ご成約インタビュー No.169
INTERVIEW
「おいしい商品をつくる力は絶対にある!」
菓子専門卸からメーカーへ――ナシオが2社を傘下に迎え、川上進出で描く成長戦略
| 譲渡企業様 | 譲受企業様 | ||
|---|---|---|---|
| 企業名 | 株式会社プレシア | ヨネザワ製菓株式会社 | 株式会社ナシオ |
| 所在地 | 神奈川県厚木市 | 埼玉県三芳町 | 北海道札幌市 |
| 事業内容 | 洋・和菓子製造とショップ経営 | シュークリームなどの洋菓子・スイーツの製造販売 | 菓子専門のリテールサポート型専門商社 |
| M&Aの目的 | 親会社の事業ポートフォリオ見直し | 親会社の事業ポートフォリオ見直し | 製造機能を取り込み、卸と製造を一体化することで事業領域を広げ、企業価値を高める |
| 今後のテーマ | 商品力を生かしたさらなる成長 | 製造力を生かした持続的な成長 | 菓子を通じてより多くの人に幸せを届ける |
この記事のハイライト
課題:菓子専門卸として成長を続ける一方、卸だけでは事業領域の拡大に限界があった。製造機能を取り込む必要がある中、品質管理や製造キャパシティ、卸としての「平等性」を満たす対象会社を見極めることが課題だった。
決断:プレシアとヨネザワ製菓の商品力に着目。途中で「やめようかな」と思う場面もあったが、「おいしい商品をつくる力は絶対にある」と判断し、ナシオの営業力・販売力を組み合わせれば成長できると考え、買収を決断した。
成果:製造機能を取り込むことで、卸と製造を一体化する新たな事業基盤を構築。成約後には小売店から取得した企業との取引や商品開発への期待が寄せられるなど、早くも具体的なシナジーが動き始めている。
菓子専門卸大手の株式会社ナシオ(北海道札幌市)。代表取締役社長の平元彦氏は、エア・ウォーター株式会社系の菓子・スイーツメーカー2社をグループに迎え入れました。今回の案件は同社にとって、約32年前に日配卸メーカーを買収して以来の本格的なM&Aになります。単なる事業規模の拡大ではなく、製造機能を取り込んで川上へ進出し、卸とメーカーを一体化することで企業価値を高めるのが狙いです。今回のM&Aの狙いや交渉の舞台裏、PMIの考え方、今後の成長について、平氏の経営戦略に迫ります。
菓子専門卸から川上へ
製造機能との一体化で企業価値を高める
今回、2社を買収した狙いを教えてください。
もともとナシオは菓子専門卸です。今後、会社としての価値を高めていくためには、川上にある製造業と一体化することが重要だと考えました。卸だけではなく、製造機能を持つことで、ナシオとしてできることが増えます。製造と卸を組み合わせることで、事業の幅を広げていきたいというのが今回のM&Aの大きな狙いです。
ナシオがM&Aを行うのは約32年ぶりです。前回は北海道から東京に初めて進出する際に、日配の卸メーカーを買収しました。前回はエリアを広げることが目的でしたが、今回は性格が全く異なります。今回は、単純にエリアを広げるのではなく、川上に進出して製造機能を取り込むことで、ナシオグループとして、企業価値を高めていくことを目指しました。
数ある菓子・スイーツメーカーのなかで、株式会社プレシア(神奈川県厚木市)とヨネザワ製菓株式会社(埼玉県三芳町)の2社を選んだ決め手は何だったのでしょうか。
まず、シナジーを出すためには、工場の品質管理がしっかりしていることが重要です。コンビニエンスストアに商品を卸しても問題ないレベルの品質管理認証を取得していること。そして、十分な製造キャパシティを持っていることを重視しました。
もう一つ、ナシオが卸である以上、「平等性」も非常に重要でした。例えば、ナシオがある大手菓子メーカーを買収してしまえば、競合する別のメーカーから「ナシオには商品を卸しにくい」と思われる可能性があります。卸として、さまざまなメーカーの商品を扱う立場を維持しなければなりません。
その点、今回取得した2社は全く違う業界の子会社だったこともあり、業界内で特定のメーカー色がつきにくかった。さらに、大手コンビニエンスストア向けのPB(プライベートブランド)製造実績もあり、われわれが求めていた条件に合致しました。
M&Aアドバイザーにストライクを選定した理由や、ストライクの役割についてはどうでしたか。
ナシオには、それまでM&Aの専門部署がありませんでした。前回のM&Aからも長い時間がたっていましたから、自社だけで進めるのは難しい。そこでFA(ファイナンシャル・アドバイザー)を探すことになりました。何社かに相談しましたが、最終的にストライクに決めたのは、アドバイザーとしての実績と完全成功報酬型で最後まで一緒に走り切る真摯な姿勢でした。
プロセスの中では、ストライクが様々な情報を整理し、懸念点も含めて丁寧に伝えてくれました。各フェーズにおいて、情報や選択肢がよく整理されていたため、私の方でその調整や交渉の過程は任せることができた。そのため、重要な意思決定に集中することができました。
実際の交渉はかなり難しかったそうですね。
いくつか交渉の問題はありました。一番大きかったのは、交渉中に対象2社で不正会計の問題があることが分かったことです。すでに報道されてはいましたが、買収する側としては財務面だけでなく、組織面も含めて影響を考えなければなりません。売り手側は上場企業ですから決算などのスケジュールもあります。ゆっくり検討することは出来ません。
「不正会計についてしっかり確認しなければならない。しかし、時間もない」という二重のプレッシャーがありました。我々の主観ですが、情報も十分ではありませんでした。情報をキャッチボールしながら分析したいところですが、その時間が限られていた。少ない情報で意思決定をしなければならなかったという点は、かなり大きな山でした。
決め手は「味の良さ」、と営業・マーケティングの伸びしろ
そこまで難しい条件のなかで、最終的に買収を決断した理由は何だったのでしょうか。
一番気に入ったのは、やはり製品の「味」です。2社ともに本当においしい商品をつくっている会社でした。そこは絶対的な強みだと思いました。正直、途中では「やめようかな」と思ったこともあります。それでも、味の良さを持っている会社だったので、その良さをなくしたくないと思いました。優れた商品を製造する会社であれば、将来的には絶対に伸びるだろうと考えたのです。
一方で、両社ともいいものを作る力はあるのですが、マーケティングや営業にはまだ伸ばせる余地があると感じました。つまり、商品そのものには大きな魅力がある。そこにナシオの営業力や販売力を組み合わせれば、さらに成長できるのではないかと考えました。
上場企業の子会社だったことも、経営のあり方に影響していたのでしょうか。
営業の人たちが、本来なら外に出て商品を売ったり、販売促進をしたりするために使うべき時間を、親会社への数字報告にかなり使っていた面がありました。ナシオは非上場ですから、短期的な数字だけを追いかけるのではなく、中長期で考えることができます。今は数字が出なくても、1年後、3年後にしっかり成長すればいい。そういう考え方で経営できることも、今回の買収に意味があると考えました。
PMIでは、どのようなことを重視していますか。
劇的な変化はあまり好みません。「ウチが親会社なのだから、こちらのやり方に合わせなさい」という上下関係ではなく、できるだけ平等な目線で関わりたい。こちらの社風を一方的に押し付けることも避けたいと思っています。もちろん、変えるべきところは変えます。ただ、相手がこれまで積み重ねてきた良いところは、しっかり残したい。
実際、ヨネザワ製菓にはナシオが学ぶべきところもたくさんありました。経理や総務、工務などが長年の経験によって、少人数で非常に効率的なオペレーションをしています。安全衛生に関する取り組みもしっかりしている。エネルギーコストについても、電力会社の切り替えや井戸水の活用など、細かな改善を積み重ねています。
工場でPDCAを回すことも徹底している。会社の規模ではなく、こうした取り組みをきちんと続けていることがすごいと思います。わが社の工場でも、まだ十分にできていない部分があります。そうしたところは、むしろわれわれが学んで取り入れていきたい。M&Aは、買った側が一方的に教えるものではありません。相手から学ぶことも非常に多いと思っています。
「日配」「工場」「物流」「システム」でシナジーを追求
具体的には、どのようなシナジーを描いていますか。
一つは日配流通の拡大です。今回取得した会社の日配商品の納品ルートを活用して、ナシオの商品を全国にもっと展開していきたい。ナシオは北海道が地盤ですから、北海道フェアなども得意です。これまでは常温の商品が中心でしたが、今後は冷蔵商品の取り扱いも広げていきたいと考えています。物流についても、これまで各社が個別に行っていた部分を一体化していくことができます。
もう一つは工場の稼働率です。取得した会社の空いているラインを活用して、グループ商品の製造を増やす。工場の稼働率を上げることで、売上と利益を生み出していきたいと考えています。さらに、システム面でもシナジーがあります。ナシオには自前のシステム部隊があり、これまで外部に委託していたグループ企業のシステム開発を内製化することで、コストを削減し、利益率を改善していきたい。
小売店との関係にも変化がありそうですか。
そこは非常に大きいですね。実際、北関東の小売店からは、早くも「プレシアとも取引したい」との指示をいただき、商品開発が動き始めています。これまで、プレシア側では、ナショナルブランドを強化するのか、PBの受託製造を強化するのか、方向性が少しぶれていたところがありました。ナシオグループに入ったことで、今後はどちらか一方ではなく、両輪で対応していきます。
M&A後の業績については、どのように見ていますか。
さまざまなシナジーを仕込んでいますが、今年は我慢の年になるかもしれません。しかし、短期的な数字だけを見て組織を壊してしまってはいけない。中・長期的な視点に立って、焦らず、一歩先を見ることが大切だと思っています。
2社の不正会計については、今後どのように向き合いますか。
無理なトップダウンは絶対にやってはいけない。「何が何でも売上を作れ」というような指示を出せば、現場が歪んでしまいます。食品業界では、前年と比べてどうなのか、そこからどれだけ伸ばすのかという考え方が重要です。無理な数字を追いかけるのではなく、あるべき姿に戻していくことが大切だと思っています。
今後のM&Aは菓子・スイーツメーカー、農場買収で川上への進出も
今後、M&Aを続けるとしたら、どのような会社を対象にしたいですか。
やはり菓子・スイーツのメーカーですね。今回、菓子製造業をグループに迎えたことで、卸と製造を組み合わせる面白さが見えてきました。今後もメーカーとのM&Aは考えていきたいと思っています。
それとは別に、極論ですが、牧場を買ってしまうというアイデアもあります。工場が厚木にありますから、神奈川や静岡など近い地域で、自前の生乳から生クリームまで作れるようになれば面白い。
自分たちでこだわって育てた牛から取った乳を使って、プレミアムな菓子を作る。原価低減につながる可能性もありますし、一部を観光農園にすれば、ブランドの認知向上にもつながります。「ナシオ農場」のようなストーリーができれば面白いと思っています。
10年後、20年後、ナシオをどのような会社にしたいですか。
企業価値を高めて、永続できる会社にしたい。私自身は「同族企業・110年企業」という志を持っています。次に誰が継ぐかはまだ分かりませんが、きちんとバトンタッチできる状態まで企業価値を高めておきたい。
上場については、会社や取引先、従業員のためになるのであれば、一つの選択肢だと思っています。ただ、現時点で上場を予定しているわけではありません。目指しているのは、サントリーのような会社です。長く続き、企業としての価値を高めながら、次の世代に渡していける会社にしたいと思っています。
「おいしいお菓子で、笑顔と幸せを届けたい」
ナシオが社会にどのような価値を提供していきたいか、お聞かせください。
お菓子、スイーツの会社なので、やはり笑顔を届けたいですね。おいしいお菓子を届けて、楽しんでもらう。先行きが不透明で、いろいろと大変なことがある中で、お菓子を食べる時間が少しでも気持ちを楽にする時間になればいい。
自分へのご褒美でもいいと思います。面白いお菓子、おいしいお菓子を作って、幸せを届ける。それがナシオの仕事だと思っています。
最後に、M&Aを検討されている経営者の方へ、ご自身の経験を踏まえたメッセージをお願いします。
M&Aは、われわれにとっても久しぶりの取り組みでしたので、実際に進めてみるといろいろな課題がありました。ただ、M&Aを検討されている経営者の方には、最初からすべてを自社だけで判断しようとする必要はないと思います。われわれもM&Aの専門部署があったわけではありませんので、専門家に土台を作ってもらい、その上で経営者として判断するという進め方をしました。
そして、条件や数字だけではなく、「この会社には何があるのか」をしっかり見ることが大切だと思います。今回、私が最後に決断できたのも、対象会社が持っていた商品のおいしさや、ものを作る力に大きな魅力を感じたからです。M&Aは会社を買って終わりではありません。買収した会社の良いところを残しながら、自社の強みと組み合わせて、どう成長させていくかが重要です。
これからM&Aを考える経営者の方には、短期的な数字だけではなく、5年後、10年後に自社がどうなっていたいのかを考えたうえで、M&Aを一つの選択肢として検討してはいかがでしょうか。
公開日:2026年9月24日
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M&Aアドバイザーより一言
株式会社ストライク
執行役員 成長戦略部統括
松田拓馬
株式会社ストライク
成長戦略部 アドバイザー
鈴木温大
ナシオ様にとって約32年ぶりとなる本格的なM&Aに携わることができ、大変光栄に感じております。今回の案件では、ナシオ様が培ってきた菓子卸としての販売力と、プレシア様とヨネザワ製菓様が持つ製造機能・商品力を掛け合わせることで、製造と卸の一体化による新たな成長が期待できる案件となりました。
特に、対象会社の商品に対するナシオ様の高い評価と、そこに自社の販売力を組み合わせていこうという強い意思が、成約に向けた大きな原動力になったと感じています。
交渉過程では、慎重な検討を要する局面もありましたが、ナシオ様の迅速な意思決定と、関係者の皆様のご尽力によって無事に成約を迎えることができました。成約後、早くも小売店から両社の商品開発への期待が寄せられるなど、具体的なシナジーが動き始めていることを大変嬉しく思います。
今後、日配商品の流通拡大や工場の稼働率向上、物流・システム面での連携などを通じて、今回のM&Aがナシオ様、そして両社のさらなる成長につながることを心より期待しております。