INTERVIEW

求めたのは「成長要因」
2次診療が可能な体制を目指し大手動物病院グループ
に参画

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株式会社木俣動物病院 代表取締役 木俣 新 氏

株式会社木俣動物病院 代表取締役 木俣 新 氏

静岡県浜松市の「浜松どうぶつ医療センター」(株式会社木俣動物病院)は、腫瘍科、整形外科、神経外科、皮膚耳鼻科、歯科、循環器科などの幅広い専門診療科を擁する総合病院。地域の中核病院として長年にわたり質の高い獣医療を提供している同院は2023年11月、専門的総合動物医療グループの形成を進めるANCHORSグループに参画した。M&Aの背景や狙いについて、代表取締役の木俣新氏にお話を伺った。

株式会社木俣動物病院
ご成約インタビュー動画

親族承継の選択肢もあったが
自身の経験も踏まえ
経営と診療の分離を決断

浜松どうぶつ医療センターの沿革、診療の方針や特徴を教えてください。

1991年の開業以来、地域の動物医療を守る中核病院として、質の高い獣医療を提供してきた。
1991年の開業以来、地域の動物医療を守る中核病院として、質の高い獣医療を提供してきた。

個人病院として1991年に開業しました。当初はいろいろな動物をみていましたが、犬・猫に特化して診療するようになり、個々の獣医師の専門性を高めるとともに検査機器もそろえて、様々な症例を治療できる医療体制を整えてきました。現在では11名の医師がそれぞれ腫瘍科、整形外科、神経外科、皮膚耳鼻科、歯科などの専門診療を行っています。内視鏡検査や腹腔鏡手術などの実績も豊富です。
社員は40名超、労働基準の遵守に重きを置いているため長く働いてくれている獣医師・スタッフが多く、それが安定した運営と質の高い診療につながっています。

地域の中核病院として周辺地域からも多くの方が受診されるそうですね。

各種の検査機器をそろえ、1.5次診療を行う事が可能な同院。
各種の検査機器をそろえ、1.5次診療を行う事が可能な同院。

かかりつけ医として1次診療を行うだけでなく、より専門性の高い医療も提供する「1.5次診療」を行っているため、他院からの紹介が多いのが特徴の一つです。収益ベースで他院からの紹介症例が約3割、セカンドオピニオンが約3割を占めています。

M&Aを考えるようになったきっかけを教えてください。

私は獣医師なので経営の勉強をしたことがありません。これまで“つけ焼き刃”でやってきましたが、病院の規模が大きくなって限界を感じるようになりました。ビジョンや方向性は考えられても、経営指標を用いて現状を評価・分析したり、経営計画・戦略を立てるのは困難です。経営コンサルの力を借りることも考えましたが、動物病院のコンサルのノウハウ、実績を持つところはなかなかありません。
もう一つの問題は投資です。地域のニーズとして1.5次診療からさらに進んで2次診療も担える体制をつくる必要があると感じていますが、そうなると人も設備も充実させなければなりません。建物が手狭なので、増築も検討する必要があります。私ももう65歳、新たに大きな投資を受けるのは厳しい、さらなる成長のためには経営のパートナーが必要だという結論に至りました。

お子さんが獣医師として活躍されています。

娘も息子も獣医師なので、親族承継についてはずいぶん考えましたが、20代~30代前半の子どもたちには荷が重いと判断しました。自身の経験から、経営と診療を分離させたほうがいいという考えもありました。私見ですが、もう経営と診療の“二足のわらじ”の時代ではない、これからの若い獣医師の人たちは診療に専念して腕をふるったほうがいいと考えています。

自院の成長戦略と
2次病院のネットワークをつくるという
グループの方針が一致

譲渡の条件を教えてください。

株式会社木俣動物病院 代表取締役 木俣 新氏
今回、お話を伺った(株)木俣動物病院 代表取締役 木俣 新氏。

最も重要だったのは、M&Aに当院の成長要因を見いだせるか否かです。このお話を進める少し前に大手動物病院グループから直接、声をかけていただきましたが、我々の成長戦略とは一致せず、お断りしました。先ほどお話ししたように、我々はさらに専門性を高めていこうとしていますが、そのグループはこのエリアの動物病院を買収する、あるいは新設することによってグループ化を図ろうという方針でした。我々とは目指すところが違いますし、地域の獣医師の仲間たちとの間に摩擦が生じるような事態は避けたいという気持ちもありました。私は浜松市獣医師会会長をしていたこともあり、地域の獣医師は皆、大切な仲間だと思っています。これからも仲間と一緒に地域医療に貢献したい、彼らに認められながら成長したいというのも一つのポイントだったかもしれません。

ANCHORSさんをお相手に選んだ理由は?

ANCHORSグループにはよく知っている病院が二つありました。JASMINEどうぶつ総合医療センターの上地(正実)先生とは昔からよく病院経営について語り合う間柄ですし、埼玉動物医療センターの林宝(謙治)先生は日本動物病院協会の活動を長く一緒にした仲間です。もちろん、どちらの病院も見学したことがあります。ANCHORSさんが2次病院のネットワークをつくろうとしていることは理解していましたので、グループ参画に不安はなかったです。
米国には大手動物病院グループを中心に、明確に3次病院と2次病院が位置づけられネットワークが形成されています。けれども日本の場合、2次病院は都市部にはできてきているものの、地方にはほとんどなく、大学病院が2次病院の役割を担わなくてはならない部分があります。私はずいぶん前から、日本も米国のようになるべきだし、なっていくだろうと考えています。

職員・スタッフの皆さんにはいつどのように伝えましたか?

院長をはじめ管理職には基本合意をした段階で、「まだ確定ではない」として伝えました。その後、クロージングが見えてきたあたりで獣医師全員に話しました。獣医師の離職は大きな懸念事項でしたが、異論なく受け入れてもらえました。雇用形態も診療体制も変わりませんし、私もしばらく代表取締役を続けますので、それほど不安はなかったのだろうと思います。
ただ、院長をはじめ長く働いている獣医師は、本当に雇用が保証されるのかを気にしていました。総じて年齢も上で、家族がいて、住宅のローンもあって……。抱えている“荷物”が多いので、雇用の心配をするのは当たり前ですよね。
スタッフには成約後に伝えました。スタッフも勤務歴が長く、20年以上働いてくれている人が10人ぐらいいます。皆、この病院を大切に思ってくれていますが、だからこそ「この先どうなるのか」を気にかけてくれていたのではないでしょうか。私が少しずつ診療から身を引いていることも知っていますから。考えようによっては私が一番の不安定要因だったわけで、病院の行く末が決まってホッとしたのではないかと思います。

経営権を譲渡したからこそ
経営について深く細かく真剣に話し合える

M&Aから約3カ月、メリットを感じることはありますか?

ウィークポイントがわかったことでしょうか。これまでは経営・運営面で何ができていないのか、よくわからないのが大きな悩みでした。例えば「仕入れの適正化」。実は前年度は仕入れが年間1%増えたために粗利が減り、その影響もあって収益は伸びたのに経常利益が減りました。この問題をどう捉えればいいのか?小さな病院だった頃はそこまで考えなくてもよかったのですが、この規模になると1%の違いがとても大きくなります。デューデリジェンスの段階から、「なるほど、これができていなかったのか」と思うことがたくさんありました。
これまでも院長たちと定期的にミーティングを持ち、問題を共有してはいましたが、獣医師のスペシャリストである院長たちと粗利について議論しても問題の解決は難しいですよね。ANCHORSさんとのやりとりはズーム会議の回数もメールやチャットの数もすごく多くて、かつてないほどの忙しさですが(笑)、いままで経営について結局は自分一人で考えるしかなかったので、一緒に考えてくれる人がいるのはありがたいです。ANCHORSさんに客観的に経営判断をしてもらうことが成長要因になると感じています。

ストライクの担当者やサービスについて率直な感想をお聞かせください。

浜松どうぶつ医療センターの新館にて。
浜松どうぶつ医療センターの新館にて。(写真右はストライクの吉川)

一番の良さは担当の吉川さんがフランクなこと。ストライクさんはテレビCMもしているような企業ですが、こちらは地方の中小企業ですから、ちょっと怖いというか身構えてしまうところがありますよね。その点、吉川さんは最初から気さくな感じで、とても親しみやすかった。中小企業の経営者にとっては、担当者がフランクで親しみやすいことが意外に大事なポイントではないかと思います。

今回の経験を踏まえて、経営課題を抱えている獣医師の先生方へのメッセージ、アドバイスをお願いします。

獣医師は経営のことまで学ぶ時間がなく、経験則で経営・運営をしている人がほとんどだと思います。私もそうでした。病院の規模にもよりますが、数十人の社員を抱えてこれからも成長していこうとするなら、やはり経営戦略をサポートしてくれるパートナーがいたほうがいいと思います。
パートナーを探すうえでカギになるのが「経営権の譲渡」です。私は今回の経験で、ANCHORSさんと経営について真剣に話し合えるのは経営権を譲渡したからだと実感しています。経営コンサルタントなど外部の人と忖度なしに真剣に話し合うのは、なかなか難しいのではないでしょうか。本気で話せるパートナーを得るという意味で、M&Aによる譲渡は非常に重要な選択肢になると思います。

本日はありがとうございました。

M&Aアドバイザーより一言(吉川 雄太・企業情報部 シニアアドバイザー談)

ストライク吉川

M&Aを検討するにあたり、木俣社長は「病院の成長と従業員の幸福につながる相手先でなければならない」という想いを強く持たれておりました。
一方で、後継者候補の方がご親族内にもいらっしゃったため、「M&Aをしない」という選択肢も十分にあったと思います。
その中で木俣社長が最終的に「M&Aをする」という意思決定をされたのは、地域の中核の病院として今後さらに獣医療の専門性を高めていきたいという浜松どうぶつ医療センター様に対し、ANCHORS様が同様の理念と専門性を有していたためでした。
思想も目指す方向も合致している両社の出会いは、まさに「運命」でした。
M&Aを検討する理由や動機は千差万別ですが、木俣社長のように「M&Aを通じて何を実現したいのか」という軸を明確に持ってM&Aの検討を進めていただくと、最高の結果が自ずと近づいてくるように思います。

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