調剤薬局業界の動向

(更新日:2019年1月)

業界定義
一般の大衆薬(OTC)、化粧品、洗剤等を扱う医薬、化粧品小売業とは一線を画し、医師からの処方せんに基づいて医薬品を調剤し、患者に提供する薬局。(業種別審査事典)
業界シェア
上場企業における業界トップは、アインホールディングスで売上高は2,481億円、第2位は日本調剤で2,234億円、第3位はクラフトで1,680億円となっている。

市場規模 約7兆6,664億円

(厚生労働省)

成長率3.1%

(厚生労働省)

関連法規
薬事法

業界分析

1980年代、日本で薬の処方と調剤を分離する医薬分業が始まり、それぞれを医師、薬剤師という専門家が分担して行うことが主流となった。2018年現在、医薬分業率は70%を超えている。調剤薬局の利益は薬価差益と調剤報酬で成り立っており、処方箋の処理枚数がほぼ売り上げに直結する業種といえる。日本にある薬局の数は約58,000店であり、コンビニエンスストアの総数を上回っているのが現状だ。2017年度の調剤医療費(電算処理分に限る。以下同様。)は7兆6,664億円(伸び率+3.1%)であり、処方せん1枚当たり調剤医療費は9,187円(伸び率+1.9%)であった。その内訳は、技術料が1兆9,122億円(伸び率+3.4%)、薬剤料が5兆7,413億円(伸び率+2.9%)、特定保険医療材料料が130億円(伸び率+1.6%)であり、薬剤料のうち、後発医薬品が1兆92億円(伸び率+16.9%)であった。しかし近年では医療費削減などにより処方箋枚数の伸びが鈍化しており、分業率も頭打ちとなってきている。新規出店が困難なため、売り上げを増す手段として大手企業のM&Aで店舗を拡大する動きが注目を集めている。

立地ビジネスから地方包括ケアへ

近年、大手企業の資本力にものを言わせた大型買収が表面化しているが、彼らは単純な規模拡大だけでなく、明確な差別化を図ろうと模索している。その背景には2018年度の調剤報酬改定の影響がある。これまでの調剤薬局は病院の近くに出店することが収益を上げる一番の要素だった。それゆえ医師との関係性が最も重要視されていた。しかし、2018年度、調剤報酬改定により調剤薬局は、立地依存の便利さだけで患者に選択されており、サービスや機能を重視されない存在から脱却せざるを得なくなった。なぜなら、今回の改定により地域の病院や介護施設、患者の自宅に出向き、薬の管理をしたり、24時間患者に対応できるシステムを作ったり、災害時を想定し、顧客管理をクラウド化せざるを得なくなったからだ。またこの改定により調剤基本料については、薬局グループ全体での処方箋回数が40万回超で、処方箋集中率が85%超、医療モールなどのように特定の医療機関と賃貸借関係がある保険薬局については新たに点数を減算することとなった。

大手企業が異業種とのM&Aを行うことで実現した新規サービスには次のようなものがある。アインホールディングスがNTTドコモと共同で開発したスマートフォンのお薬手帳アプリ。メディカルシステムネットワークと日本郵政株式会社が提携し、「ゆうパック」を利用して在宅医療患者向けに処方箋等を宅配するサービス。クオールは、ローソンやJR西日本と提携し、コンビニや駅で処方箋を受け付けるサービスを提供している。一方、日本調剤はお薬手帳アプリを活用してビッグデータを収集して新たなサービスの開発を目指している。さらに、2018年10月には、顧客のビッグデータを解析して経口糖尿病治療薬DPP-4阻害薬の服薬継続率を解析した結果を報告しており、今後さらなるサービスの拡充が期待されている。

※出典:厚生労働省

M&A動向

薬局業界は成熟市場ではあるが、少子高齢化により今後も一定の成長が見込めることや、規制緩和(2009年6月の薬事法改正)の影響により、M&Aは活況である。2016年以降は、大手事業者による新規マーケット開拓の効率化と人員確保を主とした同業者への買収が相次いでいる。

業界トップのアインホールディングス(北海道)は2018年8月にコム・メディカル(新潟県)及びABCファーマシー(新潟県)の全株式を取得し、子会社化することを決定した。コム・メディカル及びABCファーマシーは、新潟県を中心に関東・東北・北陸で調剤薬局56店舗を展開し、社内研修や勉強会の開催により「かかりつけ薬剤師・薬局」としての機能強化にも取り組んでいる。同社の株式を取得することによりアインホールディングスは、さらなる店舗網の拡充を図るとともに、患者サービスを充実させ、全国における地域医療のインフラとしてグループの企業価値向上を目指すとしている。業界3位のクオール(東京都)も積極的にM&Aを進めており、2018年5月には瀬尾薬局駅東店(山形県)を取得したことを発表した。クオールの現在のグループの店舗数は700店舗を超えている。

中堅企業も積極的なM&Aを仕掛けている。ココカラファイン(神奈川県)は、2018年12月にケイエス(千葉県)の全株式を取得し、子会社化したことを発表した。ケイエスは千葉県で調剤薬局3店舗を運営しており、当取引によりエリアにおけるドミナントを深耕し、地域におけるヘルスケアネットワーク構築の推進を目指している。また、ソフィアホールディングス(東京都)の連結子会社であるルナ調剤は2018年4月に、ビーライク(神奈川県)の株式を取得し、M&Aによる調剤薬局事業への参入を果たした。

一方、隣接業界のドラッグストアが調剤薬局を買収し、事業を拡大するケースも今後増えると予想される。その典型例が、2017年8月に発表されたツルハホールディングス(北海道)による杏林堂薬局(静岡県)の買収である。浜松市を中心に77店舗のドラッグストア・調剤薬局を展開し、静岡県随一の規模と知名度を誇る杏林堂薬局の買収は、規模拡大を活かした共同仕入やプライベートブランド商品の共同開発、相互のノウハウ、人材等経営資源の共有など、大きな相乗効果が期待されている。

企業価値の目安

「2016年改定」を受けて、訪問介護がさらに重視される中、24時間調剤や在宅業務が行える調剤薬局の価値が高まっている。大手調剤薬局チェーンならびに大手ドラッグストアは、事業継承問題を抱える地方の個人経営あるいは小規模薬局チェーンの買収に力を入れており、特に薬剤師の人数が多い薬局ほど企業価値が高い傾向がみられる。EV/EBITDA倍率の平均は8.71倍、6~8倍、10~12倍台に二つのピークがきている。

企業価値の目安