INTERVIEW

「愛情あふれる老舗鮮魚・仕出し店を残したい」
譲受、仲介側がとりこになった思いやりのM&A

  • #後継者不在
  • #地方創生
  • #老舗
  • #小売業
(有)佐久間の北原 慶光氏、花房 竜介氏

(有)佐久間 会長 佐久間 象三氏 部長 佐久間 雅子氏

(有)近藤会館 代表取締役 近藤 幸夫氏((有)佐久間代表取締役兼務)

香川県丸亀市の(有)佐久間は、鮮魚・仕出し・総菜の老舗「佐久間」を運営する。オーナーの佐久間象三氏は自身の高齢化と「娘に苦労を掛けたくない」ことを理由にM&Aによる第三者承継を決意。手を挙げたのは、同じ四国で(有)佐久間と共通点も多い給食サービス業の(有)近藤会館(愛媛県宇和島市、近藤幸夫代表取締役)だ。「自社商品と地元への『佐久間』の愛を感じた」とする近藤氏は、(有)佐久間を引き継ぎ、高齢者が大半を占める同社従業員の雇用も守った。ストライク担当者も「お互いが相手を思いやっていた」とする今回のM&Aについて、佐久間氏と娘の佐久間雅子氏、近藤氏に話を伺った。

社歴も近い食品を扱う四国の2社

(有)佐久間の概要を教えてください。

「佐久間」本店の外観
「佐久間」本店の外観。
瀬戸内海の新鮮な鮮魚を使った仕出し料理や弁当、総菜は地元で長く愛されてきた。

佐久間象三:瀬戸内海の新鮮な鮮魚、またそれらを使った仕出し料理・弁当、総菜を販売しています。明治25(1892)年に私の祖父が創業し、1971年に私が法人化してから50年以上たっています。丸亀市内に3店舗を構え、従業員数は40人です。私が鮮魚を担当し、妻が経理や事務、娘が仕出・弁当・総菜を担当しています。特に娘の雅子は現場の盛り上げ役でもあります。

(有)近藤会館は主要事業が給食サービスの受託、供給ですね

近藤:高齢者施設や介護施設のほか、自衛隊駐屯地の給食サービスを請け負っています。佐久間会長と同年代の父が創業し、私が2代目です。会社設立の時期も(有)佐久間と近く、1967年です。従業員数は150人です。

「娘に苦労を掛けたくない」と親族内承継は当初から予定せず

(有)佐久間がM&Aによる第三者承継を検討した理由は?

(有)佐久間の佐久間 象三氏
(有)佐久間の佐久間 象三氏。
自身の体力的な問題や娘の雅子さんへ苦労を掛けたくないという想いから第三者承継を検討。

佐久間象三:一番は私の体力的な問題です。当社は地元の魚市場で仲買もしていて、長い間、私が市場の競りに毎朝出向いていました。今もそれは続いていますが、年齢と共に体に自由が利かなくなってきました。かといって社内に代わりの人材はいません。一方で、娘に継がせることは考えませんでした。娘は今まで20年近く経営を手伝ってくれていますが、私が身を引いた場合、競りにも出て、店の厨房にも入り、売り場を見ないといけない。経理と総菜の仕事もあるので、負担が掛かりすぎると思ったのです。これ以上の苦労は掛けたくないですから。

佐久間雅子:私も、もし自分が継いだら両親が心配するだろうなとは思っていました。それに、「佐久間」は鮮魚あっての「佐久間」です。惣菜も仕出し料理・弁当も、新鮮な鮮魚を仕入れて初めて作ることができます。私は競りに参加できないので、それであれば、その部分も担える第三者に会社を譲ることも検討してみてはどうかと、それとなく両親と話をしていました。2018年頃からだったと思います。「佐久間」は長年、丸亀の人々にご利用いただいていますが、私は飲食店や商店の閉店、廃業が相次いだコロナ禍の時に、改めて「佐久間」が地元にとって必要な存在だと認識しました。「佐久間」がなくなれば人々がきっと困る。ならば残さないといけないと思いました。一方、母は割り切っていて、鮮魚を中心とした「佐久間」の形を継いでくれる人がいるのなら、M&Aによる第三者承継をすべきだと早くから言っていました。

縁を直感したストライクからの手紙

ストライクに仲介を委託された経緯は?

佐久間雅子:ストライクさんにお願いする以前に、別の仲介会社に譲渡先を探してもらっていたのですが、進展がなく立ち消えになっていました。しばらくして2022年の正月明けに、ストライクさんからのお手紙が郵送されてきました。それを見た母が一言、「すぐここに電話して」と(笑)。母は今でも「その手紙は光っていた」と言います(笑)。直感で縁を感じたのでしょうね。実際に、その後に来てくれたストライクの金山奈穂美さんと渡邉拓己さんは好印象で、なおかつ、4月には近藤幸夫社長と引き合わせてくれたので、本当にご縁ですよ。近藤社長とは初めてお会いしたときから話が盛り上がりました。

近藤:私はストライク四国営業部長の吉本和巨さんからの紹介で佐久間会長ご家族にお会いしました。とてもいい人たちで、私がとりこにされました。また、当社も過去に仲買をしていて、私の父と私も競りの経験があったので、佐久間会長とは話が合って大変勉強になりました。昔から知っている仲のような気がしましたね。

(有)佐久間が近藤会館を譲渡先にした決め手は何だったのでしょう。

佐久間象三:仲買をはじめとして、私と同じような歴史を歩まれてきた部分があり、近藤社長だったら私たちのことも十分に理解してくれるだろうし、任せられると思ったからです。

佐久間雅子:私は近藤社長の声の大きさに好感が持てました。裏表がない人だと思いましたね。売場で従業員同士が大きな声で明るくコミュニケーションを取っていると、お客さんが自然と寄って来るものです。近藤社長のような人がいたら、店も会社全体も明るくなるだろうなと思いました。

「味・従業員・地元」への愛を引き継ぐことを決意
工場建設を延期し、M&Aに集中

近藤社長はなぜ(有)佐久間を譲り受けようと決めましたか。

(有)近藤会館の近藤幸夫社長
初回面談時から話が盛り上がった、と話す(有)近藤会館の近藤幸夫社長。
「佐久間」には愛があると感じ、その歴史を守るために譲り受けを決意

近藤:「佐久間」の商品は本当においしい。しかも、どの商品も機械を使わずにほぼ100%手作り。とても手間を掛けているのです。仕出し料理や弁当なら分かりますが、総菜もそのように作っている。私も長く料理の世界にいますが、このような店はなかなかありません。また、最近の料理人は魚の端々を捨てることが多いのですが、「佐久間」では端々まで使っている。それだけ職人の技術があるのです。佐久間会長ご家族を見て思ったのですが、「佐久間」には愛があります。ご家族同士もそうですし、従業員に対してや商品に対してもそう。お客さんや地元に対しても愛があります。そのような「佐久間」の歴史を止めてはだめだと思いました。残すべきだと。私個人的には今回はM&Aという意識はありません。佐久間会長ご家族と私は身内のような感じで、会社同士も運命共同体です。「佐久間」から色々と学ばせてもらおうと思っています。

渡邉:私も立ち会っていく中で、当事者の皆さん同士が相手を思いやっているのを感じました。愛のある交渉とご成約でしたね。

譲渡にあたり、(有)佐久間から近藤社長に具体的に要望したものはありますか?

佐久間雅子:「佐久間」の味を変えないこと、地元を大切にすること、従業員を引き継いでもらうことの3つです。当社の従業員は平均年齢が60歳に近く、中には腰が曲がるような年齢まで働いてくれている人もいて、感謝で涙が出ます。従業員それぞれにも生活がありますから、これからも働けるようにしてもらいたかった。近藤社長には、3つの要望を引き受けてもらえたので安心しました。

近藤社長の方からは何かありましたか?

近藤:「佐久間」には今のまま走ってもらいたいと思っています。ですから、佐久間会長と奥さんには毎日でなくても体調が許す範囲でお店には出てもらいたい。佐久間部長には引き続き毎日現場に来てほしいとお伝えしました。

今回のM&Aにおいて苦労した点はありますか?

近藤:直接的ではありませんが、複数の事業展開と時期が重なり苦労しました。当時は大分支店開設、新たな自衛隊駐屯地での供給、特別養護老人ホームでの受注といった具合で、非常に多忙でした。これらに加えて、愛媛県松山市に給食工場の建設を予定していたのですが、さすがに手が回らずに延期しました。

譲渡について、(有)佐久間の従業員にはいつお伝えし、反応はいかがでしたか?

佐久間雅子:2023年2月に譲渡契約が成約し、同月末に伝えました。両親も私も会社に残りますし、従業員もそのまま働いてもらうので、みんな「今までと何も変わらんなあ」という反応でした。中には、父に「肩の荷が下りてよかったなあ」と言ってくれる従業員もいました。みんな、父が体を弱くしているのを知っていましたからね。

M&Aアドバイザーより一言(渡邉拓己・法人戦略部アドバイザー談)

ストライク渡邉

(有)佐久間様はインタビューにもある通り、地元に欠かせない存在です。その(有)佐久間様の強みの源泉である「競り」を受け継げるお相手を探すことが重大なテーマであり、難題でもありました。魅力を感じながらも、「競り」の受け継ぎが困難であることを理由に、お引き受けを断念する企業もありました。

そんな中、(有)佐久間様の強みをより理解し、後任の方の探索に熱心に動かれたのが同じ四国にて給食サービスを提供する近藤会館様です。1度目のお引き合わせ時から意気投合され、双方から次々と新たなアイディアが出てくることが印象的でした。

食品という共通項はありながら、完全な同業種でないことが今回のご縁の面白い点だと思います。双方の強み・ノウハウを活かし、共に更なる成長・発展を遂げていただきたいと願っております。

手作り継続、相乗効果で別途新事業も可能か
技術習得目的に人材を派遣

近藤会館の経営ノウハウを(有)佐久間にどのように生かそうと思いますか?

近藤:細かい部分では、経理や事務で可能な部分はシステム化していこうと思います。また、「佐久間」はこのまま何十年と続きますが、今回のM&Aの相乗効果の1つとして、今の「佐久間」が残りつつ、別途、新しい事業の可能性も広がるのではと思っています。というのも、近藤会館は朝昼晩3食で数百円といった安くておいしい給食を提供していますが、それを実現しているのは近藤会館の職人が持つ技術と経験、そして最新機器です。例えばこれらのノウハウと「佐久間」の技術を生かせば、「佐久間」でも給食事業は可能ですよ。

成約後、両社で新たな取り組みは始まっていますか?

近藤:佐久間会長の代わりとなる仕入れ担当者を近藤会館から「佐久間」に派遣しています。仕入れ担当者は毎朝、佐久間会長に付いて市場に行き、競りを学ばせてもらっていますよ。競りのノウハウは一朝一夕で身に付きませんが、少しでも佐久間会長の負担軽減になればいいですね。また、近藤会館の新人スタッフにも「佐久間」の伝統と技術を学ばせたい。毎月1人は「佐久間」で勉強させたいのですが、佐久間部長いかがでしょうか?

佐久間雅子:いいと思います。どうぞどうぞ。

ストライク担当者も幼少から知っていた「佐久間」
エリア出身者が各拠点にいる体制が奏功

ストライクの担当者はいかがでしたか?

写真手前右から、佐久間象三会長、近藤幸夫社長。後列右側から佐久間雅子部長、ストライクの吉本と渡邉
写真手前右から、佐久間象三会長、近藤幸夫社長。
後列右側から佐久間雅子部長、ストライクの吉本と渡邉。

佐久間雅子:金山さん、渡邉さんともに、こちらが何か質問をしたら明確に答えが返ってきますし、フォローがしっかりしていて助かりました。なにより私たちの状況や気持ちを酌んでくれたことが嬉しかったです。それに、近藤社長に私たちを紹介してくれた吉本さんは丸亀市に隣接する坂出市の出身で「佐久間」のことをご存じだったと聞いて、大変驚きました。

近藤:それは私も直接聞きました。「丸亀に(有)佐久間という素晴らしい会社があります。私も子どもの頃から『佐久間』の料理を食べていました」とね。

吉本:はい。ですから、私としても「佐久間」が残ることに協力したいという思いがありました。近藤社長には多大なご理解をいただきました。実は、ストライクの強みがこの点に表れていると思います。当社は北海道から九州まで全国に拠点が8カ所ありますが、それぞれの拠点には地元エリア出身のスタッフを置いています。私が(有)佐久間の案件に携われたことは偶然ですが、そういう偶然が起こりうる環境はあるわけです。地元に精通したスタッフがいた方が、M&Aを検討されている企業にとっては安心材料になりますからね。

最後に後継者不在に悩まれている経営者にメッセージをお願いします。

佐久間雅子:私たちがそうだったように、身内に後継者がいない企業さんも多いと思います。それであればM&Aによる第三者承継は有効な手段です。諦めなければ、私たちのようにいいご縁が舞い込んで来ると思います。

本日はありがとうございました。

本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
是非お気軽にお問い合わせください。