INTERVIEW

警備業界の今後の行く先を見据え、
54歳で会社を譲渡

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株式会社大希綜合警備保障 取締役社長 京谷 知明 氏

株式会社大希綜合警備保障 取締役社長 京谷 知明 氏

大阪府堺市で施設警備、巡回警備、交通誘導警備などさまざまな警備業務を担っている株式会社大希綜合警備保障。180人以上の警備員を擁し、地域の安全を守ってきた。特に葬儀会館の警備業務を多く手掛け、各宗教・宗派ごとの葬儀の違いに対応するなど、きめ細かい対応をとれる警備会社として信頼されている。創業者の京谷知明社長は54歳だった2019年9月、警備業界の大手企業であるシンテイ警備株式会社に会社を譲渡した。後継者不在の問題を解決するだけでなく、業界の今後を見据えた判断だったという。京谷社長に会社を譲渡するまでの経緯やM&Aについての考え方を聞いた。

地域貢献の使命感と大きな希望を持ち
警察官から警備業界に転身

大希綜合警備保障の創業の経緯を教えてください。

私は子どもの頃から公務員になりたいと思っていて、卒業後は憧れだった警察官になりました。最初の仕事は交番勤務で、地域住民の安全を守る仕事に私はとてもやりがいを感じました。例えば、自宅からほとんど出てこず地域から心配されている一人暮らしの老人がいました。巡回のたびに訪問するのですが、制服を着て訪問しても、私が本当に警察官かどうかを疑うような方です。それでも何度も訪問して声をかけていくうちにだんだんと信頼してもらえるようになり、私には心を開いて相談してくれるようになったのです。地域の方々に寄り添って、安心して暮らせる社会に貢献する。警察官の使命に喜びを感じるようになりました。

しかし、しばらくして転勤の辞令が出ました。公務員に転勤はつきものです。地域のために働き、地域の方々と信頼関係を築きながらも、自分は決まりだから数年ごとに転勤しなければならない。自分の使命感と公務員としての働き方にすれ違いが生じたのです。そこで考えたのが警備業への転身でした。警備業ならば、安定して地域の方々に貢献することができます。また、警備業界はこれから成長していくといわれていました。

私は警備会社の立ち上げを決意しました。27歳で退官し、1992年、大希綜合警備保障を設立したのです。最初は自宅の一室を事務所にしましたが、会社として必要なものがありません。来客用の応接セットは知人からもらい、会社の看板は自分で板を切って作りました。本当にゼロからのスタートで、あったのは“大きな希望”だけ。社名の「大希」はそこからつけました。

会社の強みや特長は何でしょうか。

株式会社大希綜合警備保障 取締役社長 京谷 知明 氏
会社の譲渡を考えたきっかけは後継者がいなかったからだが、再編が進む業界で、どうすれば会社が存続し発展できるかを考えた末、「大手企業との提携」という道を選んだ。「弊社は葬儀会館の警備という強みを持ち、大阪の堺という地域では頑張っているほうだと思います。しかし、近い将来、多くの警備会社が淘汰されると私は考えています。弊社も自分たちの力だけでは限界がくるかもしれない。今のうちに大きな会社の資本に入り、雇用を安定させることが大事だと考え、M&Aを決断しました」

弊社の一番の強みは、葬儀会館の警備に特化していることです。長年、近隣の大手葬儀会社からの警備業務を任されてきました。そこで、葬儀会館ならではの警備業務のやり方を磨き上げてきたのです。例えば、一般的な警備員は胸を張って手を背中側で組んで立ちます。でも、葬儀の場にいる弊社の警備員は手を前で組み、ゆっくりお辞儀をします。警備だからといって、ご遺族や弔問される方に威圧感を与えてはなりません。参列者と同じ目線で、一緒に亡くなった方をお見送りするような気持ちが大切です。そのほかにも、葬儀をあげる方の宗教・宗派によって、準備や警備員の立ち居振る舞いを変えています。細かな気配りですが、それをいくつも行うことが大事なのです。葬儀会館の警備に特化してきたからこそのノウハウがあり、ご信頼いただけている理由なのだと思います。

昨今の警備業界は、新型コロナウイルスの感染拡大でイベント開催が中止になるなど大きな影響を受けています。しかし、葬儀は式の規模が縮小されても必ず執り行われています。そのおかげもあって、コロナ禍においても弊社の業績にあまり影響はありませんでした。

もう一つの強みは、警備人材の質の高さです。警備業というのは特別な資格が不要で、やる気があれば誰でもできます。給与の支払いは「日払い」や「週払い」にしている会社が多く、時には「給与前払い」で人材募集をしている会社もありました。こうした背景から、警備業界には他の業界では勤めづらい人材が集まりやすい傾向にあると思います。

弊社は給与支払いを「月払いのみ」にし、入社後の教育や指導も細かく行っています。弊社の警備は体力だけあっても務まりません。まじめで丁寧な警備こそが弊社の強みです。以前に、ある企業から「大希さんの警備料は他社より少し高い」と言われたことがありました。しかし、その企業は弊社の丁寧な警備に価値を感じ継続して弊社を利用してくださるようになったのです。

会社の譲渡を考えられたきっかけは?

最初のきっかけは後継者不在です。子どもたちには会社を継ぎたいという意思はありませんでした。私と妻も、子どもには自分の好きな選択をしてほしい、自分たちがしたような経営の苦労をさせたくないと思っていました。

そして、私が後継者問題とともに考えていたのが、警備業界の今後についてです。弊社は大阪の堺という地域では頑張っているほうだと思いますが、“井の中の蛙”になってはいけません。近い将来、多くの警備会社が淘汰されると私は考えています。弊社も自分たちの力だけでは限界がきて、淘汰される側に回るかもしれません。今のうちに大きな会社の資本に入って、雇用を安定させることが大事なのではないかと考えるようになりました。

そんな折にストライクさんが開催していたセミナーに参加して、実際に会社を譲渡した元経営者の方の体験談を聞きました。会社を第三者に譲った後、今は映画監督をやっている方の体験談でした。そのセミナーがきっかけとなってストライクの木村さんに相談し、会社の譲渡を本格的に検討するようになったのです。

何よりも大事なのは社員
M&Aにより社員がスキル&キャリアアップの
チャンスを得られることが重要だった

会社を譲渡するにあたり、私が希望したのは雇用の安定です。社員たちには、今よりもっと大きな会社の一員となり、さまざまなスキルを習得してキャリアアップできるチャンスを得てほしい。それをM&Aの目的にして、ストライクさんに買い手企業を探してもらうことになりました。

経営を第三者に譲ることについて、どのような感覚でしたか?

京谷知明氏とストライク木村
最初の相談から約半年のスピード成約となった。京谷氏は買い手企業の希望により、その後も代表権のない社長として経営に携わっている。「創業者のご子息である専務から『これから私たちは仲間です。一緒に力を合わせてやっていきましょう』と言っていただき、とてもうれしかったです。M&A後も社員は一人も辞めることなく、今も頑張ってくれています。買い手企業の資本やノウハウを活かし、新規顧客や警備員を増やすこともできました。(写真左はストライク担当の木村)

まず、自分の会社の内情を外部に知られるというのは嫌なものでした。決算書については、弊社は税務署から「指摘事項なし」と書面をいただいたこともあり、後ろめたいものは何もありませんが、それでも気分の良いものではありませんでした。おそらく、多くの経営者が私と同じような気持ちになるのではないでしょうか。

ただ、実際に会社の譲渡の検討が始まると、私が想像していた以上に順調に話が進んでいきました。「えっ、こんなに早く?」と思うくらい、ストライクの木村さんにはスピード感を持って支援してもらったと思います。私が最初に会社の譲渡を相談してから成約するまで、約半年くらいでした。

買い手となられた企業についての印象を教えてください。

私が良いと思えた点がいくつかあります。1つ目は、買い手企業の創業の状況が、私たちとすごく似ていたことです。買い手企業の創業者も何もないところから会社を興し、私たちと同じような苦労をされながら成長してきたそうです。企業規模は先方のほうがずっと大きいですが、私は買い手企業にとても共感することができたのです。

次に良かったのが、私の一番の希望であった「雇用の安定」を保証いただけたことでした。給与面などもすべて従来通りです。私にとって社員を大事にしていただくことは何よりも大事でした。買い手企業から私と妻がM&A後も今のポジションのままで会社に残ることを希望されましたので、私は代表権のない社長でありますが、今も経営に携わっています。買い手企業の創業者のご子息である専務からは「これから私たちは仲間です。一緒に力を合わせてやっていきましょう」と言っていただきました。M&Aをしたから引退するのではなく、まだ社長として頑張ることができる。それもうれしかったです。

生き残るためには変化の前に行動を!
会社の譲渡は「身売り」などではなく、新しいビジネスチャンスをつかむこと

会社を譲渡された後の会社の状況を教えてください。

会社の体制は何も変わっていません。買い手企業から一人だけ役員として入っていただきましたが、最初は社風の違いなどで戸惑われたと思います。それは当然で、何かが変わると波風は立つものです。それを調整するのが、社長として残った私の役目です。M&A後も社員は一人も辞めることなく、今も頑張ってくれています。買い手企業の資本やノウハウを活かし、新規顧客や警備員を増やすこともできました。

譲渡後の周囲の反応はいかがでしたか。

大阪の警備業界では、私がM&Aをしたことはそれなりに大きなニュースになったようです。いろいろな方から電話をいただきました。ある人からは「コロナ禍で大変になる前に売って良かったね。先見の明があったね」と言われました。ただ私は、それは違うと説明しました。そもそも私は、経営に困って会社を売ったわけではありません。後継者はいませんでしたが、今後の警備業界の行く末を考え、どうすれば会社が存続し発展できるかを考えて大手企業との提携を選択したのです、と。

先ほど申し上げた通り、私は今後の警備業界はどんどん再編が進むと思っています。今の弊社の規模感では、生き残るのは厳しいでしょう。例えば地元の商店街には、昔は米屋や魚屋など商店がたくさんありました。でも、今はシャッターを下ろしている店が多い。買収や合併を繰り返して大きくなった大型スーパーやコンビニの利便性に、小規模店は太刀打ちできなかったのです。

小規模の警備業も、今はそれなりに経営ができています。しかし、業界再編が進み、一つの会社でさまざまな警備サービスを取り扱う大手企業がいくつもできたらどうでしょうか。多くのお客様は利便性を重視するはずです。私たちがこれからも生き残っていくには、変化が起きる前に、いち早く行動を起こすことが大事なのだと思います。

今回のM&Aを振り返って、感じたことがあれば教えてください。

M&Aについて考え始めた頃を振り返ると、当時はとても不安だったことを思い出しました。なぜ不安かといえば、M&Aについて何も知らなかったからです。自分の周囲でM&Aに取り組んだ人もいませんでした。身近に取り組んでいる経営者仲間がいたら私の考えも違ったかもしれないと思います。そんな中、ストライクさんのセミナーに参加し、実際に会社を譲渡した方の体験談などを聞ける機会が増えていくと、M&Aに対する不安は減っていきました。

会社の譲渡は「身売り」などではなく、新しいビジネスチャンスをつかむための選択肢の一つでもあったのです。そのためにも、積極的に情報を収集し、専門家に相談してよかったと思います。

本日はありがとうございました。

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