です。
不安や課題を一人で抱え込まず、早い段階で専門家に相談することで、選択肢を広げることができます。

Strike Insight

同じ規模でもなぜ評価が分かれるのか
― ストライクの成約事例から見る「高倍率案件」の実務的特徴 ―

ストライクの成約事例(2025年7月〜2026年3月のM&Aが成立した175件のうち、一定の分析条件を満たす案件)を確認すると、譲渡価格をEBITDAで割った倍率には案件ごとにばらつきが見られます。
企業規模(売上や従業員数)が近い場合でも、評価に差が生じるケースがあり、単純な規模だけでは説明しきれない要素が存在していると考えられます。
なお、中小企業のM&Aは個別性が高く、業種や収益構造、買い手との関係性、交渉プロセスなどによって評価は大きく変動します。本データは、あくまでストライクの成約事例に基づく実務上の観察であり、すべての案件に当てはまる一般法則ではない点には留意が必要です。
※EBITDAとは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略で、利息・税金・減価償却費を控除する前の利益を指します。その会社が実際に稼ぎ出す現金(キャッシュ)に近い数字となります。M&Aでは、会計方針や資本構成の影響を一定程度ならして、企業の収益力を把握するための指標として用いられることがあります。

規模だけではない「評価の決まり方」
こうした評価の差について、コンサルタントの現場感覚からも、高倍率で成約する企業には以下のような特徴が見られることがあります。

・成長ストーリーの具体性
「今いくら稼いでいるか」だけでなく、買収後にどのように成長するのか、その道筋が具体的に描けているか。

・買い手とのシナジー
買い手の既存顧客へのクロスセルや販路拡大など、事業上の親和性や相乗効果が明確であるか。

・情報の透明性と信頼
意思決定プロセスにおける情報開示の丁寧さや、コミュニケーションの質。
実務の現場では、直近期の利益水準だけでなく、「買収後にどのように価値を拡張できるか」という観点が評価判断の材料となるケースも見られます。
高い評価を目指すために必要なのは、単に決算書上の利益をアピールすることではありません。

自社がなぜ収益を生み出し続けられるのか
買い手の傘下に入ることで、どのような成長やシナジーが期待できるのかといった「未来のストーリー」を論理的に整理しておくことが重要です。
これにより、買い手が評価判断を行う際の材料が増え、結果として納得感のある評価につながる可能性があります。
(※注:本内容はストライクの成約事例をもとにした実務上の観察を含みます。M&Aの評価は業種や市場環境、個別の交渉状況などによって大きく異なります。貴社における具体的な評価のポイントについては、当社無料相談にて、お気軽にご相談ください。)

ストライクのM&A仲介・アドバイザリーサービス

ストライクは、事業承継や成長戦略など幅広いM&Aニーズを支援するM&A仲介・アドバイザリー企業です。

M&Aに精通した専門アドバイザーが、財務・法務・税務など多面的な観点から、企業ごとの状況に応じた支援を行っています。また、ストライクでは営業部門とは独立した審査体制を設け、案件進行や情報管理の品質向上にも取り組んでいます。

ストライクの具体的な支援体制や品質管理の仕組みについては、ストライクのM&A仲介・アドバイザリーサービスで詳しく解説しています。

よくある質問

ここでは、M&Aを検討する中で買い手・売り手の双方から寄せられる質問を整理しています。
各設問は、本記事で解説した評価ポイントやプロセスを簡潔に確認できる内容です。

Q. 「買収価格」や「今の収益」は買い手の判断に影響しますか?

買収価格や直近の収益は判断材料の一部として確認されますが、それだけで結論が出ることはありません。
将来の収益見通し、事業の継続性、リスクの有無を踏まえ、投資として成立するかが総合的に評価されます。

Q. 買い手はいつ、どのように会社を調査しますか?

初期段階では業種や規模などの概要情報を確認し、基本合意後にデューデリジェンスを実施します。
財務・法務・労務などを専門家が調査し、その結果が最終条件や判断に反映されます。

Q. 買い手は具体的に会社のどこを見ていますか?

財務・税務、事業の強み、組織・人材、法務・契約、経営者の姿勢といった複数の観点から確認します。
いずれも買収後に安定した運営が可能かを判断するための情報として使われます。

Q. 買い手が「買いたくない」と判断するNG項目はありますか?

相場とかけ離れた価格設定や粉飾決算、経営者への過度な依存や杜撰な管理体制などは敬遠されやすい要因です。
名義株や契約未整備などのリスクも、調査段階で評価を下げる要因になります。

Q. 売り手は具体的にどのような準備をすべきですか?

財務資料や契約書を整理し、事業内容を客観的に説明できる状態にすることが重要です。
マイナス情報も含めて事前に共有できる体制が、信頼性の向上につながります。
自社の強みや弱みなど自社の企業分析を事前に実施することも有益なアプローチの1つです。