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本業にあまり関連がないノンコア事業を外部に売却したい。

父から会社を引き継ぎ15年が経ちました。先代は、本業の建設業だけでなく、介護施設の運営や飲食店を多展開するなど、多角経営に取り組んでいました。ただ、経営を引き継いだ私としては、今は本業の建設に意識と時間を集中させたいと考えています。そこで、本業にあまり関係がなく、業績貢献もそこまで大きくない介護事業や飲食事業は他社に売却できないかと考えています。注意すべきことがあれば教えてください。

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取り組みやすいのは「事業譲渡」ですが、注意すべき点もあります。

自社の得意とする事業分野を見定め、その事業分野に経営資源を集中的に投下して、経営の効率化や業績向上を目指す、いわゆる「事業の選択と集中」をご検討されているのですね。

M&Aにおいて一部の事業を売却する方法には、「事業譲渡」と「会社分割」の2つがあります。「事業譲渡」は、特定の事業部門あるいは地域的なエリアに限っての店舗の譲渡などを行う方法です。「会社分割」は、事業の一部を会社分割し“一個の独立した法人格”としたうえで、その会社の株式を譲渡する方法です。どちらも事業の一部を譲渡するという点では同じです。それぞれメリット・デメリットがありますが、会社分割は法的手続きの煩雑さがあり、一般的に中堅・中小企業で多く用いられるのは事業譲渡です。

今回は取り組みやすく一般的な手法である事業譲渡について、注意すべき点や特長について解説いたします。

事業譲渡において重要なことの一つに、譲渡の対象となる事業の定義があります。事業を行うために必要なヒトや資産(商品・工場といった有形物だけではなく、知的財産、顧客リスト、ブランドなどの無形物も含まれます)、権利(取引先)、ノウハウ、その事業に関する債権および債務についても考える必要があるでしょう。何を譲渡するかに決まりはありませんが、
①譲渡企業側が譲渡する事業を定義して「パッケージ化」する
②それを買収企業と合意する
の2点がとても重要なポイントになります。

過去に私がお手伝いしたケースでは、資産や権利は譲渡するけれども、本体が人材不足だったので従業員は譲渡対象に含まない、というケースがありました。また、部門別の決算では赤字だったものの、その大きな要因となっていた「当該事業にかかわる借入金およびその支払利息」は譲渡企業の本体側に残し、当該事業には利息負担がなくなった形にして譲渡されたケースもありました。

譲渡企業と買収企業とが、何を譲渡するのか定義し合意しながら進めますので、交渉を通じて両社にとって一番メリットになるような形で事業を譲渡することができます。逆に言えばそれ以外のものは譲渡されませんから、実は買収した企業に簿外債務(偶発債務)があり、それが後々になって問題となる…といったリスクもありません。

ただし、事業譲渡ならではの注意点もあります。契約関係や許認可は、買収会社側が自動的に承継できないため、買収会社側で新しく契約を締結し直す必要があります。重要な取引先との契約については、事前に事業譲渡についての報告・相談を行い、譲渡後も買収企業と契約を継続してもらえるか確認が必要です。また、ご相談者様のように介護事業や飲食事業に取り組まれている場合、借りている不動産の賃借人としての地位を引き継げることが重要です。

従業員の雇用の継続についても、事業譲渡の場合は買収企業側が従業員たちと個別に交渉し、新規に雇用契約を結び直さなければなりません。雇用契約の切り替えになりますので、そのタイミングでの離脱を減らせるよう、事前の説明や面談の仕方など慎重に進めていくことが重要です。

従業員や取引先が多数になる場合、新規に契約を締結し直す手続きが煩雑になります。例えば従業員が1,000人もいる事業の場合、その1,000人と雇用契約を結ばなければならず、どうやってそれを実現するか検討しなければなりません。取引先についても同様でしょう。

事業譲渡は取り組みやすい手法ではありますが、事業分野や取引の実態に応じて気をつけるべき点が変わります。取り組み方や手続きにご不安がございましたら、専門家にご相談ください。