事例紹介

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承継トラブル

Case2

社長の急逝後、オーナー家族と経営陣が衝突
泥沼のオーナー交替劇に……

社長の急逝後、ご子息が株を相続、右腕であった専務が社長に就任したものの、景気の悪化を背景に徐々に関係が悪化。最終的には、第三者への廉価での株式売却を余儀なくされた事例です。

広告代理店A社は、後継者候補だった長男が事故で若くして他界。その2年後、創業社長自身も急逝するという大きな不幸に見舞われました。

次男のM氏が株を相続して取締役に就任、創業当時から会社を支えてきた専務のK氏が社長となり経営を担うという形で、事業承継問題は一応の解決をみました。ところが、景気の低迷で業績が苦しくなったことから、しだいにM氏と経営陣の関係が悪化。M氏の役員報酬減額が直接の引き金となって、M氏とK氏はささいなことで口論するほど不仲になってしまいました。

M氏は創業社長の生前からA社に籍を置いてはいたものの、仕事らしい仕事をしていなかったため(それが不仲の一因でもあったのですが)、徐々に孤立して社内での居場所がなくなり、名ばかりのオーナーであることに自ら見切りをつけて、株を売却しようと考えました。

株の売却にK氏も同意。好条件での買い手が見つかり、問題は解決するかに見えましたが、経営陣が「経営方針が合わない」ことを理由に猛反対して、破談になってしまいました。
M氏、つまり株主が望んでも、実際に会社を動かしている経営陣が賛成しないことには、M&Aは成立しないのが普通です。株式譲渡を強行したりすれば、社員が辞めて“もぬけの殻”になるリスクがあることを、買い手もよくわかっているからです。

結局、K氏が見つけてきた同業他社に株を売却。最初の買い手候補が提示した譲渡額の半分以下という非常に厳しい条件でしたが、何の決定権も持たないM氏は受け入れざるを得ないのが現実でした。

成功or失敗のポイント

A社の事業は失われることなく継続されましたが、事業承継そのものは成功したとは言えません。
もともとは良好であったオーナー家と経営陣の仲が壊れ、不毛な争いに発展。株主であるM氏は、廉価での株式譲渡を余儀なくされました。K氏をはじめとする経営陣にとっても、こんな展開は本意ではなかったに違いありません。実際、K氏は後日、M氏のお母様、つまり先代社長の奥様に「恩を仇で返すようなことになり申し訳ない」と頭を下げ、「せめてもの償いに、会社は必ず支えていく」と固く約束されたそうです。

誰も幸せになれない事業承継はハッピーエンドではありません。A社のような優良企業には、もっと良い事業承継の形があったはずです。

後継者候補が若くして急逝するというのは、何とも言いようのない悲劇だったと思いますが、それでも創業社長である先代はそのときに事業承継の方法を決めておくべきでした。泥沼のオーナー交替劇を防ぐには、それしかなかっただろうと思います。

A社のように後継者問題を先送りにしたままオーナー社長が急逝すると、いろいろな問題が発生して、家族や社員が否応なく巻き込まれることになってしまいます。皆が幸せになれる事業承継を望むなら、オーナー社長が元気なうちに後継者問題に着手することが不可欠と言っていいでしょう。