INTERVIEW

北海道に恩返し
自ら株式を買い戻し、オーナーとなったバスケ界のレジェンド折茂社長

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「レバンガ北海道」の折茂武彦社長、横田陽CEO

プロバスケットボールBリーグ1部「レバンガ北海道」
折茂 武彦 社長(写真右)
横田 陽 CEO(写真左)

プロバスケットボールBリーグ1部「レバンガ北海道」の折茂武彦社長(52)が、運営会社(株式会社レバンガ北海道)の株式を買い戻し、3分の2以上を保有するオーナーとなったことを発表した。2026年にB1の入会基準が大幅に厳しくなるのを前に、オーナー社長として自ら経営の指揮をとる。選手・経営両面での貢献から、日本バスケット界の「レジェンド」と呼ばれる折茂氏。自ら多額の借り入れをしてまでMBO(経営陣による買収)を実施した背景とは?折茂氏と、横田陽CEOに伺った。(2022年9月の記者会見と、書面によるインタビューの内容を加えたものです)

2026年の新B1入りが使命。チーム成長へ自ら決断

株を買い戻したのは2021年秋と伺いました。22年9月の発表まで時間がありましたが、現在の心境をお聞かせください

折茂)これまで引退試合(コロナで延期されていたが、2022年6月に観客5千人以上を集めた)の延期などで、発表が遅れてしまいました。無事に自分の言葉で皆様にお伝えできたことで、更なる責任を感じています。自分自身覚悟をもって、クラブを成長させ、いい意味で自立を果たすことで、多くの企業、ブースター(バスケチームのファンのこと)の方々に応援してもらうクラブを作りたいと思います。

MBOに至るまでの経緯を教えてください

横田)2011年、当時折茂が在籍していたプロチームがリーグを除名され消滅の危機にありました。北海道のバスケの火を消さないため、折茂自らオーナーとして現在の「レバンガ北海道」を立ち上げました。

経営が苦しい時期が続きましたが、2016年にB1リーグが発足するのに合わせ、債務超過を解消する必要がありました。そこで、債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)の手法を用いて、債務超過を解消。道内で遊戯店「イーグルグループ」を経営する正栄プロジェクトが筆頭株主になりました。それから6期連続の黒字を達成できたのも、初年度からB1リーグに所属できたからだと思っています。

株式を売却された正栄プロジェクト様への思いはいかがですか

記者会見する折茂武彦社長
記者会見する折茂武彦社長

折茂)正栄プロジェクトは、チーム創設当初からレバンガ北海道のことを一番に考え支援してくださった企業様です。本件についても、当初はご相談すること自体を非常に悩みました。「今後さらにチーム、会社を成長させていきたい」という気持ちを打ち明けご相談させて頂いたところ、本件についても快く「レバンガのためになるなら」と快諾頂きました。引続き、ご支援頂くことは不変であり、我々としても頂戴した御恩に対してしっかりとお返ししていきたいと考えております。正栄プロジェクト、個人で出資している皆様に改めて株式を譲渡いただいたことに感謝しております。

MBOを決意したきっかけは何ですか。

折茂)2026年よりBリーグの基準が変わり、新Bリーグとして再スタートを切ります。新B1リーグへの残留には、売上やアリーナ基準等、複数の基準をクリアする必要があります。これまで支えて頂いた北海道の皆様と共に更なる成長を継続していくためにはチームがB1リーグに残留することが非常に重要だと考えております。新B1残留には、ファンの皆様、スポンサー様、その他支援者の皆様に、更なるご支援が必要不可欠です。皆様にご支援頂くために、覚悟をもって新たなエンタテイメントの創出やコンテンツとしての魅力向上、チームの強化を図っていきたいと考えており、MBOを決意致しました。

自らオーナーとなることのメリットはどのようなものがありますか

横田)議決権の2/3を取得することによって、リスクももちろんありますが、これまで以上に意思決定のスピードが向上し皆様のご要望にタイムリーな対応ができるようになり、支援者の方々に楽しんでいただけるエンタテイメントの提供が可能となります。皆様と距離が近い折茂が経営権をもつことで北海道の皆様と一体となったチーム運営を行っていきたいと考えております。

バスケットボールのチームは、島根スサノオマジックなど、大手(株式会社バンダイナムコエンターテインメント)による買収が多いですね

会見後も記者に囲まれ、質問に答える折茂武彦社長
会見後も記者に囲まれ、質問に答える折茂武彦社長

折茂)確かに、大手によるM&AがB1には多いです。だが、我々は北海道の皆様に支えられている。そういう方の思いを受け、もう一度自分自身責任を課して、オール北海道でチームとして勝てるものを作っていきたいです。

レバンガはだれのものではなく、北海道の皆様が作り上げてきたもの。MBOをポジティブに受け止めてもらい、応援のきっかけにもなってもらいたいです。

北海道に恩返しを

経営者として、オーナーとして2026年に始まる新B1への思いをお聞かせください

折茂)自分が経営者として、オーナーとしてという立場ではありますが、選手時代から想いは変わらず、このクラブを応援いただく皆様に喜んでいただけるクラブにしていきたいと思います。そのためには2026年の新リーグに、B1で参入することが皆様に求められていると思っております。それをしっかり自分の使命として受けとめて、参入することはもちろんのこと、そこで勝利を届けられるチームを創っていきたいと思います。

折茂さんが北海道に来られて15年以上です。「地元」への思いをどのようにお考えですか

折茂)北海道に来て15年が経ちますが、来た当初から変わらず、北海道の皆様にはたくさんの温かいご支援とご協力をいただいております。ファンの方への想いや地元意識、地域密着ということを肌で感じることができました。今後の自分の人生をかけて、お世話になった「北海道」のために恩返ししていいきたいと思っています。

地域スポーツの果たす役割について、改めて教えてください

レバンガ北海道が開いた記者会見、札幌市
レバンガ北海道が開いた記者会見、札幌市

折茂)プロスポーツチームが地元にあることで、さまざまな役割があると思っています。単純に試合をするだけが目的ではなく、地域に貢献できる企業であり続けなければいけないと思っています。スポーツ振興だけではなく、地域医療、教育、健康、経済、観光といったさまざまな地域課題の解決にプロスポーツを活用いただき、貢献していきたいと考えています。

オーナー経営者として目指すもの

中期経営計画で掲げる2025年度の売上高20億円(21年度は10.7億円)を目指すにあたって、なにがもっとも大切と感じていますか?

横田)事業の中核はパートナー収入とチケット収入になりますので、まずはたくさんの方に会場に足を運んでいただき、満員の会場を創り上げることが価値を高めることにつながり、パートナー収入増につながっていくと考えております。また、事業の多角化を図るとともに、当該事業が本業であるバスケットボール事業ともシナジーを生み出せるような事業参画を実施し、売上を高めていきたいと思っています。

資金の確保ではどのようなことに苦労されましたか

横田)資金は、北海道銀行様に支援いただきました。チーム、会社の運転資金とは異なる使途の資金調達であり、初めての経験であったことから、金融機関様が与信をとるうえで、どのような組み立てにするのか、返済原資はどうするのか等、わからない点が多く、資金調達全体のプランを考える点が苦労した点です。

北海道銀行様、ストライクのサポートは、いかがでしたか

横田)今回の取組自体が初めての試みでもあったので苦労した点はありましたが、資金調達面や事業計画策定に関して両社の細かいサポートや助言をいただき、迅速な対応が取れたと思っています。

最後に、MBOを考えている経営者に経験者としてアドバイスはありますか?

折茂)チーム運営や日常の業務を行っている中では、自社の株式買取について考える機会がなく、注意点や方法が正直わからない中で、本件の決断をしました。自社ですべてを調べ、資金調達を行い、MBOを実行するまでには相当な労力と時間を費やす必要があるため、多くの視点から専門家にアドバイスをもらうことで的確にメリットとデメリットを把握し、最善の策を模索することがいいのではないかと考えます。

折茂武彦

1970年埼玉県生まれ。日本出身選手として初めて通算1万得点を達成し、オールスターで9度のMVPを誇る。2020年に49歳で引退するまで、27シーズントップリーグで活躍した。選手としての事績に加え、経営者としてバスケットボール界に果たした貢献から「レジェンド」と呼ばれる。

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