INTERVIEW

戦略的にM&Aに取り組み
他社にない強みを持つ企業を迎え入れ
事業の多角化&ストック化を推進

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セイコーソリューションズ株式会社 代表取締役社長 関根 淳 氏

セイコーソリューションズ株式会社 代表取締役社長 関根 淳 氏

セイコーホールディングスグループのシステムソリューション事業を担うセイコーソリューションズ株式会社は、事業の多角化、ストック型ビジネスの強化を目指してM&Aに戦略的に取り組んでいる。2022年4月には、クラウドサービスに強みを持つ株式会社インストラクションなどIT企業3社とのM&Aを発表。今回のM&Aの経緯やねらい、今後のM&A戦略などについて、代表取締役社長の関根淳氏にお話を伺った。

ストック型ビジネスを基盤とするIT企業を買収
既存の事業の変革も図り、安定的な成長を実現

まず初めに御社の沿革を教えてください。

セイコーソリューションズ東京本社外観

当社はセイコーホールディングスグループのシステムソリューション事業を担う企業として、2013年にスタートしました。確かな技術力と幅広い事業領域が特長で、クライアントのさまざまなニーズに対してワンストップで最適なICTソリューションを提供、デジタルトランスフォーメーションの促進やビジネスモデルの変革を支援しています。

セイコーホールディングスグループの中では、ウォッチ事業、電子デバイス事業に続く第三の柱となる注力事業と位置付けられており、当社の事業の拡大を図ることはグループの重要な経営方針にもなっています。ウォッチ事業と電子デバイス事業が景気に影響されやすいといった背景もあり、安定的な成長を続けることが期待されていて、そのために事業の多角化とストック型ビジネスの強化を推し進めています。多様な製品やサービスを持つことは、環境変化に強い組織として、顧客に継続的に貢献するためにも重要です。

多角化&ストック化戦略の一つがM&A?

はい。今、日本のさまざまな事業者がストック型のビジネスを追求していますが、当社も2015年当時の利益は3割がストック型、7割がフロー型で、ビジネスモデルをフロー型からストック型に変革していくことが非常に大きな課題でした。

フロー型は、優れた製品・サービスを大量に・一気に売っていくスタイルです。ストック型は同じ要素があるにせよ、製品・サービスを常にアップグレードしてお客様と長くお付き合いしていくビジネスですから、ストック化を図るには、従来のセイコーの良い伝統や文化――お客様を大切にする、高品質の製品・サービスを提供するといったところは維持しつつ、仕事のやり方、お客様への接し方などを変えていかなければなりません。その見本となったのが、2017年、最初のM&Aで迎え入れた株式会社アイ・アイ・エムです。同社のビジネスはソフトウエアのパッケージを中心とした、まさにストック型のビジネスで、働き方やお客様との付き合い方なども既存の事業の変革を図る上で素晴らしい見本になってくれました。その後、2020年にソフト・ハードの受託開発・開発支援で実績のある株式会社コスモ、2021年に流通のEDIシステムで特色を持つ株式会社トータルシステムエンジニアリングを迎え入れ、2022年4月、株式会社インストラクションを含む3社とのM&Aを行いました。

3社同時のM&Aとなった背景は?

偶然です。注目されているようですが、大切なのは1社1社とのご縁であって、今回はたまたま3社とのご縁が同じタイミングになっただけです。当社のM&Aのお相手に共通しているのは、ストック型ビジネスに強いことと、バリュープロポジションの高い特徴的なサービスや技術を有すること。現在、多角化&ストック化戦略の中間地点にあると考えていますが、2015年からの6年間で、社員は600人から1100人、売上は194億から344億、利益は3億から39億になりました。24四半期連続増収増益で、安定的な成長を実現しています。

相手に望むのは「社員を大切にする」社風
M&A後は個々の社員の成長を支援するとともに、
後継者となる人材も育てたい

インストラクション様に興味を持たれたのはなぜですか?

ストック型ビジネスであることを前提に、サービスや考え方が今の時代に合っていて、クラウド化や新しい働き方へのシフトに苦労されている顧客に対し、新しいソリューションを提供している点が魅力的でした。

同社の一番の強みはクラウドサービスに長けていることで、会計アプリケーションのクラウド構築・運用を中心に、他社にないクラウドサービスを提供・サポートしています。いまやクラウドは必須のインフラになりつつありますが、導入・運用に苦労している中小企業が多く、インストラクションは高いスキルで、そのサポートをきめ細かく行っています。実際、インストラクションのお客様にお会いしましたが、皆さん非常に喜ばれていました。

加えて、仮想空間における独自のコミュニケーションツールがあり、新しい働き方を実践しているところにも着目しました。そうしたツールを駆使して、お客様のお問い合わせ対応なども仮想空間で行っています。ニューノーマルな働き方を創出することは多くの企業にとって命題であり、それを実現するサービスやスキルを持っていることは非常に価値が高いと思いました。

同社のサービスやスキルを活用して仮想空間上にビジネス基盤を構築するプロジェクトは、すでにスタートしています。まずはセイコーソリューションズの社内に導入し、メタバース上の働き方やコミュニケーションを追求していきたい。将来的にはリカーリングサービスとしてローンチすることを目指しています。

インストラクション様の経営陣の印象を教えてください。

インストラクションフロア
セイコーソリューションズ東京本社ビル5階にあるインストラクションのオフィスの様子

最初のトップ面談で、神田(祐治)社長と息が合ったというか、考え方が似ていると感じられました。私はM&Aにおいて「社員を大切にしている」会社かどうかを重視していますが、神田社長の言葉の端々から本当に社員を大切になさっていることが感じられ、この社長の下で働いている皆さんなら、素晴らしい愛社精神を持っているに違いない、ぜひ仲間になってもらいたいと思いました。

その後の交渉はスムーズに?

セイコーソリューションズ株式会社 代表取締役社長 関根 淳 氏
写真右はストライクの伴瀬

今回のケースに限らずトップ面談がうまくいけば、その後、大きな障害になることはあまり起きません。逆にトップ面談の印象が互いによくないような場合はうまくいかず、破談になることもあります。どんなM&Aにも乗り越えなければならない山がいくつかありますが、一番高い山はトップ面談で、そのほかの山はトップ面談の山より低い――というイメージでしょうか。

直接やりとりするとなると、調整に時間を要したり、こちらの思いや考えをどう伝えればいいか迷ったりする局面も出てきますが、今回はストライクに仲介をお願いしたため、スムーズに進みました。我々の事業内容を含めIT分野のこともよく理解して、きめ細かな対応をしてくれたと思います。

M&Aアドバイザーより一言(伴瀬卓也・事業法人部アドバイザー)

ストライク伴瀬

株式会社インストラクションの前オーナー様は、自社の「事業継続」を最優先事項と考え、急速に変化する時代に組織として順応するため、自らの社長退任時期まで具体的に決めておられました。他方、M&Aは必須ではなく、あくまで事業継続を成すための手段の一つでした。

そんな中、セイコーソリューションズ様に株式を譲渡する決断に至ったのは、関根社長とのトップ面談において、その経営方針・ビジョンに賛同し、自社の事業を発展させながら継続させることができると確信されたからでした。また、自社の既存サービスはもとより、ローンチ前の新サービスを高く評価いただいたことを大変喜んでおられました。

インストラクションの社長に就任されましたが、社員の方々の印象は?

予想通り、明るく元気で優秀で、会社が好きという方がそろっていて、今後の成長がとても楽しみです。インストラクションもそうですが、我が社のM&Aは、後継者不在のケースがほとんど。私は、その会社の社員が成長して事業を引き継ぐのがベストだと考えていて、インストラクションにおいても経営者となる人材を育てたいと思っています。

多様性を認め合うことがシナジーの第一歩
フラットな関係を築き、
良い文化や仕組みを“まねる”ことが成長につながる

PMIにおいて重視していることは?

ビルの入り口に並ぶセイコーソリューションズとアイ・アイ・エムのロゴ
東京本社ビルの入り口に並ぶセイコーソリューションズとアイ・アイ・エムのロゴ看板

我々の文化や仕組みに「合わせる」ことは望んでいません。むしろ違いがあるのは良いことで、インストラクションならインストラクションの文化や仕組みを尊重し、素晴らしいところを互いにまねていきたい。そのためにもフラットな関係を築くことを強く意識していて、例えば、東京本社ビルの入り口には当社とアイ・アイ・エムのロゴ看板が横に並んでいます。親会社・子会社の上下関係ではなく、仲間として互いを尊重し合うことのできる関係を築き、多様性のある事業体になっていくことが成長のためにも必要です。

当社はコロナ禍でもずっと増収増益を続けていますが、人材の多様性が大事だと改めて感じています。人材が多様化されていない事業は業績が落ちていく傾向がありますが、落ち始めたときに新しい人材を投入することができると業績は伸びていきます。このため、会社間での異動、人事交流も積極的に行っています。例えば当社の経営企画部長、広報宣伝部長、人事部長は、元はアイ・アイ・エムの社員です。インストラクションの皆さんに対しても適材適所で、さらなる活躍・成長ができるチャンスをつくっていくつもりです。

今後のM&A戦略について教えください。

事業の多角化・ストック化を図るためM&Aに積極的に取り組むという基本的な方針は変わりません。既存の事業とは重複しない、少し離れたところで他社にない価値の高い技術やサービスを持つお相手とのご縁があるといいですね。“飛び地”のようなイメージで、事業領域を広げていきたいと考えています。

最後にM&Aを成功させる秘訣を教えてください。

M&Aを成功させるために最も大切なのは、お相手の社員が辞めないようにすることであり、まず第一に、社員を大切にする会社、社員が愛社精神を持って働いているような会社をお相手に選ぶことがポイントになります。

M&A後については、先ほどもお話ししたように、お互いを尊敬し合うことが重要です。M&Aの目的はシナジーの創出ですが、シナジーを生み出す第一歩は、相手に尊敬の念を持ち、相手の長所を見出して、それをまねようという謙虚な姿勢を持つことです。M&Aによって、個性豊かな人たちが互いを仲間として認め合い、成長していけるような多様性に富むグループにしていくことが、会社の成長、ひいてはお客様への貢献につながっていくと思います。

本日はありがとうございました。

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