ソフトウェア業界の動向

(更新日:2019年1月)

業界定義
ソフトウェア業とは、日本標準産業分類では情報サービス業に属し、情報処理振興事業協会(IPA)の分類では情報処理産業に属する。具体的には、受託開発ソフトウェア業、組込みソフトウェア業、パッケージソフトウェア業又はゲームソフトウェア業などを指す。(特定サービス産業実態調査)
業界シェア
ソフトウェア業界は、SI(システムインテグレーター)系(NEC、富士通、日立、NTTデータなど)、独立系(ITホールディングス、CSK、富士ソフトなど)、コンサル系(野村総研など)の大手が存在し、それらに中小の下請企業がぶらさがる多重下請構造となっている。パッケージソフト分野では、マイクロソフト、オラクル、SAP等グローバル企業が大きな地位を占める。

市場規模 約2兆8,579億円

(IDC Japan)

成長率5.8%

(IDC Japan)

関連法規
個人情報保護法、不正アクセス行為の禁止等に関する法律、電気通信事業法

業界分析

経済産業省「特定サービス産業動態統計」をみると、情報サービス業の売上高は増加傾向にある。近年は、「IoT」「Fintech」などといった情報技術革新の潮流が顕著にみられ、業種を問わずIT投資が拡大しており、今後も順調な市場の成長が見込まれる。

ソフトウェア業界には、マイクロソフトやオラクルのようなパッケージソフト開発企業、アクセンチュアや野村総研のようなコンサル系、ITホールディングスのような独立系など多様な事業形態があるが、今回はSI(システムインテグレーター)業界の動向について詳述する。

システムインテグレーターの業務は企業のシステム構築のバリューチェーンである企画・設計、開発、導入、運用の流れの全体に関わっている。企画・設計工程では要件定義と設計を行い、開発、導入工程ではハードウェアの調達やソフトウェアのライセンス取得、カスタマイズ開発などが行われる。運用工程では、データセンターなどITインフラの提供・管理や、データプロセッシングなどの業務処理、システムの保守などが行われる。

ピラミッド構造のシステム業界

システムインテグレーターは主契約者として案件全体をマネジメントしており、特に日本のシステム開発関連業界については、複数の下請けから成るピラミッド構造システムとなっている。本業界の企業群は、その頂点(1次ベンダー)に位置し、主契約者(プライムコントラクター)として発注企業からの案件を請け負い、それぞれの作業工程を副契約者(サブコントラクター)に発注し、全体のマネジメントを行っている。このピラミッド構造の最下層に位置するのがプロジェクト単位で業務を請け負い、エンジニアを供給するシステムエンジニアリングサービスと呼ばれる業者である。従来は大企業が元請けとなることが多かったが、近年は2次請け以下を中心とする事業者が直接顧客と契約を結ぶ場合もある。また2009年頃からは総務省によりシステム開発などの再委託を適正化する動きがみられ、大企業を中心に3次請け以下を活用しないような自主規制も行われている。

人件費による影響から各種サービス部門の強化が鍵に

本業界は人件費負担が大きく利益を上げにくい構造であるため、サービス部門の強化が鍵となっている。また、企業のIT投資動向の影響による受注の増減や不採算プロジェクトの発生などのリスクも内包している。そのため、近年は自らデータセンターを保有して顧客企業のデータ管理を行ったり、運用中のサポートサービスを行ったりなどストック型ビジネスを強化することで、収益の安定化を図る企業も目立ってきている。

また、少子高齢化による人材不足からIT関連業界ではASEAN諸国を中心としたオフショア開発を進めてきた。しかし近年、オフショア開発の普及に伴って、日本を含む先進国企業のシェアを新興国企業が奪うだけではなく、先進国企業のサービス価格に対しても低下圧力をかけるなどの弊害が発生している。さらにASEAN諸国においても人件費上昇が顕著である。

クラウドサービスなどの新技術への対応や提案力の強化が重要に

近年、SaaS(Software as a Service)などのクラウド型システムが徐々に普及している。クラウド型システムは、ユーザー側のハードウェアに開発を行う必要がないため、導入費用が低下したほか、運用中の機能やサービスの追加、変更などが容易になり、コスト削減にもつながった。このような背景からユーザー企業のシステム需要に対してシステムインテグレーターが関与する必要性は従来に比べ、低くなってきている。今後の本業界事業者には、技術革新の早さに対応しながら、ユーザー企業のニーズを捉え、最適なシステムやサービスを提案する能力が求められている。

M&Aの視点でみると、前述の通り、企業のソフトウェア投資に対する考え方が改善傾向にあり、事業会社によるIT企業の買収が目立つ。大手企業はクラウド、ビッグデータ、IoT関連などを中心にさらなる成長を模索しており、それに伴う技術者不足の問題をM&Aで解決しようとする傾向がある。このような状況を背景に、今後も国内ソフトウェア業界のM&Aは増加を続けるであろう。

■国内ソフトウェア市場予測(2017年~2022年)

国内ソフトウェア市場予測

M&A動向

近年、ソフトウェア開発業界はM&Aが活発である。特に国内では中小企業におけるM&Aが増加傾向にある。この要因は主に三つある。1つ目は企業のソフトウェア投資に対する考え方が改善傾向にあることだ。政府による経済対策や金融緩和、好景気の影響もありクラウドやIoT、ビッグデータを中心にIT投資が行われる動きが見え始めている。これに伴い、ソフトウェア開発業界では、買収や資本・業務提携等により自社にない技術や機能を補完し業容を拡大しようという狙いがある。2つ目は技術者の人材不足である。IT業界における人材不足は深刻な状況であり、ソフトウェア開発業界もその影響を受けている。こうした中、大企業を中心にM&Aを活用して優秀な人材を確保し、事業を拡大しようとする潮流がある。3つ目は本業界特有のピラミッド構造システムによる下請け企業の統廃合である。単独での成長が難しい企業は、大手の傘下に入ることや同業と資本業務提携することが事業規模拡大の一つの選択肢となっている。

2018年10月にはクレスコ(東京都)がパッケージソフトウェア開発をおこなうアルス(東京都)の全株式を取得し、子会社化することを決議した。同社グループは子会社10社、持ち分法適用会社3社の体制の複合IT企業であり、情報システムに関するコンサルティング、設計、開発、運用管理、保守などをおこなっている。対象会社は、日本アイ・ビー・エムの認定コアパートナーで、人事・給与・ワークフロー関連のパッケージソフトウェアの設計・開発を主たる事業としている。本件によりパッケージソフトウェア開発事業を取り込むことで同社グループにおける企業価値の更なる向上に資するとしている。

また、積極的なM&Aにより海外事業展開を加速させている企業も目立つ。その代表的な企業の一つがNTTデータ(東京都)である。2016年には北米事業子会社の統括を行う米国のNTT Data International社がクラウドサービスやアプリケーション関連サービス、ビジネスプロセス・アウトソーシング(BPO)サービスなどを手がけているDell Services部門の子会社3社を子会社化するとともに、ITサービス関連事業を譲り受けた。株式取得価格と事業譲り受け価格の総額は30億5,500万ドル(当時の価格は約3,465億円)で、最先端の技術を活用したサービスの強化を目指したM&Aといえる。また、同社の2016年以降の主なクロスボーダーは14件に達する。こうした積極的なM&Aが功を奏し、2018年3月期の売上高が、初の2兆円超えとなる2兆1,171億円(前期比22.2%増)に達し、営業利益も前期比5.5%増の1,235億円となっている。

企業価値の目安

ソフトウェア開発業界は、労働集約的なビジネスであるため財務構造として固定費の占める割合が高い。業務用パッケージソフトはシェアの大半を外国製が占めており、国内企業はドメスティックかつニッチな市場で厳しい競争を続けている。今は、パッケージソフトよりもクラウドでのサービス提供に重きが置かれており、クラウド技術を持っていない企業は、市場価値が低い。逆に市場価値が高いのは、Fintech、Big Data、AI、IoT、Data Analytics、AR/VRなどの先進技術を有している企業だ。ソフトウェア業界の企業価値を判断する場合、簿価上の資産だけで評価するのではなく、数字に表れないSEやプログラマーのスキルレベルなど人材面にも目を向ける必要がある。

企業価値