M&A相談所
QUESTION
のれんの非償却化で
M&Aは本当に活発になる?
M&Aの活性化に向け、会計上の「のれん」を償却しない制度(非償却)の導入が議論されています。この制度変更が実現すれば、日本企業のM&Aは本当に活発になるのでしょうか。また、この議論の本質はどこにあるのでしょうか。
非償却モデルにはリスクもある
M&Aによる企業価値向上について
財務的な視点から再考したい
現在、経済界ではM&Aをさらに促進するため、買収時に発生する「のれん」の会計ルール見直しが活発に議論されています。のれんの償却負担がM&Aの阻害要因になっているという声が、その背景にあります。しかし、この制度変更は万能薬なのでしょうか。
のれんの非償却化は、M&Aを検討する企業にとって一定の追い風にはなりますが、それだけでM&Aが魔法のように増えるわけではありません。この議論をきっかけに、私たちはM&Aの財務的な影響をより深く理解し、企業価値向上の本質に立ち返るべきです。
ここでは、のれん非償却の議論が持つ意味と、経営者が本当に目を向けるべきポイントについて解説します。
◆のれん非償却化でM&Aは増えるのか?
現在の日本の会計ルールでは、M&Aで取得した企業の純資産を上回る額(のれん)は、資産として計上された後、最長20年で規則的に費用として償却しなければなりません。この償却費が毎期利益を圧迫するためM&Aに踏み切れない企業が多い、というのが「阻害要因」論の主な根拠です。
確かに、のれんが非償却になれば見かけ上の利益は良くなります。しかし、重要なのは、のれんを償却しようがしまいが、企業のキャッシュフローは一切変わらないという事実です。M&Aの成否を判断する上で最も重要なのは、投資した資金を上回るキャッシュフローを生み出せるかどうかです。会計上の利益の変動だけに目を奪われていては、本質を見誤ります。
のれんの非償却化は、あくまで会計上の話であり、これをもってM&Aが急増すると考えるのは早計です。むしろ、この議論の本質は、「日本の経営者や投資家が、財務報告の数字を正しく読み解くリテラシーを向上させるべき」という課題を浮き彫りにしている点にあると私は考えています。
◆非償却化がもたらすリスクは?
のれんを定期的に償却しない代わりに、国際的な会計基準(IFRS)では、毎期「減損テスト」を行い、のれんの価値が毀損していないかを厳しくチェックします。買収した事業の収益性が計画を下回った場合、価値が下落したと判断されれば、その全額を一度に損失として計上(減損)しなければなりません。定期償却があれば、会計監査の場で「あと数年で償却が終わるので、もう少し様子を見させてほしい」といった交渉の余地が生まれることもありました。しかし、非償却・減損モデルではその猶予がなくなります。減損の判断はよりシビアになり、一度に巨額の損失を計上するリスクはむしろ高まるのです。
経営者は、目先の利益インパクトがなくなるというメリットだけでなく、将来、より大きな損失を突然計上することになるかもしれないというリスクを天秤にかけて、冷静に判断する必要があります。
◆今、経営者が本当に議論すべきことは?
のれんの会計ルールに関する議論は重要ですが、それ以上に私たちが目を向けるべきは、コーポレートファイナンスの基礎に立ち返ることです。
例えば、M&Aの報道で「100億円で買収」とあっても、それが株式価値(エクイティバリュー)なのか、有利子負債を含めた事業価値(エンタープライズバリュー)なのかによって、取引の実態は全く異なります。買収対象企業に多額の借入金があれば、買い手は実質的により大きな負担を背負います。こうした財務内容への理解が不足したままでは、会計ルールがどう変わろうと、M&Aを成功に導くことはできません。
M&Aは、単に売上規模を拡大するための手段ではありません。本来の価値より割安で取得するか、買収後のシナジー効果によって想定以上の利益を生み出すか、そのいずれかを実現して初めて企業価値向上につながります。
今回の制度見直しの議論を、単なるルール変更として受け止めるのではなく、自社のM&A戦略や企業価値の本質について、財務的な視点から深く再考する絶好の機会と捉えるべきではないでしょうか。
個別の質問にも回答させていただきますので、詳しくは当社のM&Aアドバイザーにお気軽にご相談ください。







