出版・書店業界の動向

(更新日:2019年1月)

業界定義
出版業とは、主として書籍、教科書、辞典、パンフレット、雑誌、定期刊行物などの出版を行う事業所。書店(書籍・文房具小売業)とは、主として書籍及び雑誌を小売する事業所。(総務省日本標準産業分類より)
業界シェア
出版業界トップは、集英社で売上高1,229億円、第2位は講談社で売上高1,172億円、第3位はカドカワで売上高1,114億円(部門売上高)。書店業界トップは、カルチュア・コンビニエンス・クラブで売上高2,551億円、第2位は丸善CHIホールディングスで1,784億円、第3位は紀伊国屋書店で1,059億円。(2016年度)

市場規模1兆4,709億円

(出版科学研究所「出版月報」より)

成長率3.4%

(出版科学研究所「出版月報」より)

関連法規
著作権法

業界分析

2016年の出版販売金額は、前年比3.4%減の1兆4,709億円となり、12年連続で販売額減少となった。電子書籍の市場規模は、前年比27・1%増の1,909億円、一方、出版物は、書籍が-2.2%、月刊誌が-4.4%、週刊誌が-6.5%と軒並み減少、月刊誌や週刊誌は休刊数が創刊数を上回る状況が続いている。

特に、生活、ファッション、趣味などをテーマにした一般誌は、ネットに顧客を奪われており、今後も市場は縮小する一方とみられている。こうした厳しい経営環境の中、生き残りを賭けて、紙媒体に頼らない経営へ軸足を移そうとする企業が増えている。総合出版の中で数少ない上場企業であるカドカワは、2014年に「ニコニコ動画」を運営するドワンゴと経営統合し、電子書籍やコンテンツ配信へ事業を拡大。Web小説を強化したり、ネット上のクリエイターを囲い込むため投稿小説サイト「カクヨム」をオープンしたり、ネット上での事業拡大に取り組んでいる。中小規模の出版社の中には、ライトノベルでヒットタイトルを生み出し、これをアニメ化や2.5次元舞台化したり、さらに2.5次元俳優専門の書籍を販売したり、キャラクターグッズを販売することで、紙に頼らない経営を目指す会社も出てきた。

紙媒体が低迷する中、電子書籍の市場規模は拡大を続けており、2020年度には3,000億円程度まで拡大すると見られているが、出版市場全体に占める電子書籍の割合は2016年時点で1割程度と、まだ規模は小さい。講談社は「電書info」、小学館は「小学館eBooks」、カドカワは「BOOK☆WALKER」など、各社自社サイトで電子書籍の販売を開始する一方で、Amazonなどの大手電子書籍ストアや、NTTドコモが運営する定額読み放題サービス「dマガジン」などにコンテンツを供給して、新たな収益源の獲得に向けて模索を続けている。

出版流通では、Amazonなどの電子書籍ストアが出版社や著作者と直接取引を開始したり、楽天のようなECサイトが二次取次の役割を担ったり、流通経路が変化する中で再販委託制度が崩れはじめている。2015年には、業界第4位だった栗田出版販売が民事再生法適用を申請(2016年に大阪屋と経営統合)、2016年にも中堅企業の太洋社が自己破産申請に至っている。最大手の日本出版販売(ニッパン)は、2016年に大日本印刷から文教堂グループホールディングスの株式を取得し、筆頭株主となった。出版業界は、川上から川下まで厳しい経営が続いており、今後も業界再編が続くことが予想される。

AmazonなどのECに加え、近年では無料でコミックが読めるWebサービスが急増したこともあり、書店の経営はますます厳しさを増している。全国的にみると、店舗面積100坪以下の中小零細書店の閉店、廃業が進む一方で、300坪以上の大規模店が増加する傾向が見られる。明るい話題としては、店主が独自のセンスで書籍をセレクトするキュレーション型の書店が人気を集めたり、TSUTAYA(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が運営する「Tサイト」などカフェ併設型の書店や、家電と本を併売する「蔦屋家電」が人気スポットになったり、書籍を切り口とした新たな形態の店舗が受け入れられ始めていることくらいか。

■電子書籍・電子雑誌の市場規模(予測値:2015-2019年度)
出典:インプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2015』

出典:インプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2015』

電子書籍・電子雑誌の市場規模

■書籍・雑誌小売業の年間商品販売額および事業所数の推移

出典:経済産業省『商業統計(産業細分類別)』

雑誌小売業の年間商品販売額および事業所数の推移

M&A動向

出版業界では、自社コンテンツとネットの融合を図るためのM&Aが増えている。2014年7月には、講談社(東京)はグローバル・ブレイン(同)と共同で、アジア圏最大級の写真共有ソーシャルメディア「Snapee」を運営するマインドパレット(同)に資本参加した。講談社はファッション雑誌「ViVi」のコンテンツを、同SNSに提供するなどしてアジア圏でのプロモーション強化を目指す。ゴルフ関連出版のALBA(同)は、子会社を通じて同業のPargolf&Company(同)、スポーツ関連コンテンツ開発などのP.A.R. Sports Marketing(同)の2社から全事業を譲り受け、両社が運営していたオンラインメディアとの連携を強化する。小学館(同)は、2016年9月に育児コミュニティサイトを運営するベビカム(同)に資本参加し、幼児誌のコンテンツを活用して総合育児サイト「DAKKO」をリニューアルオープンした。「PEAKS」「ランドネ」などのアウトドア誌を発行するエイ出版社(同)は、2017年6月に、遊びのマーケットプレイス「asoview!」を運営するアソビュー(同)に資本参加し、メディアミックスのソリューションを自治体や企業に提供することを目指している。

業界に専門特化した出版社を取り込むことで、業務の強化や新事業参入を目指すM&Aも見られる。2014年9月には、医学分野の新聞・雑誌・書籍・Webメディアを手掛けるメディカル・トリビューン(東京)が、武田薬品工業の子会社で医学・薬学に関する定期刊行物・徒手出版・取り次ぎ販売の日本臨牀社(大阪)を買収。学研出版ホールディングス(東京)は、小中高向けの学習参考書・問題集・塾専用教材・学校用図書教材を手掛ける教育出版の文理(同)を買収し、デジタル教材をはじめとした教育ソリューションの提供を目指す。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)(同)は、2015年7月に民事再生手続き中だった「美術手帖」などを出版する美術出版社の事業を譲り受け、アートをテーマにした「銀座 蔦屋書店」をオープンした。さらにCCCは、2017年12月にも主婦の友社(同)を買収、同社のコンテンツを活用して書店事業の拡大を目指すという。

国内市場が縮小する中、海外に市場を求めるM&Aも見受けられる。2014年6月、日経BP社(同)は、トルコの出版社MDG(トルコ)を買収。同社は米タイムからライセンスを得て「フォーチュン」、ファッション・生活系の「インスタイル」などの有名誌を発行しており、この事業を引き継ぐことで海外事業の足掛かりをつくろうとしている。講談社(東京)は、2015年1月にデジタルガレージ(同)に資本参加し、同社の持つO2Oなどのマーケティング手法を利用して北米のデジタルコミック市場開拓に挑む。カドカワは、米国子会社を通じて米出版大手のアシェットブックグループ(アメリカ)が日本の漫画・ライトノベルなどの英語出版を営むYen Press事業部門を分社化して設立するエンプレス(アメリカ)を買収。同社を北米の事業拠点として出版アニメ配信事業を強化する。

ほかには、2016年10月に講談社が、累計210万部の「オタクに恋は難しい」をはじめとするコミック作品・マンガ・ライトノベルスを観光する中堅出版社の一迅社(東京)を買収したように、特定分野で人気の高いコンテンツを取り込むためのM&Aも、事業強化の有効な戦略といえるだろう。

書店では、2014年9月に、ゲオホールディングス(愛知)が東海地方を中心に「三洋堂書店」88店舗を展開する三洋堂ホールディングス(同)を、文教堂グループホールディングス(神奈川)は、関西圏で8店の書店チェーンを展開するキャップ書店(大阪)を買収、2016年3月にアニメイト(東京)グループで書店経営の書泉(同)が、東京地裁から破産手続きの開始決定を受けた同業の芳林堂書店(同)の事業を譲り受けた。

出版取次大手のトーハン(東京)は、2014年10月に子会社で書籍・雑誌・DVD・CD販売を手掛ける明星書店(愛媛)を通して同業のイケヤ(静岡)から4店舗を譲り受け、2016年10月にも全額出資子会社のブックス・トキワ(東京)を通じて、書店チェーンのあおい書店(愛知)から全22店舗のうち19店舗を会社分割して設立した新・あおい書店を買収した。

企業価値の目安

規模の大きい出版社ほど、印税・原稿料に加え、広告宣伝費やその他営業費の割合が大きく、利益が出にくい構造になっている。出版社は、専門特化したコンテンツを持っているか、今後も増刷が期待できる書籍を持っているか、アニメ化やグッズ販売などの収入につながるIPを持っているか、財務諸表に現れないこうしたコンテンツの有無が価値を左右するファクターとなる。

書店経営は、売上高に対する流動負債の割合が大きいため、常に経営が自転車操業に陥りやすい。近年、大手書店チェーンでは、書籍・文房具だけに頼らず、雑貨販売やカフェ経営などに乗り出す店舗が増えており、こうした新規事業の成否が今後の企業価値を左右する要因となる可能性が高い。また、独自のキュレーション能力を生かしてオリジナリティの高い品ぞろえができる小規模書店であれば、その店員の能力に高い価値を期待できる。

EV/EBITDA倍率は、マイナス値となっている企業が数社あるため、平均値が約-0.1倍となっている。

企業価値