INTERVIEW

「2024年問題」が迫る物流業界で
創業100周年を迎える老舗企業が
若い企業とのM&Aを選んだ理由とは

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才賀運輸株式会社 取締役社長 増田 敏 氏、株式会社翔樹 代表取締役会長 門田 周 氏

才賀運輸株式会社 取締役社長 増田 敏 氏
株式会社翔樹 代表取締役会長 門田 周 氏

京都・滋賀エリアを中心に、食品メーカーや酒造会社などの物流を担う才賀運輸株式会社(京都府京都市)は2023年5月、同業の株式会社翔樹(大阪府摂津市)の傘下に入った。才賀運輸は2027年に創業100周年を迎える老舗企業で、独自の共同配送システムを構築するなど、京都・滋賀エリアで特に強い存在感を放つ。一方、翔樹は門田周氏と弟の明氏が2006年に設立した若い企業で、成長途上にある。物流業界は燃料高や採用難など課題が山積みで、トラックドライバーの時間外労働時間を規制する「2024年問題」も目前に迫っている。この時期に老舗企業と若い企業がタッグを組む狙いは何か? 才賀運輸の取締役社長である増田敏氏と、翔樹の代表取締役会長である門田周氏に戦略をお聞きした。

才賀運輸株式会社 × 株式会社翔樹
ご成約インタビュー動画

より良い相手に譲渡するには
時間がかかると考え
10年前からM&Aの準備をスタート

才賀運輸様のサービスの特徴を教えてください。

才賀運輸様トラック画像

増田:約100年前、大正から昭和に変わる頃に京都で生まれた運送業者で、主に食品・飲料の輸送を手掛けています。大きな特徴は、複数の荷主企業の荷物をまとめて同じトラックに積み込んで配送する「共同配送事業」です。トラックの積載効率や配送効率の向上、コスト削減を図る取り組みで、環境負荷の低減にも役立ちます。

1社だけの荷物を運んでいてはなかなか売上が上がらないため、共同配送を始めようとする事業者は多かったのですが、京都・滋賀エリアで今、共同配送事業を行っているのは2社だけになっています。

なぜ共同配送のシステムは広がらなかったのでしょうか。

増田:このシステムは、取引先が数社では採算が厳しく、10社を超えるようになって初めて運営できるようになります。数社から10社を超えるようになるまでの間の経営が苦しく、途中であきらめるところが多かったようです。弊社は、共同配送システムを気に入ってくださったお客様の紹介で多くの企業が集まり、京都・滋賀地区の共同配送事業者として認知されるようになりました。

M&Aについて考えるようになったきっかけを教えてください。

増田:第一に後継者不在が大きな問題としてありました。私は2006年より社長を務めていますが、才賀運輸には創業家がありますので、いずれ創業家にお返しするつもりで経営を担ってきました。しかし、創業家に承継する人材はおらず、私が全株を譲り受けることになりました。

私には息子がいますが、すでに別の仕事をしていましたし、個人保証の問題などもあり、息子に承継させることは困難でした。また、社内で後継者を見つけるのも難しい状況でした。M&Aで第三者承継を実現できれば、事業を継続し雇用を維持することができます。優秀な方に経営を委ねることで、才賀運輸をさらに発展させたいという思いもありました。

いつ頃からM&Aを検討されていたのですか。

増田:2014年頃にM&Aのセミナーに参加したのが始まりです。私が47~48歳のときです。次の世代に事業を適切なタイミングでスムーズに渡すには1~2年ではなく、もっと長い時間が必要だろうと考えていたので、何度もセミナーに参加し、自分なりにM&Aについて理解を深めながら、どのような形で進めればよいか、どんなお相手なら事業の成長が期待できるのかなどをずっと考えてきました。

譲渡の条件として希望されたことは?

増田:従業員の雇用継続が最も大切でした。得意先との取引をすべて継続したい、100周年までは社長を続けさせてもらいたいという気持ちもありました。ストライクの前川さんには、こうした思いを正直に全部お伝えして進めてもらいました。もちろん譲渡価額も重要な条件で、慎重に検討しました。

現状維持を打破し
最も早く成長できる手段として
M&Aによるグループ化戦略を選択

翔樹様は設立17年の若い企業です。M&Aに踏み切られた理由を教えてください。

才賀運輸株式会社 取締役社長 増田 敏 氏、株式会社翔樹 代表取締役会長 門田 周 氏
才賀運輸は大手メーカーなど優良荷主との絆も深く、門田氏(写真左)は「協業は必ず我々の成長につながると考えた」と話す。
増田氏(写真右)もまた、勢いのある若い企業とのM&Aは新たな飛躍へのチャンスになると捉えたという。
「互いのノウハウや経験、顧客基盤などを共有して、グループのスケールメリットを追求したい。私にとっては、経営について相談できるパートナーができたことも大きいです。門田氏と一緒にこれからどんなことが実現できるかワクワクしています」

門田:コロナ禍の影響もあり現状維持の状況が続いていましたので、新たな展開、最も早く成長できる手段としてM&Aを模索していました。

才賀運輸さんは歴史ある企業で実績、信用があり、顧客基盤も強いです。我々の仕事は二次請け、三次請けがメインですが、才賀運輸さんはメーカーとの取引もあります。このM&Aは成長を加速させるチャンスになると考え、話を進めました。

どのようなシナジーを期待されていますか?

門田:まず第一に、京都・滋賀エリアの拠点ができるメリットが大きいです。我々も以前は同エリアで、スナックや居酒屋に酒類を配達する仕事をしていました。順調に基盤を固めていたのですが、重いものを運んだり、駐車スペースの確保に苦労したり、いろいろ難題があって事業転換が必要だと判断し、この仕事を徐々に減らしたため、同エリアでの仕事が少なくなりました。同エリアでの拠点ができたという点でも、良いタイミングでのM&Aだったと思います。

増田:互いに持っている取引先の拡充や料金単価の見直しなどを進め、グループ全体の利益を伸ばしたいですね。グループのスケールメリットを追求できればと考えています。

門田:実は今、京都の物流会社とのM&Aが進んでいます。成立すれば、才賀運輸さんとその会社との連携により、仕事の融通やドライバーの働き方への柔軟な対応など、さまざまなメリットが期待できます。相乗効果はもっと大きくなりそうです。

ストライクのサービスや担当者についての感想をお聞かせください。

才賀運輸株式会社 取締役社長 増田 敏 氏、株式会社翔樹 代表取締役会長 門田 周 氏、ストライク前川
増田氏は「どんな会社が興味を持ってくれるのか期待と不安があり、ストライクが複数の候補を積極的に提案してくれてありがたかった」と話す。また門田氏は「担当の前川さんが運送業界に詳しく、信頼が置けた」という。「前川さんは運送業界についてよく勉強されています。信頼していろいろ相談することができました」(写真中央はストライク担当の前川)

増田:ストライクと接点を持ったのは、前川さんが弊社にお越しになり、M&Aについて「考えていますよ」というお話をしたのが最初だったと思います。当時は思案中で、時期を見てからという判断でした。

その後、本格的にM&Aを実行に移そうと思い、ある仲介会社に相談しましたが、トップ面談が約2年間でたった1件しかありませんでした。やはり難しいものだと思案していたとき、前川さんのことを思い出し連絡をして、ストライクにもお願いすることにしました。

前川さんには根気強くトップ面談を設定していただき、翔樹様という素晴らしいお相手に引き合わせていただいて本当に感謝しています。会社を譲渡するのは初めての経験であり、どんな会社が興味を持ってくれるのか、どんな条件が提示されるのかわからない人間からすれば、「こういう会社はどうですか」という提案を積極的にしてくれたのは、とてもありがたかったですね。

門田:前川さんは金融機関に勤めていたこともあり、頭の回転が速いですね。業界のことをよく勉強されていて、運送業界独自の決算書の見方も理解されており、逆に教えていただいたこともありました。信頼の置けるM&Aアドバイザーであり、今回のご縁も前川さんだったからスムーズに話が進んだと感じています。

M&Aアドバイザーより一言(前川 泰毅・法人戦略部 シニアアドバイザー談)

ストライク前川

本件は老舗企業と若手企業によるM&Aで双方の思惑がうまく合致したM&Aだったと感じています。
私が才賀運輸様と関わった際に一番強く感じたことは「老舗企業のネットワークの魅力」でした。増田社長には、度々、業界の将来予想図などを教えて頂きました。一方、歴史があるが故に、積極的な変化を実行できない難しさを感じられておりました。
翔樹様は成長意欲が旺盛で、勢いのある企業様です。業績は伸長しているものの、その成長痛はさまざまかつ、すぐの解決が難しく、頭を抱えておられました。
お話を繋いだ際、すぐに両社より「良い話だ」と返事があり、一気にゴールまで進みました。双方で対話する機会を多く取り、将来ビジョンを早期に固めていたことで、M&A成立後の走り出しも順調だと聞いております。
本件のような悩みを持つ企業は多く、これからも物流業界のM&Aは加速すると考えております。今まで培った知識や知見をフル活用し、良縁に1件でも多く携わることが出来れば幸いです。

両社で力を合わせて
100年企業を新たなステージへ

2027年の100周年に向けての思いをお聞かせください。

増田:京都では100年企業は珍しくありませんが、運送業においては数少ない100年企業だと思います。節目の年に会社に在籍していることをうれしく思うとともに、ワクワクもしています。この先また10年、20年とさらに事業の歩みを進めていきたいです。

今までは自分一人で経営を担ってきましたが、これからは信頼し相談できる門田様ご兄弟と一緒に事業を進めることができます。心強いですし、とても楽しみです。

門田:私も創業100周年を迎えるのが楽しみです。両社で力を合わせて、さらに事業を成長・発展させるつもりです。

最後にM&Aを検討されている経営者に向けてアドバイスをお願いします。

門田:M&Aによる事業承継を考えているのなら、早めに着手することが重要ではないでしょうか。先延ばしにするうちに業績が悪化し、タイミングを逃してしまう可能性もあります。M&Aで良い相手にめぐり合えば、会社を継続し、従業員を守ることができます。買い手にとっても成長のチャンスになると思います。

増田:まず自分の会社の価値がどれくらいあるのか客観的な評価を知ること、そして良くても悪くてもその結果を受け入れることが重要です。他社に負けないサービスがあるのなら、買い手企業は出てくると思います。

私は良い相手に譲渡するには長い時間がかかると考えて、早い段階からM&Aの検討を始めました。相手のあることですから、自分が譲渡したいタイミングで希望条件に合う相手が見つかるとは限りません。早めに着手し、時間をかけて、より良いお相手を見つけることが大切だと思います。

本日はありがとうございました。

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