INTERVIEW

後継者不在で動物病院をM&Aで譲渡
大手企業のグループ会社となり
ドラッグストアに併設した分院を開く

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有限会社小諸動物病院 取締役 院長 竹村 誠一 氏

有限会社小諸動物病院 取締役 院長 竹村 誠一 氏

開業から41年を迎えた長野県小諸市の有限会社小諸動物病院。県内で数少ないCT検査機器を設置し、2つの診察室を備えた充実した医療設備で、竹村誠一院長を含む3人の獣医師がペットの健康を見守ってきた。後継者不在によりM&Aを検討、上場企業の綿半ホールディングス株式会社(本店・長野県飯田市)傘下の株式会社綿半ホームエイド(長野県長野市)に全株式を譲渡し、2023年3月に同社グループに加わった。近隣地域で動物病院の開業が続くなか、「経営を常に気にかける生活から解放された」と話す竹村院長に、M&A成約までの道のりを振り返ってもらった。

開業から41年、腹腔鏡手術で実績
60代になって第三者承継を考える

竹村院長が始められた小諸動物病院の特徴から教えてください。

小諸動物病院外観
長野県小諸市で開業から41年目の小諸動物病院。

26歳のときに一人で開業して今年で41年になります。現在は私のほかに獣医師が2人、愛玩動物看護師7人で診療に当たっています。設備投資には力を入れてきて、レントゲン撮影では確認しづらい腫瘍などを早期発見できるように、手術室にCTを併設しています。CTを備えた動物病院は県内でまだ4施設くらいだと思います。動物の身体への負担を軽くする腹腔鏡手術も約10年前から取り組んできて治療実績があります。

1代で築かれた動物病院をなぜM&Aで譲渡しようと思われたのですか。

後継者がいなかったからです。3人の娘は獣医師ではないので親族の承継ができない。設備投資をしてきましたから、希望する譲渡額は個人が買える範囲を超えるので、長く勤めてくれている獣医師に引き受けてもらうことも難しい。規模を縮小しながら、できるまで続けて閉じようかという考えもあったのですが、どこかの企業が譲り受けてくれないかと、60歳を超えたころから漠然と考えていました。

今年67歳とのことですから、7年前くらいから考えていたわけですね。

有限会社小諸動物病院 取締役 院長 竹村 誠一 氏
お話を伺った竹村誠一院長。
7年ほど前から第三者承継を検討していた。

「M&Aに興味ありませんか」と飛び込みで営業に来られる会社もありました。私のイメージでは、そういう会社は買い手側の意向が先にあって、安く買い叩かれるだろうと思って応じませんでした。売り手と買い手双方に中立的な立場で信頼できるところにお願いしたいと考えて地元の銀行に相談したところ、ストライクさんをご紹介いただきました。その地銀とは開業時からの長いお付き合いですから、その紹介であれば買い手主導にはならないだろうと思いました。ストライクのご担当の松岡さんと最初にお会いしたのが2022年2月でしたね。

そこから譲渡先の選定に入ったわけですね。

松岡さんがまず同業者やペットショップなど50~60社をリストアップしてくれましたが、なかなか合うところがなくて。同業者だと診療方針が違ったりしますし、県内の顔見知りの先生のところに譲渡するのは気が重いので避けたいと思いました。そのリストにはなかった候補先として、後に単独で綿半さんのお名前が挙がりました。

「一緒になると面白いことが起きそうだ」と思えた
譲渡後は経営者としての心の重しが取れた

綿半さんは長野県内を中心にスーパーマーケットやホームセンターなどの小売業のほか、建設、貿易事業などを展開する上場企業です。名前を聞かれてどのように感じましたか。

長野県民にとってはテレビコマーシャルでなじみのある大手企業ですから、とにかくお話を聞いてみようと思いました。綿半さんから譲受の意向表明書が出されて、お会いして印象的だったのは、社員の皆さんの明るさです。保守的でなく、前に進もうとするエネルギーがある。一緒になることで面白いことが起こるんじゃないかと感じました。

譲渡の条件として提示されたことは何でしょうか。

小諸動物病院内観
長野県内の動物病院では数少ないCTを備えている同院。

スタッフの給与などの待遇維持が一つと、病院で飼っている犬2匹と猫5匹を死ぬまで養うことを条件としました。国道に面した窓ガラスから室内の猫たちが見えるのですが、信号待ちの車からよく見えて、私たち病院の看板猫なんです。仕事はそれだけではなくて、治療の際に血を提供するドナー犬猫でもあります。従業員同然なので絶対条件でお願いしました。私に関しては、最低でも3年は働いてほしいと言われて合意しました。

2023年3月に成約されました。譲渡されて何が変わりましたか。

経営者としての心理的な重しが取れました。患者さんが少ない日が続くと結構堪えるんです。スタッフの給料を支払わないといけないわけですから。長野の小諸、佐久、軽井沢などの東信地区はこの数年、動物病院が増えています。変な話ですが、電柱広告の「動物病院」という言葉だけが、どこに行ってもパッと目に入ってくる。常に経営を気にかける感覚が染みついていました。譲渡後はそうした気持ちが薄れてきた感じがします。

手続きを進めるにあたって大変だったことはありますか。

ストライクの松岡さんからの求めで、不動産登記簿をはじめ、土地や家の購入時の領収書や記録などの必要書類を整える作業ですね。病院の土地を買い増したり、増築したりしたときの書類をあちこちにしまっていたので、探すのに一苦労しました。一カ所にまとめておくべきでした。交渉段階ですから、スタッフに知られないように病院を閉じた後、一人で作業するので結構ハードでした。

M&Aをスタッフの皆さんに伝えられたときはどんな反応がありましたか。

成約する1カ月前くらいに獣医師の2人と主任看護師にまず伝えて、数日後に全員に話しました。先生が築いてきた病院だから先生が良いと考えることを進めてくださいといった感じで、否定的な意見もなく受け入れてくれました。

M&Aアドバイザーより一言(松岡 祐介・法人戦略部アドバイザー談)

ストライク松岡

小諸動物病院様は長年当地の動物医療を担っており、竹村院長と奥様の様々な想いが詰まった動物病院です。特に、県内でも数少ないCTを導入されている等、医療の質に対する想いや、会話の端々に出てくる従業員の皆様への気づかいや感謝の気持ちが印象的でした。
綿半様は小諸動物病院様の事業的な部分だけでなく、そのような想いの部分も汲み取っていただきご成約に至りました。
本件により、今後安定して永続的に地域の動物医療に貢献できる地盤ができたのではないかと思っております。
ご成約後は両社の強みを活かした事業展開がスピーディーに進んでおり、新聞記事にも取り上げられる等、双方にとって良い方向に動いている様子がうかがえ、担当者として大変嬉しく思っております。
今後も両社の更なる発展・成長を願っております。

共同でオリジナルのペット商品開発も
新たな人材獲得にも期待

ストライクのサービスや担当者についての感想を教えていただけますか。

小諸動物病院の竹村誠一氏、ストライク松岡
担当者の熱意も譲渡を後押しした(写真左:ストライクの松岡)

率直にいうと、担当が松岡さんじゃなかったら譲渡しなかったかもしれないなと思います。実は最初に想定した譲渡額から少し減額することになったんです。それを受け入れるか、綿半さんというせっかくのご縁だけれどお断りするか、迷う時期がありました。結果的に話を進めたのは、松岡さんの誠実さでした。すごく一生懸命に資料を作ってくれるし、この病院に東京から通って来てくれるわけです。その熱心さに私がヘトヘトになって降りたという感じも多少ありますが(笑)、ただ、まったく後悔はないですし、M&Aをやって良かったと思っています。

綿半グループに入っての今後の展開、期待することを教えてください。

綿半グループの「くすりのほしまん佐久中央店」を全面リニューアルして6月30日に、「ウェルネスライフ佐久中央店」がオープンしました。そこに別の場所にあった小諸動物病院の分院を移して併設しました。トリミング施設やドッグランも設けられていて、人も動物も同じ家族だと考えた新形態のドラッグストアです。この分院に患者さんが集まるように成功させることが第一です。そして、これから先については、病院監修のペットシーツや犬の歯磨きガムなどのペット商品を綿半さんと開発してプライベートブランドとして販売する計画もあります。そうしたM&Aによる相乗効果を図っていければと思っています。もう一つは人材の獲得です。綿半グループに仲間入りしたことで、獣医師や看護師を迎え入れやすくなることに期待しています。

最後にM&Aを考えている人に経験者からのメッセージをお願いします。

個人の感想ですが、もっと早くM&Aを検討すればよかったと感じています。この規模の動物病院を身内以外の個人が継ぐのは資金的に難しいですし、ペット人口の多い都心部ならば何社も候補が挙がるでしょうが、地方は買い手先が限られます。後継者がいない場合は、私のような年齢になる前に検討に動くほうが良いように思います。

今回のM&Aは新聞にも載ったので、周りからいろいろな声をかけられました。「よかったね、おめでとう」と言ってくれる人もいれば、「乗っ取られたの」なんて言う人も。M&Aという言葉は知っていても実情まではわからないので受け取るイメージはさまざまでしたね。ただ、同級生からはうらやましがられました。企業勤めであれば定年を迎えた年齢ですから、これからも給料をいただいて獣医師という仕事に専念できる。それは幸せなことだと感じています。

本日はありがとうございました。

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