INTERVIEW

40歳の社長、社員の未来と会社のさらなる成長のために
年商12億円の会社を大手企業へ譲渡

  • #成長加速
  • #事業拡大
  • #業界再編
  • #戦略的M&A
  • #小売業
  • #商社・卸・代理店
株式会社シートレード 創業者 山崎 伸太郎 氏

株式会社シートレード 創業者 山崎 伸太郎 氏

北海道北見市で軽自動車の未使用車専門店「シー・モール」を運営する株式会社シートレード。同社は、燃費の良い軽自動車のブームを背景に急成長を遂げ、設立6年目には年商10億円を突破。生命保険の販売にも本格的に取り組み、自動車の購入を検討する顧客に生命保険を提案する独自のビジネスモデルを作ってきた。最近は売上が毎年12億円以上に達しているが、創業者の山崎氏は40歳という若さで同社の譲渡を決断した。なぜこのタイミングでの譲渡だったのか?山崎氏にお話を伺った。

カーライフに関わる多様なサービスに加え、生命保険事業を拡充
安定したストック収入を生み出す

シートレードの創業の経緯を教えてください。

大学を卒業して8年ほどサラリーマンとして働いた後、生まれ育った北海道北見市でシートレードを設立しました。2007年のことです。自動車ディーラーに勤めていた経験を生かし、最初は自宅の前や借りた空き地に、中古車を数台並べて販売していました。

自分の人脈を使いながら自動車を販売する中で、「届出済未使用車」の軽自動車の売れ行きが良いことに気づきました。届出済未使用車とは、書類上は中古車ですが未使用のため、ほぼ新車の自動車を指します。以前には「新古車」と呼ばれた時期もありました。競合店との差別化のために届出済未使用車の軽自動車を扱う専門店があるかどうか調べたところ、北海道内にはほとんどないことがわかりました。そんな折に、業界団体の方から「北見で高級外車を扱っていたディーラーさんが撤退するから、その跡地で開店しませんか」と声がかかったのです。

高級外車ディーラーが撤退した場所で、中古の軽自動車が売れるかどうか確信が持てませんでしたし、その跡地が国道沿いの1,000坪という広大な敷地だったのも問題でした。もう少し小さく、300坪程度だったら判断しやすかったと思います。それでも私はこのチャンスを生かそうと、その場所で軽自動車の未使用車専門店「シー・モール」を出店すると決めたのです。

2010年2月の開店が決まり、開店に向けて、金融機関から借りた資金を目いっぱい使って、未使用車を40台ほど用意しました。今から考えると、当時は資金繰りなどをまったく考えずに経営していて、無謀だったと思います。他社の見よう見まねでチラシを作って配るなどして、何とかオープンまでこぎつけました。

本当にお客様に来ていただけるか不安でしたが、開店するとすぐに何十組ものお客様が来て、40台の自動車を取り合うように購入してくださいました。あまりにお客様が多く、急きょ妻の家族にスタッフとして手伝ってもらうほどでした。こんなにも地域のお客様に支持していただけるとは思ってもいませんでした。

シー・モールが開店した初年度の売上は約4億円でした。その後、ちょうど軽自動車の性能やデザインが格段に良くなって軽自動車ブームが起こり、開店から4年後(会社の設立から6年後)には、売上が約10億円になりました。その後も消費税増税前の駆け込み需要などを取り込みながら、安定した業績が出せるようになっています。

シートレードの特徴と強みを教えてください。

株式会社シートレード 創業者 山崎 伸太郎 氏
「譲り受けてくださったのは、誰もが認める業界ナンバーワンの企業で、私にとっては、店づくりやスタッフ教育をお手本にさせてもらった理想の企業です。本当に申し分のない素晴らしいお相手で、私が希望する社員の待遇についてもご理解をいただき、譲渡後は社員の働き方にも良い変化が生まれています」

シー・モールは軽自動車の未使用車に特化しており、常に200台の在庫を展示する規模は地域ナンバーワンです。また自動車の販売だけでなく、整備や板金塗装、レンタカー、損害保険といったアフターサービスも強化してきました。お客様のカーライフに関わるサービスをワンストップで提供できることは、お客様の利便性の向上だけでなく、弊社の収益性向上にも寄与しています。

2011年から開始した生命保険事業も弊社の特徴です。その当時、私は自動車保険を少し扱っていたものの、生命保険についてはまったく詳しくありませんでした。ただ、社員の一人がたまたまファイナンシャル・プランナー1級の資格を保有していたのです。彼の資格を何とか生かせないものかと生命保険について調べてみたところ、複数の生命保険会社の商品を取り扱える「乗合代理店」という形態があることを知りました。当時の北見には1社専属の保険代理店が多かったため、「自動車を買いに来たお客様に最適な生命保険もご提案できたら、お客様にもっと喜んでもらえる」と思ったのです。

自動車販売店が生命保険を手がけるのは、今でも例が少ないと思いますが、お客様が自動車の購入を検討するタイミングは、生命保険をご提案しやすいタイミングでもあります。結婚した、引っ越した、子どもが生まれた......だから軽自動車を買いたい。そんな人生の節目を迎える方が多く来店されるので、生命保険についてお声がけすると、お話をよく聞いていただくことができました。その結果、今では生命保険事業だけで毎年2千万円ほどのストック収入を生むことができています。

同業・関連業種の買収も検討したが
成長戦略としてM&Aによる譲渡の道を選択

会社の譲渡を考えられたきっかけは?

実は、最初にストライクさんにご相談したのは「買収」についてでした。今後の会社を成長させていくために、同業か関連業種の企業を買収したいと思っていたのです。

しかし、相談に乗ってくれたストライクの小林さんの回答は予想外のものでした。小林さんに「社長、会社を譲渡することも成長の一つですよ」と言われたのです。売ることが会社の成長になるとは、どういうことなのか?最初は理解できませんでしたが、少し考えてみると、私が抱えていた課題の解決につながると気づきました。

当時、私は3つの課題を抱えていました。1つは、当初、急成長していた会社の業績が伸び悩んでいたことです。安定した業績というと聞こえは良いですが、「現状維持は衰退」という言葉もありますよね。売上の天井のようなものを感じて、不安になっていました。他社の買収を検討したのには、そんな背景があったのです。

2つ目は、人材の採用と育成が後手に回っていたことです。それまで、採用はしていましたが新卒採用をしたことがなく、しっかりした育成制度もありませんでした。人材と組織を作るノウハウがない。これが、さらなる事業拡大を図るうえで壁になっていました。

3つ目は、私が経営者として社員の求める会社の成長スピードに応えきれていなかったことです。会社を設立して10年が経ち、社員たちは家を建て、家族が増え、子どもが大きくなっていました。私は社員の働き方も変えてあげたい、もっと安定して昇給できるようにポストを作りたいと考えていましたが、社員の期待に応えられるような会社にするには、かなりの時間を要します。自分の今の能力では、むしろ社員にとって迷惑になってしまうだろうと感じていたのです。

ちょうど会社を設立して10年目の節目でした。店舗は私が現場に立って引っ張らなくてもよくなっていました。私以外の人が社長になっても経営できる――そんな安心感を持つことができ、経営者として一つの役目を果たせたという達成感も得られました。社員たちのために会社をもっと成長させたい。それは自分の代でなくてもかまわない。そんな考えがあったからこそ、ストライクの小林さんから提案された「大手資本のグループに入り、大手とタッグを組んで会社を成長させる」という選択肢を違和感なく受け入れることができたのです。

譲渡先企業についての感想を教えてください。

シートレードを譲り受けてくださった企業は、「軽自動車の届出済未使用車」の業界のパイオニアで、誰もが認める業界ナンバーワンであり、私の理想とする会社でもありました。関西にある会社なのですが、私も2回ほど視察に伺い、店づくりやスタッフ教育を見て、シー・モールのお手本にさせてもらったほどです。そんな会社がシートレードの買収に興味を示してくださっていると聞いたときは、本当にうれしかったです。

同社に資本力もノウハウも経営のスピード感もあることは重々承知していました。先方の社長と面談したときにも、今後の北海道での事業展開について話が盛り上がりました。また、私が希望する社員の待遇についてもご理解いただくことができました。小林さんには、本当に申し分のない、素晴らしい会社をご紹介いただいたと感謝しています。

共に歩んできた社員に社長業を引き継ぎ、相談役として会社や社員の成長を見守る

ストライクに相談されて良かったことはありますか?

小林さんは、私が感じていた課題をくみ取り、私を傷つけないような形で会社を譲渡するという選択肢に気づかせてくれました。小林さん以外の人からの提案だったら、私はお断りしたと思います。最初の相談の後も、小林さんは仕事が早く、私にストレスがかからないように進めてくれました。M&Aは相手企業をどう選ぶかが大事ですが、私はそれと同等かそれ以上に、良いM&Aアドバイザーに巡り会うことが大事なのだと感じました。

譲渡後の会社の状況について教えていただけますか。

山崎伸太郎氏とストライク小林
当初は同業か関連業種の企業を買収したいと考えていたが、ストライクに相談する中で、「会社を譲渡することで人材育成などの課題を解決し、社員の期待に応えることができる」と方針を変えた。「小林さんは、私がその当時に感じていた課題をくみ取り、私を傷つけないような形で会社を譲渡するという選択肢に気づかせてくれました。M&Aは相手企業をどう選ぶかが大事ですが、それと同等かそれ以上に、良いM&Aアドバイザーに巡り会うことが大事だと思います」(写真左はストライク担当の小林)

シートレードの社長は、創業時から私と共に会社を成長させてくれた社員が引き継いでくれました。譲り受けてくださった企業が現社長をサポートしながら経営している状況です。社長を引き継いで半年くらいが経ちましたが、現社長から私がいなくて困るといった相談はほとんどありません。私は相談役という立場で会社に顔を出してはいますが、私からは口を出さないようにしています。一歩引いて、見守り役に徹しています。

雇用については、今後のシートレードの事業展開を見据えて譲渡した企業から資金を投入していただけています。社員数が増えたことで、以前よりも仕事に余裕が生まれてきたように感じます。社員の帰宅時間が私の社長時代より早くなったのは、良い変化ではないでしょうか。

今年はコロナウイルスの問題があります。実はシートレードは、世の中の多くの会社ほど大きな影響を受けませんでした。自動車の販売減は20%ほどでとどまりました。整備工場や板金の仕事は堅調でしたし、生保・損保事業はまったく影響がなかったため、全体の売上への影響は軽微でした。販売後のアフターサービス事業を強化してきたこと、生命保険販売によるストック収入を作ってきたことが奏功しました。シートレードの強みが発揮できたのではないかと思うと、誇らしいです。

ご自身のM&A体験をもとに、他の経営者の方にアドバイスをお願いします。

良い会社に譲渡することができましたが、M&Aの検討中はずっと本当に譲渡すべきなのか悩んでいました。自分が40歳と若かったこともあり、譲渡せずに経営を続けることもできたのです。ただ、個人的に経営者というのは、意地で経営者であり続ける必要はないと思っています。

私の場合、「自分は社員たちの求めに応えられているか」「別の人が経営したほうが社員たちのためになるのではないか」を考えるようになりました。金銭的なメリットだけであれば、経営者であり続けたほうが良いかもしれません。しかし、社員やお客様にとってより良い未来を考えた結果、自分が経営するよりも良い選択肢はありうると思います。その可能性を考えると、M&Aによる会社の譲渡という選択肢は検討しておいて損はないと思います。

本日はありがとうございました。

本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
是非お気軽にお問い合わせください。

他のインタビューを読む