INTERVIEW

空調設備工事会社「(株)清田工業」の子会社化で、
床冷暖房システムの一貫販売を実現

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大建工業株式会社 常務執行役員 郷原 秀樹 氏

大建工業株式会社 常務執行役員 郷原 秀樹 氏
大建工業株式会社 コンフォート事業統轄部長 柴崎 茂之 氏

総合建材メーカーの大建工業株式会社(大阪市北区、代表取締役・社長執行役員 億田正則)は2024年3月で、高砂熱学工業株式会社(東京都新宿区、代表取締役社長 小野和人)傘下の空調設備工事会社株式会社清田工業(東京都中央区)の株式の80%を取得し、子会社化した。同社をグループに迎えることで、床からの輻射熱(ふくしゃねつ)による冷暖房システム「ユカリラ」の販売拡大を狙う。大建工業の郷原秀樹常務執行役員と柴崎茂之コンフォート事業統轄部長に、今回のM&Aによって生まれるシナジーと、今後のM&A戦略について聞いた。

M&Aで空調工事技術の獲得を目指す

初めに、大建工業の事業と沿革について教えてください

大建工業の郷原秀樹常務執行役員
大建工業の郷原秀樹常務執行役員

郷原:大建工業は、素材事業、建材事業に加え、内装工事を請け負うエンジニアリング事業で成り立っています。

戦後まもなくの1945年、のちの財閥解体で伊藤忠商事や丸紅などに分かれる「大建産業」から木材加工事業を継承する形で設立されました。当時は、富山県井波(現南砺市)で木材から製材品や無垢フローリング、盆や茶橿(ちゃびつ)などの刳物(くりもの)製品など工芸品を作っていました。それを祖業として、まもなく合板(ベニヤ板)を作り始め、天井材、床材、室内ドアなど製品を増やし、本格的に工業化を進めました。現在、国内では富山(井波)、岡山、三重(久居)、茨城(高萩)の4カ所に主力生産拠点があります。

海外では、1996年にマレーシアでMDF(中密度繊維板)を作り始めたのがはじめで、現在では米国、カナダ、インドネシア、ニュージーランドなど7カ国に進出しています。

清田工業とのM&Aの狙いは何ですか?

郷原:5年ほど前、エアコンの冷温風を床の中に送り、輻射パネルの中通すことで輻射熱に変え空調する新システム「ユカリラ」事業をスタートしました。システムの特許は我々が持っておりましたが、当社では床工事はできても空調工事が自前でできませんでした。まだ輻射熱の空調がまだ一般的ではない中、販売から施工までシステムを一括して受注するために、空調設備会社のM&Aの検討を始めました。

一括して受注するメリットについて

柴崎:材料を売るだけでなく、コンサル~企画~工事も含めた新しいビジネスモデルを確立することに加え、「責任施工」という点でも重要です。ユカリラの優れた性能を最大限お客様に提供するためには、きっちりとした質の高い工事が不可欠です。

実際にお客様からも、空調工事を外注に出さずに「大建工業が最終の施工までやってほしい」という要望がありました。お客様から安心してお任せしていただけるよう、責任施工をするには、自前で空調工事の技術を持つ必要がありました。

避難所、スポーツ施設に大きな需要見込む

「ユカリラ」システムの開発の経緯はどのようなものですか

ユカリラの仕組み 大建工業のウェブサイトより
ユカリラの仕組み 大建工業のウェブサイトより

郷原:ユカリラの基本システムはもともと、仙台のある企業が保有されていましたが、開発された方がご高齢だったことに加え、「もっとこの技術を世の中に広めたい」という想いを持っておられたこともあり、当社からの申し出に快く応じていただき、建材を幅広く手掛けている大建工業にお任せしたい、ということになりました。

ユカリラ導入のメリットは何ですか

大建工業の柴崎茂之コンフォート事業統轄部長
大建工業の柴崎茂之コンフォート事業統轄部長

柴崎:エアコンの空気をダクトで床の中に送り、輻射パネルの中を通る間に輻射熱へと変わる空調システムです。冷気や暖気が輻射熱となりまんべんなくいきわたり、対流式エアコンに比べ、床面からの高さによる温度のムラが少なくなることや、冷風や温風にさらされることもないので、体への負担が少ないのが特徴です。

事業の成長性をどのように見ていますか

柴崎:現在、特に力を入れているのが体育館です。全国の公立小・中学校だけで体育館が約3万5000か所あります。そのうち冷暖房化が進んでいるのはまだ15%ほどです。そこに大きな潜在需要があると考えています。

ユカリラは冷風、温風が発生しないので、バドミントンや卓球など、風に弱いスポーツにも最適です。

エアコンがある体育館でも、スイッチを切って窓を閉め切って練習している姿を見かけますが、温暖化も進んでいますし、夏場は汗だくになって大変です。両競技ともに競技人口が多いですので、自治体が新しい体育館を施工する際、「卓球、バドミントンができる環境」を仕様の条件にすることが多くなっています。

また、能登半島地震をはじめ、各地で地震や水害が発生しています。災害時に体育館が避難所に使われることは多いですが、多くは冬の寒さや猛暑に耐えられる設計にはなっていません。特に避難所は衝立や段ボールで床を区切るので、通常の対流式のエアコンでは風通しが悪くなり、温風も冷風も届きにくくなります。まんべんなく冷やしたり温めたりすることができるユカリラによって被災者の負担を減らすことができます。

本件の過程について教えてください

郷原:ユカリラのために空調工事の会社を探すことになり、ストライクさんと打ち合せたリストの中から高砂熱学工業にご興味を持っていただきました。

高砂熱学工業は、空調工事で屈指の高い技術をお持ちです。そのため、清田工業を譲渡するにあたり、半年くらいはユカリラの技術の優位性や、本当に売れるのかという点も、慎重に検討を進めておられました。

そんな中、当社としてはユカリラ事業について、M&Aの判断に必要とされるデータをしっかりと示して、ユカリラの可能性について理解していただくことができました。当社として、企画、材料から工事まで一体となった新しいビジネスモデルを確立していく。そのために必要なM&Aなのでお力を貸してください、という想いを伝えました。

清田工業の株式は大建80%、高砂熱学工業が20%を保有していますね。どのような協力関係を作りますか

郷原:ユカリラに関して、優れた空調工事技術を持っておられる高砂熱学工業と協力できるというのも、大きいと考えています。現段階では発表はできませんが、ユカリラ以外でも色々と取り組める場面があると考えております。

清田工業の拠点は東日本限定です。各地の空調工事会社M&Aを検討する可能性はありますか?

郷原:首都圏に次いで市場が大きい関西を中心に、西日本などの空調工事会社とのM&Aを検討する可能性があります。

清田工業は今後、ユカリラに特化した経営になるのですか?

郷原:清田工業の今までのお客様を大事にしつつ、ユカリラで売り上げをさらに増やしていくという形になります。

大建工業との資本提携の相手に求める条件は何ですか

郷原:企業理念に共感してもらえることです。一番大事にしているのは環境やエコに加え、安全・安心・健康・快適な空間を提供することです。そこを大事にしていただけるというのがベストだと思います。

これから、初めてのM&Aを検討する会社にアドバイスをお願いします

郷原:事業や成長を考えたとき、足りないパーツを補完していく、という考え方が一番大事だと考えています。

柴崎:親会社である伊藤忠商事株式会社の企業理念に「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)があります。うちだけが良ければいい、ではなくて周りの人が良いと思うことが大事かなと思います。

ストライクの担当者はいかがでしたか

大建工業の郷原秀樹常務執行役員と柴崎茂之コンフォート事業統轄部長、ストライクの髙木俊元
大建工業の郷原秀樹常務執行役員(左)と柴崎茂之コンフォート事業統轄部長(右)、株式会社ストライク法人戦略部の髙木俊元(中央)

郷原:髙木さんには、すごく真摯に取り組んでいただき、各社にとって良い形で進めていただきました。

本日はありがとうございました。

M&Aアドバイザーより一言(髙木 俊元・法人戦略部 シニアアドバイザー談)

ストライク髙木 俊元

本件は、当社のプレマーケティングサービス(譲渡希望企業の探索)をきっかけに成約に至りました。大建工業様より、新規事業である「ユカリラ」をM&Aで更に加速させたいとお聞きし、本サービスをご提案させて頂きました。
そこから本件立案に向け協議を重ねた末、高砂熱学工業様・清田工業様にオファーさせて頂きました。
大建工業様の新規事業は、輻射による空調システムの拡大を企図したものです。
輻射熱の空調は現在の市場シェアは数%にすぎませんが、その分成長の余地があります。
しかも、導入された体育館は、特に災害時に大きな役割を期待できます。
本件を機に清田工業様を軸として建材メーカーと空調設備工事会社による「材工一貫」の、新たなビジネスモデルが構築できます。大建工業様・高砂熱学工業様ともに業界随一の大企業であり、そちらの取り組みにも期待が膨らみます。
これから各社様が益々ご発展され、「ユカリラ」が世に広まっていくことと確信しております。自然災害の多い日本ですので、導入された体育館等が、どなたかのお役に立つとなれば、このような機会を創出する一端を担えたことを誇りに思います。

本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
是非お気軽にお問い合わせください。