INTERVIEW

破たん目前の会社を託された娘
劇的に業績を改善し、スピード譲渡を実現

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西平 加奈子 氏

株式会社YUAN(現:株式会社global life care)元・代表取締役社長
有限会社メディカルステップ 代表取締役
西平 加奈子 氏

大阪府大阪市で住宅型有料老人ホーム「遊庵」を経営する株式会社YUAN。同社は、今回インタビューさせていただいた西平氏の母親が2015年に創業した。しかし、創業してまもなく同社の経営は行き詰まる。創業1年で3千万円以上の赤字、3億円以上の債務超過――。その再建を託されたのが西平氏だ。西平氏はわずか1年で黒字にし、さらに2年後には安定した会社に同社を譲渡することに成功した。そのご経験について、お話を伺った。

職場の雰囲気が明るくなるにつれ従業員の働き方に自主性が生まれ、
入居者や地域の評判も向上

社長を引き継がれた経緯を教えてください

YUANは、私の母親が2015年9月に創業した住宅型有料老人ホーム「遊庵」の運営会社です。両親はどちらも医者で、診療所の経営と共に訪問診療サービスを行っています。訪問診療は、患者さんのご自宅だけでなく、有料老人ホームなどの施設も対象でした。今後さらに訪問診療を増やせるようにと、自前で有料老人ホームを建て、経営に乗り出したのです。

しかし、介護施設の経営は甘くありません。また、母には本来の医者としての業務があり、介護施設に足しげく通って経営を見ることができませんでした。創業してまもなく従業員の離職が続き、介護サービスの品質は低下していきました。施設の評判も悪くなり、入居者を増やすどころではありません。私は後で知ったのですが、初年度の決算は、売上高が約1千万円、営業損失は約3千万円、約3.5億円の債務超過でした。このままでは、この会社は破たんする。母はもう自分が経営するのは無理だと判断し、2つの会社を経営していた私に再建を依頼してきました。

私としては、自分の会社経営に集中しなければならないのに、さらに赤字会社の再建を担うのは難しいと思って、最初は断りました。でも、再建できなければ、両親は借り入れの担保となっている診療所や自宅を手放さなければなりません。赤字の会社は家族の問題だったのです。娘でなければ引き受けなかった話ですが、このような経緯で17年5月、YUANの2代目社長に就任しました。

どのように再建に取り組まれたのでしょうか?

西平 加奈子 氏
従業員一人ひとりとコミュニケーションをとり、「私を信じて3ヵ月残ってくれたら、必ず問題を解決して職場環境を良くします!」と約束した。「良いビジネスは自己犠牲の上には成り立たないので、自己実現のために頑張ってほしいと皆に伝え、評価制度や労働環境を改善していきました。すると皆の意識がどんどん変わって、職場の雰囲気も明るくなった。業績も一気に改善して、債務超過も解消できました」

介護施設の経営は初めてで、何もわかりませんでしたが、経営がうまくいかない原因の一つは、明らかに離職率の高さでした。従業員が辞めてしまう原因は何なのか?そこで、全従業員と一人ずつ面談することから始めました。

面談して従業員の不満に耳を傾けていると、従業員同士の人間関係が良くないことや、その要因となっている労務上の問題が見えてきました。今すぐに辞めたいと泣き出して訴える従業員もいました。そこで、「私を信じて3ヵ月残ってくれたら、必ず問題を解決して職場環境を良くします!」と従業員たちと約束したのです。また、「介護業は、他人のために自分を犠牲にして働くというイメージがあるけれど、私は違うと思う。良いビジネスは自己犠牲の上には成り立たない。きちんと利益を上げ、他人のためではなく、みんなの自己実現のために頑張ってほしい」とも伝えました。従業員たちからは、「この人は何を言っているのだろう?」と受け止められていたと思います。

それから私は土日も含めて毎日、遊庵に通い始めました。本業の2社と遊庵の“三足のわらじ”を履く目まぐるしい日々でした。ただ、介護施設に昼も夜も通って従業員たちと話すうち、私という人間を徐々に理解してもらえるようになっていると感じました。社長が変わり、社長と従業員の関係が変わり、評価制度や労働環境を改善していくことで、職場の雰囲気はどんどん明るくなりました。介護は人が辞めやすいと言われますが、遊庵では離職する人はほとんどいなくなりました。

従業員たちの意識も変わり、当たり前だった遅刻がなくなって、働き方に自主性が生まれてきました。「入居者が心配だ」と言って早く出勤し、時間が空いたら仕事を探し始めるのです。さらに、従業員がヘルパー資格を持つ家族や友人を社員にどうかと紹介してくれるようにもなり、従業員の数は増加に転じました。

ほどなくして、入居者の方から、「ヘルパーが優しくなりサービスが良くなった」と言っていただく機会が目に見えて増えてきました。良い口コミが広がったのか、地域の難病センターからも「遊庵さんなら」と新規入居を紹介していただけるようになり、要介護度の高い、すなわちサービス単価の高い入居者対応にも挑戦できるようになりました。難度の高いサービスは嫌がるヘルパーも多いものですが、従業員たちは自分たちの勉強にもなるからと、主体的に取り組んでくれました。職場の雰囲気が良くなると業績も一気に改善して、私が着任した2年後には売上高が約1.7億円、営業利益は約6千万円となり、債務超過も解消できたのです。その頃には、従業員たちも「きちんと利益を上げて、自己実現のために頑張る」という意味を理解してくれたのだと思います。

M&A前提の再建だったため、業績改善後すぐに買い手探しをスタート

会社を譲渡するタイミングはどのように考えましたか?

私は最初から、再建できたら譲渡するつもりでした。先ほどもお話ししたように、私は本業として会社を2社、経営しているので、YUANの再建を託されたけれど、本当は1日も早く自分の本業に集中したい。一方で母は経営に自信をなくしており、再建できたとしてもYUANに復帰する気持ちは一切ありませんでした。ですから、私は再建したら譲渡することを前提に、社長を引き受けたのです。M&Aの交渉についても、母から一任されました。譲渡に当たっての一番の希望は「早く譲渡したい。」つまり成約までのスピードでした。

真剣に譲渡を考え始めたきっかけは、2つあります。1つは、業績が改善してきたことです。専門家から、一般的な同業者と比較してもかなり良いと言っていただける業績になったので、それなら買ってくれる会社があるのではないかと考えました。けれども、業績が良くても、会社の中身がボロボロだったりすると、買い手企業に迷惑をかけてしまいます。それは嫌でしたので、YUANが運営面でも問題ないかどうかを知りたいと思っていました。

そこで、もう1つのきっかけとなったのが、行政による実地指導でした。実地指導とは、数年に一度、行政の担当者が来所して、法令に遵守した適正なケアマネジメントが行われているかどうか確認するものです。実地指導では、高齢者の虐待防止と身体拘束禁止等の観点からサービスの質の向上に向けた運営指導と、不適正な請求の防止を目的とした報酬請求指導がなされます。これで問題なければ、対外的にクリーンな施設運営ができている証明になります。そして実地指導の結果、これほどきっちり運営している施設はあまりない、という高評価をいただくことができました。それで業績面と運営面の両方に自信を持つことができるようになり、本格的にM&Aを進めることにしたのです。

一番の希望である「スピード」が叶い、約2ヵ月という短期間で、良い買い手企業にめぐり合えた

実は、私が取り組んだ最初の頃のM&Aは、ストライクさんではなく別のM&Aアドバイザーに依頼していました。そして、2社の買い手企業を紹介され、どちらも最終契約の間際まで進みました。でも、後になって買い手企業側のタイミングが悪かったことが判明したり、融資が下りず買収資金を調達できなかったりして、結果的に両方とも破談になってしまいました。そこで改めて、ストライクの斉藤さんに相談に乗ってもらいました。

M&Aアドバイザーの印象について教えてください。

西平加奈子氏とストライク斉藤
M&A破談も経験した西平氏。M&Aアドバイザーには正確な情報を伝えてもらうことが重要だとアドバイスする。「今思うと、破談したM&Aでは、良いことばかり聞かされていましたが、M&Aの交渉が進むと、希望に沿わないことや聞きたくないことも出てくるはずです。その点、ストライクの斉藤さんは、いつも本当のことを伝えてくれましたし、厳しいことも言ってくれました。また買い手企業さんに対しても、伝えるべきことをビシッと伝えてくれました。それで、安心してM&Aの交渉を進められたのだと思います」(写真左はストライク担当の斉藤)

破談した2件のM&Aでは、アドバイザーは、絶対にまとまる、大丈夫だと、とても良いことを仰っていました。何を聞いても「大丈夫です。安心してください」という返答で、どうして安心なのかは具体的に説明されませんでした。結局、どちらも買い手企業の都合で破談になってしまいました。

その点、ストライクの斉藤さんには、安心して仕事を任せることができました。M&Aの交渉が進むと、私たちがあまり聞きたくないこと、希望に沿わないことも出てきますが、斉藤さんはそのようなときも誠実に、本当のことを私たちに伝えてくれました。私たちに対して厳しいことを言いますが、逆に買い手企業に対しても、伝えるべきことをビシッと伝えてくれました。それで、安心してM&Aの交渉を進めていけたのだと思います。

私が一番希望していた「スピード」についても、ストライクさんはとても速かったです。正式に依頼することとなり、M&Aに必要な資料一式をお渡ししてから買い手企業の探索が始まって、約1 ヵ月後には今回の買い手企業さんと最初のトップ面談を実施。さらにその1ヵ月後には最終契約を締結することができました。想像していた以上のスピードです。約2ヵ月という短期間で、とても良い買い手企業とめぐり合わせてもらうことができました。

M&Aアドバイザーもさまざま資質や相性を見定めることが大切

M&A後の周囲の反応はいかがでしたか?

母はYUANの経営から退いた後、元気をなくしていましたが、会社の譲渡が決まったことを伝えると、「やっと肩の荷が下りた」とホッとして喜んでくれました。母は株主ですし、借り入れの担保の件もありましたから、相当な重圧がかかっていたのだと思います。私にも感謝してくれました。

従業員たちにも最終契約が終わってから伝えました。最初は「寂しい」「どうして」という声も聞こえましたが、私は介護のプロではないし、ここを立て直すために来たというのは薄々感じていたようです。M&Aにより、みんなは上場企業のグループの一員となり、これから良い経営者が来るのだと説明をすると、急に喜び始めました。「私たち、次の社長の元でも頑張ります!」とも言ってくれました。思った以上に喜ばれましたが、それも従業員たちが社長に依存するのではなく、仕事に誇りを持ち、自主的にやっていく自信が持てるようになったから。とても心強く思いました。

買い手企業にはM&A後も、いろいろと気を配っていただきました。老人ホームの「遊庵」という名称を変更するときも、事前に名称を変更してよいか確認してくださいました。私としては、譲渡したのだからご自由にしていただいてよかったのですが、お声がけくださるそのお気遣いは本当に嬉しかったです。

同じような立場の経営者の方に対してアドバイスをいただけますか。

最初に2社の買い手候補とのM&Aが破談になったものの、その後、ストライクさんにお願いして順調に成約に至りました。最初の2社のM&Aでもアドバイザーがついてくださったのですが、アドバイザーもいろいろで、安心できる方もいれば、その逆の方もいらっしゃいます。相性もあるでしょう。アドバイザーには会社を、ひいてはたくさんの従業員の人生を託すわけですから、それに足りうるプロフェッショナルであるか否かを、依頼する側がしっかり検討する必要があると思います。ご相談される場合は、アドバイザーの資質やご自身との相性をしっかり見定めることが大切です。

本日はありがとうございました。

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