INTERVIEW

賃貸用集合住宅事業で拡大を続ける企業が
地域密着の不動産会社を3カ月で経営統合
業界の「高齢化」「DX化」を背景にM&Aを急加速

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株式会社アーキテクト・ディベロッパーの海渕彬氏、株式会社メイプル田園の石田浩二氏、松岡仁氏

株式会社アーキテクト・ディベロッパー 執行役員兼CEO室長 海渕 彬氏

株式会社メイプル田園 代表取締役社長 石田 浩二氏 顧問 松岡 仁氏

賃貸用集合住宅の建築や運営管理などを手掛ける株式会社アーキテクト・ディベロッパー(本社・東京都中央区)。管理戸数拡大に向けてM&Aに取り組み、その第1号として2022年9月、川崎市で不動産管理・仲介業を営む株式会社メイプル田園を承継した。初顔合わせのトップ面談からM&A成約まで約3カ月。なぜ短期間で両者は合意できたのか。アーキテクト・ディベロッパーの海渕彬執行役員兼CEO室長と、同社からメイプル田園の代表取締役社長に就いた石田浩二氏、メイプル田園創業者で現顧問の松岡仁氏に、成約に至った経緯と、経営者の高齢化が進む賃貸不動産管理業における事業承継の課題などを伺った。

11年続く入居率99%の実績で管理戸数が増加
2022年に新規事業としてM&Aをスタート

アーキテクト・ディベロッパーの事業内容から教えてください。

海渕彬氏
株式会社アーキテクト・ディベロッパー 執行役員兼CEO室長 海渕彬氏

海渕:マンションやアパートなど賃貸用集合住宅のプランニングから建築、運営管理、既存物件のリノベーションまで対応できる体制を整えてサービスを提供している会社です。それらの機能を活かして、地主の方と30年間のマスターリース(一括借り上げ)契約を結んだ賃貸経営による土地活用事業も展開しています。2008年の創業で、東京、神奈川、千葉、埼玉の営業エリアに16支店あり、2023年5月末時点の管理戸数は4万3667戸と年々数を増やしています。強みとしては、独自の賃貸管理システムによる高い入居率で、2022年度まで11年連続で3月末の入居率99%以上を維持しています。

なぜM&Aの取り組みを始めたのでしょうか。

海渕:業務を通じて、賃貸不動産管理業界で事業承継が大きな課題であることを実感しました。高齢になった経営者の後を継ぐ子どもや社員がいなかったり、親から引き継いだものの経営に行き詰まったり、若い社員のためにも大手企業の傘下に入って会社を成長させたいという経営者の話も耳にしていました。そうした後継問題がある一方で、業務効率を図るDX(業務のデジタル化)対応も進めなければいけない。大手の賃貸管理会社であればシステム投資もできますが、中小の事業者にとってそのコスト負担は大変です。これらの課題を解決しつつ自社の成長を加速させようと、CEO室でM&Aを事業化し、2022年6月から動き始めました。9月に第1号としてメイプル田園さんを、続いて都内の不動産管理会社2社を譲り受け、現在まで3社をM&Aで経営統合しました。

メイプル田園を選ばれた理由は何ですか。

海渕:当社役員がストライクさんとご縁があり、M&A事業立ち上げの際に、良い案件の紹介をお願いしていて、最初にお話をいただいたのがメイプル田園さんでした。川崎市中原区の新丸子に店舗を構え、周辺の約320物件を管理されています。松岡さんが創業されて32年、物件のオーナーさんとの信頼関係もしっかりと築かれていました。長いお付き合いのなかで、古くなってきた建物も多くみられたので、そこに当社の建築や管理のノウハウを組み合わせることで、オーナーさんに資産価値を高める提案ができるだろうと思いました。そして、もう一つの大きな理由はトップ面談でしたね。

合意の決め手はトップ面談
企業理念を共有できて「一緒にやっていける」と確信

トップ面談で何があったのですか。

海渕:2022年6月に、当社CEOの木本と私とほか数名で松岡さんにお会いしました。当社は『美しい暮らし方を住まいから』という企業理念を掲げていて、過不足のない持続可能な住まいづくりを目指していること、業務のDX化を進めていること、そうした姿勢を松岡さんにご説明したところ、共感を持って受け入れてくださった。企業理念や経営方針を共有できるかどうかはM&Aにおいてすごく大事なことです。この面談で「一緒にやっていけますね」とお互い感じられたことが決め手になりました。

それから3カ月後の9月に成約し、メイプル田園社長に石田さんが就かれました。今はどのようなことに取り組まれていますか。

石田浩二氏
株式会社メイプル田園 代表取締役社長 石田浩二氏

石田:松岡さんが物件のオーナーさんと長く良い関係性を築かれているので、それを大事に受け継ぎつつ、アーキテクト・ディベロッパーの業務プロセスやDXサービスを採り入れ、経理や管理といったバックオフィス業務をいかに効率化するか、そこに取り組んでいるところです。業務効率化によって生まれた時間を使って今後は、メイプル田園単体ではできなかった物件の修繕やリフォーム、建て替えなど建築に関するオーナーさんへの提案に力を入れて、ビジネスチャンスを生み出せるようにしたいと思っています。

メイプル田園の創業者で現在は顧問の松岡さんに伺います。なぜ会社を譲渡しようと考えたのですか。

松岡仁氏
株式会社メイプル田園 顧問 松岡仁氏

松岡:今年で72歳なのですが、60代半ばを過ぎたころから会社をどうしようかと考えていました。2人の娘は継ぐ意思はないし、社員は2人いましたが、経営を任せるには荷が重いだろうと。廃業すれば家主さんたちが新たな管理先を探すことになるのでご迷惑がかかる。M&Aで譲渡するのが一番良い方法ではないかと思いました。

ストライクとは何をきっかけにご縁ができたのでしょうか。

松岡:最初に面談依頼のお電話があり、約1週間後に営業担当者が訪ねて来られました。銀行勤めを経験された方で数字に強く、決算書を見てその場で的確なアドバイスもしてくれて、優秀さに感心し、譲渡先の紹介をお願いしました。実はストライクさんの前に直接営業に来られたM&A会社もあったんです。ただ、会話をするなかでどこか引っかかるものを感じて、その会社がM&Aを手掛けた先を調べたら、譲渡後に従業員を入れ替えていました。そこに頼まなくて良かったと思います。

「会社を譲渡しました」と発言し、同業者から驚きの声
同世代の経営者から「やり方を教えて」と相談も

それからアーキテクト・ディベロッパーさんを紹介されて。

松岡:営業担当者から3社の候補企業を紹介されたのですが、その際に「私はアーキテクト・ディベロッパーさんをお勧めしますが、ほかの会社も面談してみてください」と、比較検討することを提案してくれました。実際にお会いすると担当者の言う通り、アーキテクト・ディベロッパーさんの印象が一番良くて、木本さんをはじめ5、6人の方が出迎えられたことにまず驚きました。「家主さんを大事にしてほしい」「3人いる従業員は辞めさせないで」。私からの条件はこの2つですと伝えると、木本さんは「大丈夫です」とはっきりと返してくれました。ほかの2社には感じられなかったトップの明快な回答が私にとっての決め手でした。また、業務でいえば、紙の書類が山積み状態で、DX化したくても、やり方がわからないし、やれる人もいない。そうした課題が解消できると思いました。

M&Aの手続きで大変だったことはありますか。

松岡:大変だったのは資料集めです。3期分の決算書、銀行からの借り入れ明細、家主さんとの売買契約書などを紙で保管していたので、中には見つけ出せないものもありました。M&Aを進めていることを従業員に知られないように閉店後一人で作業していましたが、とても追いつかない。店長にだけ話して2人で書類を整えました。用意した書類は段ボール1箱分。おかげで3キロ体重が落ちました。ただ、譲渡してからは気持ちが楽になりました。石田さんに社長を引き継ぎ、それまで一人でやっていた家主さんや入居者からのクレーム対応も少しずつ店長に渡して、心理的負担が軽くなりました。

M&Aについて同業者から反応はありましたか。

松岡:10社ほど集まる同じ地区の不動産管理業の会合で、「実は会社を譲渡しました」と話したら、エーッという驚きの声が上がりました。その後は、「やり方を教えてほしい」とか、中には「うまいことやったな」と言ってくる人もいましたね。私の周りも60代、70代の経営者が多いので、みなさん関心があるわけです。

会社の承継に悩む同業者にM&A経験者として何を伝えますか。

松岡:私はM&Aはお見合いのようなものだと思いました。会ってみた印象が良ければ話を進めればいいし、嫌なら断ればいい。きっと良縁もあるはずです。M&A仲介会社の紹介で、まずはいろいろな会社の方と会って話してみることだと思います。ストライクさんには本当に良い会社を紹介していただきました。これで安心して引退できます。

イノベーションの気概を持って取り組むこと
それがM&Aにおいて必要だと学ぶ

海渕さんに伺います。初回のM&Aから学んだことは何ですか。

海渕:文化の異なる2つの会社を融合するにあたって、大切にすべきこと、変えるべきところを体感できたこと、それが次につながる学びになりました。M&AによるPMI(買収後の統合プロセス)で特に必要なのは、イノベーションの気概を持って取り組むことだと私は思います。経済学者のピーター・ドラッカーは『イノベーション無きは死』と語っていますが、異なる常識や自社では気付かなかったものを受け入れることで新たな価値は生まれるので、M&Aにはイノベーションの視点が必要だと思いました。そのためにも、受け入れ側の常識や手法を一方的に押し付けてはいけないと感じています。

最後に今後のM&A戦略を教えてください。

株式会社アーキテクト・ディベロッパーの海渕彬氏、株式会社メイプル田園の石田浩二氏、松岡仁氏
アーキテクト・ディベロッパー社のオフィスエントランスにて

海渕:2025年までにM&Aによって管理戸数を1万戸増やすことを目標にしています。まずは事業基盤である1都3県でM&Aの成功パターンを積み重ねて、賃貸管理業という領域で存在感のある会社に成長していきたいと思っています。ただし、1万戸という数ありきではありません。メイプル田園さんがそうであったように当社の企業理念を共有できることが大事で、今後もそこを基軸に進めていきます。

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