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M&Aインタビュー No.30

山積する課題を一挙解決、
2社の買い手が手を組んだWin-Win-WinのM&A

【買収企業】中山商事㈱ 代表取締役社長 中山 大助 氏
【関連会社】㈱セツロテック 代表取締役社長 竹澤 慎一郎 氏
【譲渡企業】㈱ NAS研究所会長 萩森 一郎 氏

後継者不在を理由に会社を譲渡することにしたNAS研究所(千葉県成田市、以下「NAS研」)。同社の買収に手を挙げたのが中山商事(茨城県日立市)とセツロテック(徳島県徳島市、以下「セツロ」)だった。両社とも強い買収意向があるものの、中山商事には買収後に派遣する専門人材の不足、セツロには買収資金不足という課題があった。そこで両社が手を組み、NAS研も加えた3社にメリットが生まれる新しいM&Aの提携関係を描いた。その提携関係のメリットや、そこに至った経緯を3社に伺った。

実績豊富な医療試験受託機関の買収に
大学発のバイオベンチャーと
79年の歴史を持つ専門商社が手を挙げた

まず、3社の事業概要を教えてください

2社での買収も検討したが、最終的には中山商事がNAS研を買収、セツロはNAS研に人材を派遣することになった。中山商事は商社の強みを生かして、NAS研とセツロの知名度を上げる活動にも取り組んでいくという。(写真左からセツロ・竹澤氏、中山商事・中山氏、NAS研・萩森氏、ストライク担当の依田)

萩森氏 : NAS研究所は約35年前に、動物用医薬品(動物薬)の臨床効果試験を受託する研究機関として設立されました。現代はさまざまな動物薬やワクチンが開発されて家畜の病気は少なくなっていますが、設立当時は、家畜にいろいろな病気が蔓延していました。動物薬メーカーは新薬を開発するためにさまざまな試験をしていました。昭和40年代後半、動物薬を管轄する農林水産省からの指示で、データがより改ざんされにくい試験のやり方が必要になり、関東で最初の受託試験機関として弊社を立ち上げました。以来、多くの動物薬の新薬開発に携わってきました。

 一番の強みは検査できる動物の種類の多さです。マウスやラット、ウサギ、サル、ミニブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、ニワトリなどを検査できます。動物用・ヒト用の医薬品開発用だけでなく、医療器具の開発用といったさまざまな試験を依頼されてきましたので、幅広い検査に対応できるのが特長です。


中山氏 : 中山商事は茨城県日立市で創業して79年になる、理化学機器と試験用薬品(試薬)の専門商社です。創業時の主な顧客は日立製作所、日立電線(現:日立金属)、日立化成で、3社の研究部門からの依頼で国内だけでなく海外の試薬を取り寄せていくうちに、「試薬を頼むなら中山商事」とご贔屓にしていただけるようになりました。

 以来、研究所向けの研究試薬や理化学機器、工場向けの工業薬品などを取り扱ってきました。


竹澤氏:セツロテックは2年半前に設立した、徳島大学発のバイオベンチャー企業で、遺伝子を自由に書き換える「ゲノム編集」において独自の特許技術を有しています。

 主な事業として、製薬会社や大学の研究室向けにゲノム編集を施した実験用のマウスや細胞を提供するほか、ゲノム編集の受託サービスを提供し、研究活動の効率化をサポートしています。

M&Aの背景や経緯を教えてください

「セツロさんと手を組んだのは事業展開が明確で、共感できたから」と話す中山商事・中山氏。

「中山商事さんに営業活動をお任せすることができ、とても心強い」と話すセツロ・竹澤氏。

「3社それぞれの課題が解決できる関係性を築けた」と話すNAS研・萩森氏。

萩森氏 : 会社を譲渡するきっかけはいくつかありました。一つは、5~6年前に後継者と目していた息子から会社を継がないと言われ、後継者不在になったことでした。

 もう一つ大きかったのが、2年前に入った会計検査院の厳しい調査です。農水省から委託を受けた補助金事業について、約1年間にわたり厳しい調査が続きました。調査対応の大変さは想像以上で、対応していた経理担当の妻が不眠症になってしまうほどでした。私も心身ともに疲れてしまいました。それでも従業員のために会社は残さなければならず、引き継いでくれる会社を探してくれるようストライクさんに相談したのです。


中山氏 : 理化学業界の試薬や分析機器の商社というのは同業会社が多く、利益が薄いビジネスです。弊社としては常に商社として弊社しか取り扱えない商材、特色のある高付加価値の商品やサービスを取り扱いたいという想いが強くあります。また、昨今はiPS細胞に代表されるように、遺伝子を解析・解明するライフサイエンス(生命科学)の研究が大きなトレンドになっています。弊社の強みである化学分野に加え、このライフサイエンス分野を強化したいと思っていました。

NAS研さんは医薬品メーカーから依頼され、ライフサイエンス分野の最先端技術の研究に携わっています。長年の実績があり、メーカーからの信頼も厚い。一緒になって何かできるのではないかと感じました。


竹澤氏 : ゲノム編集を施したマウスや細胞を提供する事業は順調に伸びてきましたが、次の展開として二つのことに取り組みたいと思っていました。一つはマウスや細胞だけでなく、他の動物にもゲノム編集の技術を適用すること。まさにNAS研さんの強みであるウシやブタなどの中大動物や畜産動物にも適用して、研究向け受託サービスのラインナップの増加、畜産への事業展開を模索したいと考えていました。

 もう一つは臨床試験への取り組みです。これまではゲノム編集マウスを作ってお届けするだけでしたが、お客様からは、そのゲノム編集マウスを使って臨床試験まで委託したいというご要望がありました。試験を行うには、例えば毎日体重を計り、血液を検査して数値を記録するなど、施設、ノウハウ、チームが必要になります。それらをすべてお持ちだったのがNAS研さんでした。

買い手の2社が話し合いを持ち提携関係を模索
産・官・学の連携が実現

―中山商事さんとセツロさんは、それぞれ買収に当たって課題があったとお聞きしました

竹澤氏 : 前述のように、我々はNAS研さんを譲り受けたかったのですが、買収資金が不足していました。また、NAS研さんは弊社より企業規模が大きく、仮に買収できても事業リスクが非常に高くなるので、弊社に出資いただいているベンチャーキャピタルなどの既存投資家からの強い反対もありました。

 譲り受けたいけれど買収できない。そんな折に、ストライクの依田さんから「中山商事さんという会社があり、今回の取引で手を組めるかもしれない」というご提案をいただきました。


中山氏 : セツロさんに続き、弊社も買収を検討することになりました。そこで課題となったのが、買収後に派遣する専門人材の不足です。NAS研さんの業務内容は専門性が高く、まったく業界の違う弊社が買収したとしてもマネジメントできません。買収しても逆にNAS研さんにご迷惑になるのではないか、というのが一番の悩みでした。

 どうしようかと悩んでいたところに、私のところにもストライクの依田さんから「セツロさんと手を組めないか」というご提案が届きました。


竹澤氏 : 最初は両社で買収できないかと話し合ったのですが、最終的にはNAS研さんの買収は中山商事さんが行い、弊社は中山商事から出資を受け、中山商事さんに代わってNAS研さんに人材を派遣することになりました。また、中山商事さんに国内での研究支援事業の総代理店権をお願いしました。弊社の営業活動はすべてお任せできるのでとても心強いです(以下図参照)。


M&A後、3社のWin-Win-Winの提携関係

3社の事業内容

NAS研究所(千葉県成田市)
医療用レンタルラボの運営、動物の臨床試験等の受託サービス
中山商事(茨城県日立市)
試薬・理化学機器の専門商社
セツロテック(徳島県徳島市)
遺伝子改変による研究支援や新商品の開発

3社のM&Aニーズと課題

NAS研究所
譲渡ニーズ:後継者不在を解決したい。
中山商事
買収ニーズ:
● 特色のある高付加価値商品を取り扱いたい。
● 商社だけでなく、医薬品開発という立場でも医薬品メーカーとの関係を深めたい。
課題:NAS研究所を買収する資金はあるが、買収後のNAS研究所を管理・運営する人材が不足していた。
セツロテック
買収ニーズ:ウシやブタなどの中大動物の実験施設を自前で保有したい。
課題:NAS研究所をゲノム編集の試験場として利用させてもらいたいものの、子会社化する資金余力がなかった。


中山氏 : 正直に言うと、セツロさん以外のベンチャー企業であれば手を組まなかったと思います。セツロさんが他のベンチャーと違ったのは、将来の事業展開が非常に明確だったこと。中でも個人的に「畜産」という事業領域について共感しました。例えば、これから世界中で問題となると言われる食糧難に対し、セツロさんの遺伝子技術をもって、病気に強く環境に適応しやすいウシやブタが開発できればどうでしょうか。セツロさんにNAS研さんの技術を使ってもらうことで、そんな社会貢献的な活動の一端に関われるならうれしいです。


萩森氏 : 最初はセツロさん、その後に中山商事さんに検討いただき、しばらくして、中山社長と竹澤社長がコンビを組んでいらっしゃったのは少し驚きました。でも、中山商事さんに譲渡できたのはとても良かったと思います。3社にとってそれぞれの課題が解決できる関係性が築けたのではないでしょうか。

―今後の展開、ビジョンについて教えてください

中山氏 : NAS研さんについては、基本的に当面は変化を加えない方針です。人も給与もそのまま。そのうえで、商社の強みを生かしてNAS研さんとセツロさんの知名度を上げるほか、各種メーカーとの関係をつないでビジネスを生み出せるような活動をしていきたいと考えています。

 また、NAS研さんの受託試験のラインナップに、従来の動物試験に加えてセツロさんの遺伝子試験という分野も加えてもらうように支援していきたいと思います。設備投資だけでなく、セツロさんからNAS研さんへの技術提供とトレーニングも必要です。そうしながらNAS研さんの試験機関としての価値を高めていきたいです。

 さらに、NAS研さんとセツロさんの知的財産を使わせていただきながら、特徴のある商品を持つ唯一無二の会社になるという目標に向かっていきます。


竹澤氏 : 我々は、すでに畜産など中大動物を使った試験について、グローバル商社や大手の牧場から一緒に共同研究をしたいというお声がかかっていて、大きなプロジェクトが複数進んでいます。より栄養価が高い食品、病気や過酷な環境に強い畜産動物というのは、世界中に需要があります。その試験の場所がNAS研さんになることを期待しています。また、我々の技術を海外に展開していくことも視野に入れて活動していきます。


萩森氏 : これまで日本の技術系ベンチャービジネスの問題は、産・官・学の連携が弱かったことだと思います。日本の研究は本当に素晴らしいものの、それが研究で終わってしまってビジネスにつながらない。今回はストライクの依田さんのおかげで、幅広いビジネスを手掛ける中山商事(産)、行政との関係が強いNAS研(官)、大学初ベンチャーのセツロ(学)が手を組んだ関係を作ることができました。弊社と中山商事の単なるM&Aだけでなく、3社がWin-Win-Winとなる提携を作ってくれたと思います。

本日はありがとうございました。