INTERVIEW

長年付き合いのある同業者への事業譲渡
経営者も従業員もハッピーになるM&Aを実現

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山陽商事株式会社 代表取締役 前田 多恵子 氏

山陽商事株式会社 代表取締役 前田 多恵子 氏
米本合同税理士法人 税理士 山本 裕也 氏

兵庫県伊丹市に本社を構える山陽商事株式会社は、プロパンガスの販売を担うエネルギー事業部と、山林経営や林産物の製造売買を担うフォレスト・デザイン事業部の2軸で事業展開をしていた。同社の3代目で代表取締役の前田多恵子氏は2023年4月、長年付き合いのあった同業者にプロパンガス事業を譲渡。M&Aを検討したきっかけや、譲渡までの道のりについて、前田氏と同社の顧問税理士を務める山本氏にお話を伺った。

主力メンバーの定年退職を前に事業譲渡を決意

初めに前田様にお伺いします。御社の沿革を教えてください。

前田:戦後間も無くして、祖父がバスの運行会社を買い取ったことがきっかけでした。当時は薪炭林がとても繁盛していた時代で、祖父はバス会社の所有していた岡山県津山市の山に着目したそうです。その後は、林業を中心に営んでいましたが、津山市は大雪が降る地域で、冬場は山の仕事ができないため、その間の事業としてプロパンガスの販売を始めたと聞いています。

現在のプロパンガス業界の課題を教えてください。

前田:大きな課題の一つとして、配送員確保の問題が出てくると思います。プロパンガスの運搬には普通自動車免許とは別にトラックの免許が必要です。しかし、「物流の2024年問題」と言われているように、トラックドライバーの時間外労働の上限が設けられることによる制限がプロパンガス業界にも影響を及ぼすと考えています。また、地方からの人口流出は加速しているので、空き家も多く、配送効率が上がらないという課題もあります。

また、どこの業界も同じだと思いますが、人材確保は大変です。ガスの販売事業は「重いボンベを運ばないといけない」とか「24時間体制に対応しなければいけない」などのイメージもあるため、敬遠されがちな業界の一つです。若い人たちにどのように魅力を感じてもらうかというのは長年の課題ですね。

今回、事業譲渡を検討されたきっかけを教えてください。

前田:26歳で入社をしてから、主力メンバーとして事業を引っ張ってきてくれた社員の定年退職の時期が迫っていたことがきっかけでした。彼がいなくなったら人数も足りなくなってしまうため、彼の退職までにプロパンガス事業をどうするのか結論を出さなければいけませんでした。人材募集をした時期もありますが、やはりなかなか難しい。いよいよどうにかしなければいけないと思っていたときに、常々ご相談をしていた税理士の山本先生から「事業譲渡はどうか」と提案をいただきました。

また、仲良くしている同業者の方が、後継者不在という理由で譲渡されている様子を見ていたこともあり、自分の中で事業譲渡の選択肢が大きくなっていきました。それまでも、M&A仲介会社さんからたくさんお知らせはいただいていましたが、ちょっと胡散臭いなと思っていたんです(笑)。だから、一人で踏み出す勇気はなかったのですが、山本先生もいらっしゃったので本格的に検討することにしました。

山本:前田さんからご相談をいただいた頃、ちょうどストライクさんにご挨拶に来ていただき、その流れでご相談しました。M&Aの流れなどは把握していましたが、企業価値の算定やスケジュール感など、質問に対してもその場ですぐにご回答いただくことができたので、滞りなく進行ができると思いました。M&A仲介会社の中でも大きい会社の一つなので安心感もありましたね。

前田:山本先生とお話をして、M&Aの流れのイメージをつかみ「やれるかな」と思い始めたころ、過労が原因で出張先で倒れてしまうということがありました。同時期に、高齢の母が手を骨折してしまいました。いずれは介護が必要な時期が来ると思ってはいましたが、急に現実味を帯びてきました。プロパンガス事業は24時間体制なので、最高責任者の私は何かあったらすぐに駆けつけなければなりません。母は元気になりましたが、これから先、自分も含めて、いつ何が起こるかわからないと考え、山本先生に「早めに動きたいです」と伝えました。

長年付き合いのある同業者だからこそ安心して譲渡ができた

譲渡先企業とは、もともとお知り合いだったそうですね。

山陽商事株式会社 代表取締役 前田 多恵子 氏
山陽商事(株)代表取締役の前田 多恵子氏。主力メンバーの退職時期が迫っていたことや、自身の体調面の不安から当初の予定より早く事業譲渡に向けて動き出した

前田:30年くらい前からのお付き合いです。一緒に展示会をしたり、ガスを充填させてもらったりと、親しくさせていただいています。事業譲渡を考え始めた当初から「一番スムーズに譲渡できるのはこのお相手だろうな」と思ってはいましたが、興味を示してくださらなかったらどうしようという不安がありました。実際、手をあげてくださったのは交渉ギリギリのタイミングでした。

すでに何社かと面談をさせていただき、譲渡先候補が95%くらい決まっている状態で、今回の譲渡先企業と面談をしました。面談当日、ドキドキしながら部屋に入ると、日頃からお付き合いのある支店の支店長と課長がいて驚きました。なぜなら、課長と弊社のベテラン社員は、10日に1回くらいは一緒にお昼を食べるほど、すごく仲が良いのです。それからはとんとん拍子にお話がまとまりました。運命だったのかなと思います。

今回は、基本合意からクロージングまで2週間という異例の早さでした。

前田:先方のこともよく知っていましたし、こちらの提示した条件も快諾してくださったのでスムーズに進んだのだと思います。先方は最近、年齢の若い社長に交代されて、時代に合わせた経営に変わってきているなと感じていました。特に津山支店は30代の方が中心になっていて活気があり、みなさんの仲も良い。それを見ていて羨ましいなと思っていました。弊社の社員は、お相手先より年齢層は少し上ですが、展示会の時なども弊社の社員のことを「お兄さん」という感じで慕ってくれている様子だったので安心できましたね。

今回の事業譲渡において大変だったことなどはありますか?

前田:M&Aにおいて一番難しいことかもしれませんが、やはり従業員に譲渡の意向を伝える前後は、精神的にも辛かったですね。みんな、なんとなく気づいている様子もありましたが、いざ現実になったときにすんなりと受け入れてもらうのはなかなか難しかったです。ただ、3日後くらいにはみんな気持ちを前向きに切り替えてくれました。感謝しています。

また、譲渡先企業への切り替えが始まって1週間くらいはお客様の反応に対しても緊張していました。実際はこれまでの担当社員がお客様対応をできていることもあり、今のところ大きな問題はありません。3月31日に社員を送り出して、4月には新入社員が入ってきて、会社としてバタバタする時期が続きました。忙しすぎて記憶が一部曖昧です(笑)。最近は少し落ち着き、やっと肩の荷がおりてきましたね。

M&Aアドバイザーより一言(堀口 拓矢・コンサルティング部アドバイザー談)

ストライク堀口

前田社長が5年後に自身にとっても社員にとっても良かったと思えるような資本提携にしたいという思いから本件はスタートしました。
お相手探しはスムーズに進み、当初は別の候補先様との提携を検討しておりましたが最後はドラマのような展開で、従来からお取引が深いお客様と提携されることとなりました。
M&Aをする上で契約の引継ぎや社員の待遇に関してはいつも議論の中心となります。
M&A後が想像できるのかどうかに加え、特に本件のような業種は引継ぎが肝になります。
その点はお相手候補先との迅速な対応により、数ヶ月で引継ぎを完了したとのご報告をいただきました。
TOP面談時に運命のようなものを感じましたし、巡り合わせやタイミングはあるのだなと本件を通じて私自身も学ばせていただきました。

日頃からM&Aを視野に入れ、チャンスを逃さないで欲しい

ストライクを利用していただいた感想をお聞かせください。

山陽商事株式会社 代表取締役 前田 多恵子 氏、ストライク堀口
前田氏(写真右)と担当の堀口(写真左)

前田:事業譲渡は初めてのことだったので、不明点が多すぎて、一人では到底できなかったと思います。通常業務に支障なく、譲渡の準備を進めていくことができたのはストライクさんのおかげです。

山本:過去に別の案件でM&Aの手続きをさせていただいたことがありますが、契約書の確認や行政の対応など、かなりの時間がかかりました。一方で、今回は担当の堀口さんのご尽力もあり、私は言われた資料をお渡しするだけで、負担に感じる部分は本当にありませんでしたね。非常に助かりました。お話もスムーズに進み、譲渡価額の面でも前田さんにとってプラスになりましたし、とても満足しています。

ありがとうございます。最後に、今回のご経験を踏まえて、メッセージをお願いします。

前田:もっと多くの経営者に、M&Aという選択肢を視野に入れて、検討して欲しいなと思います。私の周りにも、残念ながら廃業してしまった方がいますが、その会社にしかできなかったこともあると思いますし、困ってしまうお客様もいたと思います。日本全国を見れば、譲渡先候補となる企業はたくさんあると思うので、廃業の前に立ち止まってみて欲しいです。そして、M&Aを成功させるためには、経営者が自分のことだけを考えるのではなく、相手先に行く従業員もハッピーにしようという信念を持ち続けることが大切だと思います。

米本合同税理士法人 税理士 山本 裕也 氏
山陽商事(株)の顧問税理士を務める山本 裕也先生。

山本:近年はM&Aのご相談も増えていて、認知度が上がっていることを実感しています。そのなかで、自分の業種が売り手市場なのか、減退している時期なのかを把握できている経営者の方はあまり多くはありません。チャンスを逃してしまわないよう、決算が終わるごとに企業価値の評価をご提示していくなどして、M&Aを選択肢の一つとしていただけるように心がけています。「税理士の仕事はAIに取っていかれる」という声もありますが、M&Aや事業承継に関しては日頃のコミュニケーションが大切だと考えています。今後も望まない廃業を減らすために、積極的にお声掛けをしてご提案していきたいです。

本日はありがとうございました。

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