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M&Aインタビュー No.26

売上400 億円の事業を託した社長の苦悩と勇気~コア事業を譲渡し新規事業に注力~

株式会社ヒロマス 代表取締役社長/株式会社MOA創業者
金 南亨 氏

「必要とされること」の追求を企業理念に、総合通販サイト「PREMOA(プレモア)」を運営するMOA(モア)。自社のサイトだけでなく楽天市場やヤフーショッピングなどのEC モールにも出店しており、売上高は2017年に323億円、2018年に437億円と急激に成長している。しかし2017 年、創業者の金氏は、MOAの譲渡を決断。その背景にあった苦悩と、新たな挑戦について伺った。

ECサイトでの成功をベースに
メーカーとして家電ブランドも展開

MOAの創業の経緯を教えてください。

私は韓国出身で、大学卒業後に26 歳でネット通販会社SURPRICE(サープライス)を韓国国内で設立しました。その頃、韓国はまだ性能の良いノートPC があまり普及しておらず、性能の良い日本のノートPC を輸入して、韓国向けにインターネット上で販売するビジネスでした。秋葉原でノートPC を仕入れ、写真を自分で撮り、それをWEB上にアップして販売すると意外に売れたのです。ただ、そのうちにどんどんライバルが増え、利益率も落ちていきました。そこで気づいたのが、EC 市場で安く売れば必ず売れるものの、そこで利益を残せるかは「仕入れ」にかかっているということ。仕入れの強化を目的として2002年に日本支社を設立しました。私も来日し、それから約2 年間は日本で仕入れて韓国に送ることを続けました。

仕入れはある程度強化でき、かなり安く仕入れることができるようになりました。そこで貿易だけでなく、日本国内で販売してみてはどうだろうかと思ったのです。当時の日本は韓国に比べてEC 市場がまだ未成熟で、今ほどAmazon や楽天市場も大きくありませんでした。思い切ってビジネスの軸足を日本に移すことを決意し、2004年にMOA を設立。「A-PRICE」というEC サイトをオープンしました。

小売りだけでなくメーカーとして「maxzen」(マクスゼン)ブランドも展開されています。

MOAでもM&Aにより旅行会社や酒類販売の会社を買収した経験を持つ。
「ある程度、会社の規模が大きくなると、経営者はM&Aで会社を買うか売るか、真剣に検討しなければならないと考えています。買収により事業を大きくしたり、従来の事業を譲渡して新しいチャレンジをすることは重要です」

 「A-PRICE」でヒット商品となったのが液晶テレビです。アナログテレビ放送の終了に伴い、地デジ放送対応の液晶テレビは売れに売れて、インターネット上での販売数が日本一になるなどしました。 ただ業績が伸びる一方で、私は不安も感じていました。同業他社と競いながら、より安く仕入れて安く売る。こんな商売のやり方を続けたら、ゆくゆくは体力勝負となります。我々のような経営基盤の弱い新興企業は淘汰されるでしょう。どうやったら生き残れるか悩む中、参考にしたのがセブンーイレブンのプライベートブランド(PB)商品でした。消費者が中身が同じならば安いほうを支持しているのを見て、「これからは小売業も作って売る時代が到来する。自分たちも対応していかないと、うちの会社は潰れてしまいかねない」と感じました。

“ 安かろう悪かろう” の商品は、すぐに消費者に見抜かれます。そこで、録画などの高度な機能はそぎ落とす半面、画質とデザインにこだわりました。中身のボードや液晶パネル、基盤等は日本の一流メーカーと同じものを使っており、コストパフォーマンスの高いmaxzenブランドの製品を作り上げることができたのです。

最初はブランド名が認知されず苦労しましたが、だんだんと「値段の割に映像がきれい」「実際に使ってみたら良かった」というネットの口コミが増え、知名度が上がっていきました。楽天市場での販売を開始すると、液晶テレビの販売数の1 ~ 3 位をmaxzenが独占したりするようになったのです。maxzenブランドの展開は今やテレビだけでなく、洗濯機や冷蔵庫、電子レンジ、加湿器など多岐にわたっています。これからもアイテム数は増えていく予定です。

売上高300億円の目標を突破
達成感とともに重圧も増した

事業が拡大し、売上が増えていく中で、M&Aを検討したきっかけは何だったのですか?

私がM&Aで会社の譲渡を検討するようになったポイントは4 つあります。

1 つ目は「売上高300億円と従業員200名」という目標の達成です。MOAを設立してから、100億円の売上は比較的すぐに突破できました。200億円の売上も、あまり難しく考えることなく6 年目で突破できました。その頃には100人くらいの従業員がいて、「このまま300億円の売上と200人の従業員という目標を突破しよう!」と意気込んだのですが、ただ、その達成が難しかった。取り組みの多くが失敗しました。社員数を一気に2 倍近くに増やしたものの、組織ができていないため人数と業績が直結せず、結局、人員整理をすることになりました。達成できない期間が続きましたが、この時期に「管理職を育て組織をつくらないと、人を増やしても成果につながらない」ことを学びました。

2017年にやっと300億円を突破できましたが、そのときにある人から「300億円を突破できたら、1000億円はすぐに到達できるよ」と言われました。私はその意味がすぐにわかりました。組織がある程度しっかりしないと、300億円という規模には届きません。でも、人が人を育てられるような、しっかりとした組織ができているなら、人を増やせばそれだけ血肉となって強くなります。それが理解できたとき、自分の中で大きな達成感が得られ、一区切りがつきました。

2 つ目は、会社が大きくなるにつれて増していく、自分にかかる重圧や不安感から解放されたいという想いでした。300億円の次に目指すステージは1000億円の大台です。うまく成長し続けられればよいのですが、少しでも景気が悪くなり、業績が傾くと大変です。私個人の人生だけではすみません。社員やその家族たちを路頭に迷わせかねないのです。自分の手元でもっと会社を大きくしたいという気持ちはあるものの、自分一人でその重さを背負う重圧は、本当に辛いものでした。

3 つ目は、ふいにMOAの企業価値評価を知りたくなって、ストライクさんに相談したことでした。MOAでは2015年に旅行会社、2016年に酒類販売会社をM&Aで買収しているのですが、その際もストライクさんに仲介をお願いしました。過去2 回の仕事ぶりで信頼関係が築けていましたので、企業価値の評価についても気軽に相談させてもらいました。

そのときはそれほど譲渡する気はなく、良い相手がいたらご紹介くださいとお伝えしていたところ、それをきっかけにとても素敵な買い手企業をご紹介いただきました。いろいろな好条件をご提示いただいたこともさることながら、初回面談での印象がとても良かったのです。最初の打ち合わせで今後のMOAの将来について盛り上がり、気が付けば3 時間のミーティングになりました。私も先に挙げたような達成感や重圧からの不安があり、MOAの将来を考えるなら、もっと大きな船に載せて安心して成長させたい̶̶そのような想いになり、具体的に譲渡へと進むこととなりました。

本業は安定した経営基盤の会社に委ね、新たなホステル事業に集中
挑戦のためには従来の事業を託す勇気も必要

「買い手企業は初回面談での印象がとても良かった。最初の打ち合わせで今後のMOAの将来について盛り上がり、MOAの将来を考えるなら、もっと大きな船に載せて安心して成長させたいという気持ちになりました」と話す金氏。(写真左はストライクの担当の中村)

4つ目は、新しいビジネスへの挑戦です。具体的には、ヒロマスホステルという宿泊施設事業に取り組んでいます。きっかけは、2015年にMOAで買収した旅行会社の苦戦でした。勝算があって参入したものの、予想していた以上に旅行が売れません。同時期には、同業の大手の旅行会社も倒産していました。どうやったら旅行が売れるのか考えるとともに、そもそもなぜ旅行業界は厳しくなっているのか、その理由を探りました。その中で、旅行業界も、インターネットの普及によってビジネスのあり方が変わりつつあるのだと感じました。従来は旅行代理店が提案するパッケージ旅行が主流でしたが、今やネットで自由に割安な宿泊施設や旅券を調べて予約できます。消費者のニーズはプライベート旅行に移り変わっていました。特にインバウンド旅行客は高いホテルを求めません。代わりに求められていたのがホステルやゲストハウス(*)でした。

旅行業界を研究することによって、ホテルの代替となるホステルが不足していることに気づき、2017年からヒロマスホステル事業を始めました。ただ、時間はたくさんあるわけではありません。MOAもホステル事業も同時に経営するのは難しいことです。それで、通販事業のMOAはもっと安定した経営基盤の会社に委ね、私はホステル事業の立ち上げに集中したいと思ったのです。



*ホステル、ゲストハウスとは?
主に二段ベッドがある相部屋、共同利用の個室シャワー・トイレといった特徴を有する安価な宿泊施設。自炊のできるキッチン、ダイニングルームなどの共用スペースがあり、スタッフや宿泊客同士で交流を図ることができる。

ヒロマスホステル事業の展望について教えてください。

2017年に事業を開始したばかりのヒロマスホステルですが、今では6 店舗になっています。おかげさまで展開スピードも速く、各ホステルの稼働率は90%以上と高い水準です。ヒロマスホステルの1F には、宿泊客同士が交流できる共用ラウンジを設けています。私としては、この共用ラウンジには宿泊客だけでなく、宿泊していない日本人の方にも来ていただいて、外国人と英語でコミュニケーションができる場所にしたいのです。日本にいると、学んだ英語で会話できる機会が少ないですよね。だったらヒロマスに来て宿泊客と話してほしい。そうなればホステルは宿泊施設としての機能だけでなく、国籍を問わず人と人が結びつくコミュニケーション拠点となります。ヒロマスホステルをそんな文化の懸け橋のような場所にしていくことが私のゴールであり、今のやりがいとなっています。

同じような立場の経営者の方に向けアドバイスをいただけますか。

ある程度、会社の規模が大きくなると、経営者はM&Aで会社を買うか売るか、真剣に検討しなければならないと考えています。新規事業に取り組むとき、やはり自分たちの知らないことを一から作るのは難しいです。買収して事業を大きくしていくことはとても良いことだと思います。

また、自分たちの本業や買収してきた事業を、一生をかけて自分がやり続けなければならない、ということもありません。私がヒロマスホステル事業に絞って挑戦しているように、新しいチャレンジをするためには、従来の事業を自分がやるよりもっと良い相手に託す勇気も必要だと思います。そういった観点から、M&Aはとても良い手段ではないかと思います。

本日はありがとうございました。