INTERVIEW

複数企業をグループ化して成長中
ユニークな社内広報施策により組織融和や一体感の醸成を実現

  • #選択と集中
  • #組織再編
  • #戦略的M&A
  • #物流・運送
つばさホールディングス株式会社 代表取締役 猪股 浩行 氏

つばさホールディングス株式会社 代表取締役 猪股 浩行 氏

つばさホールディングス株式会社(以下、つばさHD)は多摩地域を拠点として、主に物流関連の事業を展開する持ち株会社だ。事業拡大のためM&Aによるグループ化を積極的に進めており、2021年10月にフォスター電機株式会社より運送・整備事業を行うフォスター運輸株式会社(以下、フォスター運輸)の全株式を譲り受けた。今回の経緯やつばさHDのM&A戦略について、猪股浩行社長にお話を伺った。

地域の物流関連企業をグループ化
つばさHDが支援部隊となり
事業会社の組織改革や成長を後押し

つばさホールディングス(つばさHD)の沿革を教えてください。

つばさHDの母体は1973年に設立された高栄運輸株式会社(以下、高栄運輸)です。私が同社の経営に取締役として参画したのは、2011年の年末でした。私はもともと20歳代で調布・府中を拠点に引越しの会社を創業・経営しており、その頃のご縁で、同社の事業再生を手伝ってほしいと声がかかったのです。

当時の高栄運輸は経営陣とドライバーが相互不信に陥っていて、高すぎる人件費によりかなりの赤字を抱えていました。しかし私が参画し、会社がおかれる厳しい状況や改革後のビジョンを社員達に繰り返し語ることで、最大のハードルだった労働問題は解決し、再生は順調に進みました。高栄運輸は社歴が長く、有力な顧客が多かったこともあり、私が参画した当時は約5億円だった年商が、5年後には4倍の20億円へと拡大しました。働きやすい条件・環境を整えたことで、ドライバーを確保できたことが大きかったですね。「物流の2024年問題」と言われるように人材不足が物流業界の深刻な課題となっていますが、事業再生のプロセスで労務管理を改善し、有休の取得や時間外労働なども数値でしっかり管理する体制をつくりました。今ではドライバーが別のドライバーを誘ってくれるような形で人が集まり、定着してくれています。

その後、複数の物流業界の企業を支援・グループ化しています。

この業界は言ってみればレガシー(成熟した・遺産)産業で、当時の高栄運輸と同じような問題を抱えている企業が多いのが現状です。昔ながらの家族経営で社長がいろいろな実務を担い奥さんが経理をやって――という属人的な仕組みで何とかやっているが、経営基盤・資源が乏しく、厳格化する法律・規制に対応するのには限界がある。加えて後継者問題を抱えているところも多い。2025年には日本企業の約3分の1にあたる127万社の中小企業が黒字でも廃業の危機に陥ると言われています。現状のままでは物流業界でも多くの企業が生き残れないだろうと思います。

でも、実際に物流業界を支えているのはほとんどが中小企業です。AIが取って代われる業務はあっても、いわゆるラストワンマイル(=お客様へ商品を届ける物流の最後の区間)などはまだまだ人の手が確実に必要で、ニーズは高い。実は「ピンチはチャンス」で、経営基盤さえしっかり整えれば、中小企業の強みを生かしてさらに成長していくことが可能です。個々の企業が抱える課題を解決し、レガシーを受け継いで持続可能な産業に変えるとともに自分たちもグループとして成長していく。その想いで、M&Aによるグループ化を進めています。

2019年に持ち株会社体制に移行、つばさHDを設立されました。

持ち株会社は事業会社(グループ・関連会社)の支援部隊です。特に重要なのが総務や人事・労務、経理といったバックオフィス機能の提供です。各事業会社はまだ経営基盤を整えている段階で、例えば会計基準を整備するのにもプロフェッショナルの力が必要です。経営分析やマーケティングなども含めて必要とされる支援を行い、各事業会社が本来の業務に専念できるようにするのが持ち株会社の役割です。もちろん、グループ全体の事業戦略を立て、旗振りをすることも重要ですし、M&A後の融合のプロセスなども担っています。グループ全体の価値を高めるため、今後は事業の「選択と集中」も必要になると考えています。

いろいろな縁で結ばれたM&A
仲間になりたい、グループで価値を高めたい
という熱い想いが伝わった

今回のM&Aは、御社が譲渡企業にアプローチする形で交渉が始まりました。

弊社のM&Aのお相手は、地域に根付いた社歴の長い会社が多いです。弊社が行ってきたM&Aは、「物流」に加えて「地域」「歴史」をキーワードに、シナジーを生み出していける会社とのご縁を結んでいるのが特色と言えるかもしれません。高栄運輸の創業は1973年、株式会社カーライフサービス多摩車両(以下、多摩車両。2016年にグループインした自動車整備業)は1945年、フォスター運輸は1970年で、いずれも東京の多摩地域に密着して長くやってきています。フォスター運輸の運送・整備業は我々との親和性が高く、グループの事業・拠点の強化だけでなく、高いシナジーが期待できると思い、ストライクさんを通してアプローチをしました。

譲り受けたフォスター運輸の印象を教えてください。

私はNHKの『プロジェクトX』が好きでよく見るのですが、戦後のソニーを取り上げた回が特に面白くて。ソニーが戦後、日本再建をかけてトランジスタラジオを作り輸出したという話で、実はそのラジオのスピーカーがフォスター製だったのです。お互いのトップ同士の面談の最初に思わずそのことを熱く語ってしまったら、それが先方の方々に気に入られて、両社の距離を縮めるきっかけになりました。はじめての顔合わせでしたが、最初の目線合わせにハードルは感じませんでした。一緒にこんなことを実現したい、グループで成長していきたいという想いをしっかり受け止めていただいたと思います。

M&Aのプロセスで苦労したことはありますか?

猪股浩行氏とストライク町田
写真右はストライク担当の町田

お相手が上場企業なので、意思決定のプロセスが非常に慎重に進んだという印象はあります。しかし、難しい局面でもストライクさんがきめ細かく対応してくれました。我々の知識が至らないところは丁寧に説明してくれたので、安心感がありました。我々だけで大手の企業と直接交渉するのは難しかったと思います。ストライクさんには最後までしっかり役割を全うしていただき、感謝しています。

互いをよく知り、想いを共有することで
「この会社が好き!」な人を増やしたい

フォスター運輸様は2021年10月1日、「FUロジテック株式会社(以下、FUロジテック)」として新たなスタートを切りました。

従業員の皆さんには、待遇を大きく変えることはしないとお約束した上で、意識を変えてほしいとお願いしました。まず我々がワンチームになったという意識を持っていただかなければなりませんし、一人ひとりに「どうすれば自分が成長できるのか?」「何のために働くのか?」を自分で考える人になってもらいたいというお話をしています。これからの時代、自分の働き方を自ら模索して自分で設計できるようでないとモチベーションが生まれてこないでしょうし、組織を強くするには、そうした人財が必要だと思っています。

御社のグループミッションは「仲間が先、自分は後。」ですね。

従業員の皆さんにはグループで何ができるか、グループの力を最大限に発揮するにはどうすればよいかといった視点も身につけてほしいです。例えばFUロジテックも多摩車両も車両整備部門があり、それぞれに強みがあります。「どうすれば互いの強みを生かすことができるのか?」と一人ひとりが新たな発想と柔軟な思考で考えるようになれば、サービスがさらに充実し、グループの価値も向上するはずです。

変化は起きていますか?

徐々に現れてきています。例えば「(会社が譲渡された)10月1日から今日まで、1日たりとも飽きない」と言ってくれた従業員がいました。大変なこともあるはずなのに、そうした前向きな言葉が聞けるのはとてもうれしいです。同社はいま4月に新入社員を迎える準備をしていますが、その採用面接に立ち会った従業員が、入社希望者に熱く理念を語ってくれたりもしているそうです。意識変革には時間を要しますし、変わっていく側は不安も大きいはずです。うっとうしいと思われるぐらい「我々はチームだよ」「一緒に頑張ろう!」という発信を続けることも重要だと思っています。

M&Aによる譲受を成功させる秘訣を教えてください。

つばさHDの社内報『flap』
つばさHDの社内報『flap』

「こんなシナジーを生み出せる」というパーパス(存在意義や志)を明確にすることが第一です。譲渡企業の方々に、私たちの事業ミッションや理念に共感してもらえなければ、M&Aは成功しません。M&A後もワンチームとして何を目指すのかという理念を共有し続けていくことが必要です。会社の垣根を越えてグループ全体をワンチームにしていくため、どんな会社でどんな人がどんな想いで働いているのか互いによくわかるように、さまざまな仕組みをつくっているところです。

その一つが社内広報です。例えば社内報『flap』に各事業会社の特長や活動を紹介する記事を載せたり、WEB版社内報『flap Web』では事業会社で働く人たちのインタビューや対談の記事を載せています。どちらもつばさHDの広報部が手掛けており、どの記事もイラストや写真を入れ、働く人の素顔が伝わるよう工夫されていて、社外の方からも好評を得ています。

そのほか、つばさHDには「社風人財開発グループ」があり、社風の融和を図るプロジェクトを企画・推進してくれています。今年度は新卒入社の人たちが「理念かるた」を作るというユニークなプロジェクトがあり、かるた大会も行われました。こうした取り組みはすぐに結果にはつながりませんが、各社の相互理解を深め、一体感を醸成するために重要な活動であり、グループとして成長していくための“種まき”だと考えています。

私はこの会社、このグループを好きでいてくれる人を増やしたいと思っています。働くのは楽なことばかりではないけれど、会社が好きで、誰が何のために働いているのかがお互いにわかっていれば、いろいろなことを一緒に乗り越えていけるはずです。お互いがお互いのことを思い合えるような集合体にしていくことが、個々の会社の価値もグループ全体の価値も高めることにつながると思います。

本日はありがとうございました。

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