建設事業の動向

(更新日:2019年1月)

業界定義
土木工事業、建築工事業、建築リフォーム工事業、大工工事業、電気工事業等(総務省日本標準産業分類より)
業界シェア
ゼネコンの売上高1位は大林組の1兆9,006億円、第2位は鹿島建設で1兆8,306億円、第3位は大成建設で1兆5,854億円となっている。(各社有価証券報告書より)

市場規模 56兆6,700億円

(2018年度見通し)(出典:建設経済研究所)

成長率1.2%

(2018年度見通しの2017年度比)(出典:建設経済研究所)

関連法規
建設業法、建築基準法、都市計画法、景観法など

業界分析

建設・土木業界は、2020年開催予定の東京オリンピック・パラリンピック関連の大型再開発が発注のピークアウトを迎えた。2018年度の建設投資は56兆6,700億円の見通しとなり、2017年度と比較して1.2%の微増となった。また、スーパーゼネコン、準大手・中堅ゼネコンは、軒並み好決算を記録。その要因として挙げられるのが、粗利率の改善だ。ゼネコン各社は、バブル崩壊後やリーマンショック後、工事量減少に直面し、赤字受注せざるをえなかったが、その後の景気回復や東日本大震災の復興需要により、工事量が急増したため、利益率の高い案件にシフトしたことが、好業績の源泉となっている。

建設業界の課題は、都心と地方との業績格差だ。2017年度の地域別建設活動の出来高ベースを見ると、地域別のトップは関東地方で約20兆円、次に近畿地方で約6.4兆円、中部地方の約6.2兆円、九州地方(沖縄含む)の約6.1兆円、東北地方の約6兆円、北海道の約3兆円、中国地方の約2.8兆円、北陸地方の約2.7兆円、四国地方の約1.6兆円と続く。トップの関東地方と最下位の四国地方の差は出来高ベースで約12.5倍となっており、その背景には東京オリンピック・パラリンピック関連の大型受注などがある。公共工事の受注には経営事項審査が必要になり、審査の点数で受注できる工事の規模が決まってくるため、スーパーゼネコン、準大手・中堅ゼネコンに比べて点数が低くなる地方の中小企業は、公共工事の受注が難しく、今後も格差は縮みそうにない。

都心部と地方の格差

グラフ

深刻な人手不足

2017年度の建設業就業者数は約498万人と、ピークの1997年から約7割まで減少した。過酷な労働環境のイメージから若者の入職者が減少傾向にある中、高齢の就業者が引退していくため、今後も就業者数は減少することが予想される。地方の中小企業は、若者の減少に加え、知名度の低さと自社アピールの機会が限られることも、人手不足を深刻化させる要因となっている。

一方、都心では現場監督が不足している。現場監督が持つ施工管理技士の等級に応じて受注できる工事の内容が変わるため、建設業界では優秀な現場監督の確保が急務となっている。しかし、就業者の高齢化や急増する工事量の影響で、多くの企業が現場監督の確保に苦しんでいる。

この問題に対し、ゼネコン各社は労働環境の改善や機械化を進めると同時に、ITシステムの導入に取り組んでいる。2018年4月には、今後の現場作業を大きく変える可能性を秘めた作業用スーツが発表され、業界内外の話題をさらった。作業用スーツは、作業中の身体にかかる負担を軽減させられるため、高齢や女性の作業者でも重労働が可能になり、人手不足を改善する可能性があるとして注目されている。

今後、注目されるのは2018年12月に改正された出入国管理及び難民認定法(入管法)だ。政府は建設業を含む特定の14業種で外国人労働者の受け入れを拡大することを決定した。このことは、慢性的な問題となっている人手不足の改善につながると見込まれており、その動向が注目される。

建設業就業者の高齢化

(出典:総務省「労働力調査」)

M&A動向

建設・土木業界では、入札できる営業エリアが限られているため、同一地域または隣接地域のM&Aが多くなる傾向がある。その中でも目立つのは、等級の高い現場監督や、500万円以上の工事を受注する際に必須となる建設業免許を獲得するために、同業者の中小企業をM&Aする案件だ。また、異業種・隣接業種や、海外展開や事業承継を目的としたM&Aも件数が多い。

協和エクシオ(東京都)は、2018年5月に、電気通信工事で全国ワンストップの施工・保守体制を構築するために、シーキューブ(愛知県)、西部電気工業(福岡県)、日本電通(大阪府)の上場電気通信工事3社を経営統合した。また、2018年8月にも、塗装工事のコーケン(神奈川県)を子会社化しており、既存の事業を強化・拡大するためにM&Aを活用している。

海外展開を目的とするM&Aは全般的には堅調だが、大手は慎重な姿勢を見せている。淺沼組(大阪府)は、建物塗装・修繕工事請負業のSINGAPORE PAINTS&CONTRACTOR(シンガポール)を子会社化し、海外進出を進めている。昨年は、鹿島建設(東京都)や大林組(東京都)など多くの建設会社が海外M&Aを行ったが、2018年度の海外M&Aは件数が少なく、各社の慎重な姿勢が見受けられた。

M&Aを活用して建設業界へ参入する異業者も多い。卸売業を営むヤマエ久野(福岡県)は、建設工事業の日装建(熊本県)を2018年2月に子会社化した。ヤマエ久野は住宅・不動産関連では九州・沖縄エリアを中心に建材・住宅設備機器や木材の卸売りなどを手掛けており、日装建の子会社化で鉄筋コンクリート建設分野に進出する。また、2018年9月に化学工業メーカーのフクビ化学(福井県)は、積水化学(大阪府)から住宅用断熱ボード事業を取得。フクビ化学はこの買収で技術向上を図ると共に、建設業界に参入した。

総合プラントメンテナンス企業である新興プランテック(神奈川県)は、2018年9月にJXエンジニアリング(神奈川県)と合併すると発表した。JXエンジニアリングの技術を新興プランテックのプラントメンテナンス事業に活かすことで、事業拡大を目指している。

事業承継を目的としたM&Aも増加傾向にある。住宅関連のコンサルティングサービスを提供するハイアス・アンド・カンパニー(東京都)は、住宅会社のアンビエントホールディングス(香川県)及び子会社のハウス・イン・ハウス(同)から、「R + house事業」「アーキテクチャル・デザイナーズ・マーケット事業」などを2018年1月に取得した。今後も後継者不在の問題は続き、事業承継を目的としたM&Aは増加することが見込まれる。

企業価値の目安

EV/EBITDA倍率は平均19.3倍で、分布としては2~8倍台が多く、数値上はやや低めの分布となっている。EBITDA倍率が低めに分布している理由として、事業価値に比してEBITDAが過大な会社が多い可能性が考えられるため、企業価値算定に当たっては注意が必要である。

建設業は、製造業などと比べてキャッシュフローに基づく企業価値の評価が難しいといわれる。なぜなら、翌年度以降の受注が突然なくなることもあれば、施工中に発注者が破綻して工事費が不良在庫化するリスクを孕んでいるからだ。

建設業界でM&Aを進める場合、人材に対する価値評価にも注意を払いたい。とりわけ、中小建設業の場合、有能な人材の退職や転職により事業そのものが危うくなることも珍しくない。こうした人的リスクも考慮した上で、企業価値評価の妥当性を慎重に吟味する必要があるだろう。

企業価値