M&Aインタビュー

インタビューイメージ ライジング・フォース株式会社 代表取締役社長 河西 正人 氏 取締役 日浦 正貴 氏

ライジング・フォース株式会社
代表取締役社長 河西 正人 氏 取締役 日浦 正貴 氏

不動産関連の上場企業でともに役員だった同僚と起業し、不動産投資や仲介事業を始めて7年目の2022年9月、賃貸住宅建設大手の大東建託株式会社(本社・東京都港区)との間でM&Aが成立してグループ会社となったライジング・フォース株式会社(本社・東京都港区)。社員6名のベンチャーが、グループ社員1万7千名を擁する大企業に買収されたニュースは、同業者の注目を集め、経緯を知ろうとする問い合わせが殺到したという。メリットやシナジー(相乗効果)をどこに見出し、M&Aという手段で成長戦略を描こうとしたのか。ライジング・フォース株式会社の河西正人社長と日浦正貴取締役にお話を伺った。

不動産投資事業を30年経
人脈と情報ルートの広さが強み

ーーライジング・フォースを創業された経緯から教えていただけますか。

河西氏 :中古マンションのリノベーション販売などを手がける上場企業に私も日浦も取締役でいたのですが、進めていきたい事業が経営方針と合わなくなって、だったら自分たちで自由に楽しく、経験を活かした仕事をやってみようと思ったのが起業のきっかけです。2016年6月に創業しましたから、私が50歳目前、日浦が41歳。創業時にはもう一人、1歳年上の元上司もいたので、上場企業元役員3人による挑戦でした。

ーー事業内容や御社の強みも教えてください。

河西氏:私は不動産業界で30年強やってきて、不動産投資畑を長く経験しましたから、当初は、不動産を購入してリノベーションし、資産価値を高めて販売してキャピタルゲインを得る、不動産投資を中心事業として考えていました。しかし、この数年の不動産価格の上昇や不動産を購入する資金力の問題もあり、実際には、不動産売買の仲介業が収益の柱となりましたが、業績は堅調でした。

私は起業までに6社経験し、たくさんの優秀な同僚や部下に恵まれました。強みとして言うならば、不動産投資業界にいる、かつて一緒に働いた仲間たちの人脈、その情報ルートの広さでしょうか。必要なときにどこにでもつながるネットワークがあり、事業を進めるうえで非常に助かっています。

単独での資金調達に限界を感じM&Aを選択
大企業からのオファーに「本当ですか?」

ーー業績は堅調であったのに、なぜM&Aを考えたのですか。

河西氏 : 本来やりたかった不動産投資事業を広げるには、まず不動産を購入する資金が必要になります。単独で資金調達するには限界があり、強いスポンサーがいれば、もっと大きな投資ができます。この得意とする分野で事業の成長を加速させるには、M&Aも選択肢と思ったことが理由です。

日浦氏 : 不動産投資事業に力を入れようと、小規模不動産特定共同事業者として東京都の登録も行いました。個人投資家などから出資を募り、購入した不動産をリノベーション後に賃貸や売却して得た収益を出資者に分配する事業者としての登録です。金融機関からの借り入れ以外の資金調達手段を模索するなかで始めた新規の事業でした。登録の際には不動産投資の知識や経験のある人材がそろっているかが問われるため、新規参入にはハードルが高いです。当社は体制や実績が認められて都で7番目に登録できましたが、この分野にも大手企業の参入が徐々に増えてきています。不動産投資には資金力に加えて信用力の強化が必要だと痛感したことも、M&Aという選択につながりました。

ーー大東建託さんを売却先として選ばれた理由はなんでしょうか。

河西氏 : それはもう抜群の知名度と与信力の高さです。2021年11月にストライクさんから社名を聞いたときは、「本当ですか」とまず疑いました。日浦と2人で顔を見合わせて嘘だろうと。大東建託さんはグループで社員が約1万7千人います。規模感があまりにも違いすぎる。その人材と事業展開の中に私たちが入る余地はないはずだと思いました。

日浦氏 : 私も当初は理解できませんでした。だた、初顔合わせのときにわかったのは、大東建託さんは不動産所有者の個人客を中心とした事業であることです。私たちの不動産仲介の顧客は法人であり、プロである大口の不動産投資家を対象にしてきました。お互いが補完できるこの組み合わせは面白いですし、大東建託グループで私たちが活躍できる枠はありそうだと感じました。ストライクさんには非常に良いお相手を見つけていただいたという気持ちで、大東建託さんが本気であればぜひ前に進めてくださいと、担当してくださった高田さんに伝えました。

インタビューイメージ

不動産投資会社とのつながりと新規事業への打ち手
買い手側が強化したいニーズと合致

ーー大東建託さんはライジング・フォースさんのどこに魅力を感じたのでしょうか。

ストライク・高田 : 当初はライジング・フォースさんが小規模不動産特定共同事業や、不動産信託受益権の売買や仲介、ファンドの募集などができる第二種金融商品取引業の登録事業者である点でした。ライジングさんが持つ資格とノウハウを活用した不動産投資スキームの開発、不動産流動化やファンド関連ビジネスの拡充につながることに興味をもたれていました。

話し合いが進む中で、ライジングさんが不動産売買仲介で優良な法人顧客を数多くもっておられることも魅力として伝わり、先ほど日浦さんがお話しされたように、個人顧客が中心の大東建託さんと、法人顧客をもつライジングさんが一体となって生み出すシナジーも見出せたことが大きかったのではないかと思います。

日浦氏 : 私たちも大東建託さんの事業のお話を伺いながら、一緒になることでのビジネスチャンスがたくさんあるなという印象を受けました。例えば、大東建託さんが開発する大型の賃貸マンションを私たちの顧客である不動産投資会社などにつなぐことで新たな事業展開ができないかといった考えも浮かび、面白そうだなと思いました。

ーーM&Aの成約は9月末でしたが、グループ会社になって感じる変化はありますか。

河西氏 : まだ日が浅いので、今のところは変化を感じるようなことは特になく、これまで通り仕事をさせてもらっています。お互いの事業への理解を深めながらシナジーを出していきましょうという言葉をいただいて、スタートを切りました。共有いただいた中長期の経営ビジョン達成に向けて、業績や事業領域、人材の拡大を図っていきたいと思います。

グループ会社化のリリースにメールで数百件の反響
「うちも買ってくれないかな」の声が続々

ーー理想的なM&Aに見えますが。

河西氏 : そうですね。こうした話を不動産業界の関係者にすると、「本当にそんな話があり得るのか」と言われます。そもそも大東建託さんのような大企業が、なぜ私たちのような小規模な会社を買ったのかと、いまだに聞かれます。

日浦氏 : 大東建託さんが賃貸住宅の建設や仲介管理の分野から、不動産投資の業界に本格参入しようと動いて、規模は小さくてもライセンスを持つ会社を買収する、そのM&A戦略に興味をもつ方が多かったように思います。クロージング日に大東建託のグループ会社になったことをメール配信したのですが、直後から電話が鳴りやまず、メールは1日で数百通届きました。

河西氏 : 冗談か本気なのか、ついでに自分の会社も買ってほしいという話も多かったです。というのは、私たちのような会社の規模感と年齢で、不動産投資事業をしている経営者は多くいます。60歳に差し掛かると、あと何年続けられるだろう、私が辞めたら社員はどうなるかと考えるものです。問い合わせが多かったのも、経営者としてこの先を考えたときの選択肢として、M&Aが自分の会社にも成り立つのか、そこを知りたいという気持ちがあるように思います。

ーー今後の事業展開で具体的に進めていることがあれば教えてください。

河西氏 : 進めようとしているのは不動産の小口商品化です。大東建託さんにはアパート経営などをしている地主のオーナー様が約8万名います。そうしたお客様の不動産投資ニーズに応える小口投資が可能な商品を設計し、ご紹介していきたいと思っています。

日浦氏 : 新規採用にも徐々に取り組んでいきます。これまでは以前勤めた会社の同僚が中心でしたが、大手資本の傘下になれば会社の信頼性も高まるので、事業拡大に向けて人材の確保も進めていきたいと思っています。

M&Aは会社に伸びしろがあるうちに決断
自社で10年費やす成長が一足飛びに叶うかも

ーーストライクの担当者の対応はいかがでしたか。

インタビューイメージ

日浦氏 : ストライクさんには良い相手先とのご縁をつくっていただいたこと、これがまず1番に感謝したいことです。私たちには高田さんと細木さんのお二人がずっと並走してくれました。急ぎの場合もどちらかと必ず連絡が取れて、レスポンスが早く、対応がスピーディーでした。二人の間で情報共有ができているので、一方が聞いていないとか、話の辻褄が合わないといったこともありませんでした。打ち合わせの設定や提出資料のやりとりもスムーズで、終始安心感をもって進めることができました。

ーー振り返って感じるM&Aのメリットを最後にお聞かせください。

河西氏 : メリットは「時間短縮」ではないでしょうか。自分たちで資金を調達しようとすれば、5年、10年といった時間が必要になるところを、資本力のある企業の傘下に入れば一足飛びに可能になる。やりたい事業が実現できる。M&Aの大きなメリットはそこにあると思います。

日浦氏 : 私も河西と同じで、M&Aは企業の成長における売買双方の「時間の有効活用」だと思います。その検討に時間をかけ過ぎると、ビジネスの前提や環境が変わってしまうので、M&Aの決断は早く、タイミングを逃さないことが大事だと思いました。事業に伸びしろがあり、企業価値を評価してもらえる状況でM&Aに踏み切る、そのタイミングが重要だと経験から感じます。