人材派遣業界の動向

(更新日:2019年1月)

業界定義
一般労働者派遣事業及び特定労働者派遣事業(労働者派遣法より)
業界シェア
業界トップは、リクルートホールディングスで部門売上高は1兆8,116億円、第2位はパーソルホールディングスで7,221億円、第3位はパソナグループで3,114億円となっている。(2017年度)

市場規模 6兆4,995億円

(厚生労働省)

成長率1.2%

(前年比)

関連法規
労働法、職業安定法、雇用対策法

業界分析

政府は2015年に派遣業界の労働環境改善を目指し、法改正に踏み切った。この法改正では、特定派遣事業所を廃止し、すべて許可制に統一する許可基準改定が盛り込まれた。これを受けて、過去に届け出だけで設立された特定派遣事業所は、2018年9月29日までに認可を得なければ事業を継続できないことになった。改正法では、「資産-負債(基準資産額)が2,000万円×事業所数以上であること」、「自己名義現金預金額(資産の中の現金)が1,500万円×事業所数以上であること」、「資産-負債が負債の7分の1以上であること」など、財産的基礎の許可基準が設けられている。この基準を満たせない事業者は、廃業するか、事業譲渡するか、認可事業者の傘下に入るしかない。これを受けて業界は大規模な業界再編が起きると予想された。しかし、基準を満たせない業者が、SES契約などの準委任契約など認可を得ずに事業を展開できる抜け道を見つけ出したことで、思いのほか業界再編は進まなかった。近年、準委任契約で事業を展開している事業者は、事業を継続的に展開できている事業者と、規制で経営が厳しくなり同業者に買収される事業者や、人材確保を目的とする事業会社に買収される事業者への二極化が進んでいる。

新しい人材サービスの形

高収入労働者向け転職サービスで事業を急成長させたビズリーチや、顧問ネットワークを提供するパソナグループ、顧問名鑑をはじめたレイスグループなどに代表されるエグゼクティブ人材対象の人材サービスが急伸している。その背景には2つの市場変化があると推察される。1つ目は、既存事業の枠を超えた新規事業にチャレンジする企業が増えたことだ。消費者のニーズが急速に変化している中、既存事業だけでは成長が頭打ちになっている企業の多くが、新たな収益源を獲得するべく新規事業へのチャレンジを加速している。しかし、既存事業にはない新規事業を展開するには、それをリードする人材が必要となるが、社内に人材がいないため、外部からエグゼクティブ人材を獲得せざるを得なくなっているのである。もうひとつの市場変化は、スタートアップ系企業が急増していることだ。スタートアップは、起業当初は事業をドライブする人材で立ち上がるが、事業が成長していくと組織をまとめたり、経営視点で戦略を考えたり、事業開発ができるエグゼクティブ人材が必要になってくる。その受け皿となっているのが、各社が続々参入し活況を呈しているエグゼクティブ人材サービスなのである。

人材サービス会社の新たな挑戦

今後、人材サービス会社はM&A仲介事業に参入することが予想される。人材サービス会社は、M&Aを仲介することで企業の人材確保をサポートできる他、転職サイトで人材と企業をマッチングさせた経験から、同じように企業と企業をマッチングさせるサービスが展開できると予想して、M&A仲介サービスを開始する。また、業界特化型の人材サービス会社は、その業界からM&Aの仲介サービスを始める場合が多い。

M&A動向

最大のトピックは、国内最大手のリクルートホールディングス(東京都)が、米国で求人企業の評価などを共有できるウェブサービスを運営するGlassdoor社(米国)を、約1,300億円で買収したことだ。この案件は2018年度の日本企業の買収金額で、9月末時点で8位に位置する超大型案件である。リクルートホールディングスは、Glassdoorの全株式を取得し完全子会社化することで、子会社であるIndeed(米国)と協働してグローバルでのオンラインHR領域の発展と拡大を目指していると推測される。

人材サービス業が活発となる中、多くの事業者が、他分野の人材サービス業や海外人材サービス業に注力するべくM&Aを活用するケースも増えている。国内で建設技術者派遣事業と施工図作図事業を展開する夢真ホールディングス(東京都)が、技術者派遣の三立機械設計(東京都)を子会社化、ITエンジニア派遣のネプラス(東京都)を子会社化、同様にITエンジニア派遣のCenturion Capital Pacific(比国)を子会社化するなど、他分野や海外の人材サービス業に参入するための買収案件が増加している。

子会社を通じて人材サービス会社を買収するケースもある。多角的に事業を展開するITbookホールディングス(東京都)は、ITコンサルティングを専門とする完全子会社のITbook(東京都)を通じて、専門職の派遣に特化した事業者のイスト(東京都)を子会社化した。ITbookホールディングスは人材サービス業も展開しているため、新たな分野への進出と既存事業との融合を生み出せると考え、イストをグループに迎え入れた。

国内でアルバイト紹介を主力とするフルキャストホールディングス(東京都)は、家事代行サービスのミニメイド・サービス(東京都)の全株式を取得し、完全子会社化した。フルキャストホールディングスは、家事代行サービスが主力事業のアルバイト紹介に付加価値を与えるものと判断し、シナジー効果が生み出せると考えM&Aを進めたのだと推察される。

「求人@飲食店.com」や「飲食 M&A by 飲食店.com」を運営しているシンクロ・フード(東京都)は、飲食業界に特化した人材サービスとM&A仲介サービスを展開するウィット(東京都)を買収した。「飲食店.com」の顧客データとウィットの保有する顧客データを共有することで、多くの飲食店データが手に入り、満足度の高いM&A仲介サービスが提供できると考え今回の買収に踏み切ったと予想される。M&A仲介サービスは情報量の多さが最適な企業のマッチングを支えるので、今後も情報量を増やすために同様のM&Aが増加していくと考えらえる。

人材サービス業界は人手不足が社会問題となっている今、新規参入が相次いでおり競争が激しくなっている。M&Aの動向を見ると、事業者は人材を派遣できる分野を幅広く持つことで事業を発展させようとする意図が見える。また、人口減少や少子高齢化で市場が縮小すると予測される国内だけではなく人口の多い途上国や海外で人材サービスを提供することで、今後の発展を進める動きも見える。

企業価値の目安

EV/EBITDA倍率平均は、約19.4%となっており、全体的には10~16倍の幅が広く約28.9%を占め、20倍~も約33.3%を占めている。人材サービス業界は活況であるため、多くの企業が高く企業評価されている。

企業価値