食品スーパー業界の動向

(更新日:2019年1月)

業界定義
主として飲食料品を小売する事業所(総務省日本標準産業分類)
業界シェア
業界トップは、イオンリテールで売上高は、2兆8,761億円。2位はイトーヨーカ堂で1兆2,442億円、3位はイズミで7,298億円となっている。(2017年度)(出典:日本チェーンストア協会)

市場規模 13兆円

(2017年度)(出典:日本チェーンストア協会)

成長率1%

(2017年度の2016年度比)(出典:日本チェーンストア協会)

関連法規
食品衛生法、容器包装リサイクル法、食品リサイクル法

業界分析

2017年度の全国スーパー総販売額は前年比1%弱減の12兆9,175億円であった。スーパー業界の総販売額は1年間の日数、土日・祝日の日数に影響を受けやすい。2016年度はうるう年で通常より1年間の日数が1日多かったことや、土日・祝日の日数が121日だったことが要因で総販売額は好調であったが、2017年度の土日・祝日の日数は117日であったため、総販売額が減少に転じたと考えられる。また、コンビニやドラックストアが食品売り場を拡大しており、競争が激化していることも総販売額が減少した要因であると予測できる。スーパー業界の一店舗あたりの販売額は、2012年度は約15.9億円であったが、2017年度は約13億円まで減少した。それに対して、2012年度の店舗数は約7,900店だったが、2017年度には約9,800店まで上昇した。

店舗数、売上高グラフ

慢性的な人手不足への対策

人手不足をきっかけにパート・アルバイトの人件費が高騰しており、利益を圧迫している。リクルートジョブスの調査によると、三大首都圏のアルバイト・パートの平均時給は、2012年1月に942円であったが、2017年12月には1,030円となり約9%の上昇となっている。利益を圧迫する人件費を削減するために、セルフレジ・セルフ清算レジを導入するスーパーが増加している。2017年10月時点で、セルフレジ・セルフ清算レジのいずれかの設置率は48.6%であり、セルフレジの設置率は16.5%、セルフ清算レジの設置率は42.1%となっている。

三大都市圏アルバイト・パート平均時給

(出展:リクルートジョブス)

スーパー業界の新たな活路

インターネットが普及し、EC(ネット通販)市場が拡大する中、「事務用品、文房具」のEC販売比率が30%を超えているのに対して、「食品、飲料、酒類」のEC販売比率は2%台と低迷している。

個人向けEC売上高、EC販売比率グラフ

消費者は品質や鮮度、衛生面の点や、注文から配達までに時間がかかることなどから、「食品、飲料、酒類」についてはECの利用を敬遠しがちである。しかし、最近ではオンラインで生鮮品を販売することに成功した企業が増えていることや、ドローンを駆使して注文から30分以内に配達できるサービスも誕生していることから、今後のトレンドが変化する可能性は否定できない。ドローンは日本国内では規制が厳しく、実用の見通しは立っていないが、ECで生鮮品を購入する消費者が徐々に増えてくれば、ECと実店舗を融合したスーパーマーケットが頭角を現すことが予想される。

M&A動向

2018年度における日本の食品スーパー業界で最も大きなM&Aは、2018年10月にドンキホーテHD(東京)が、ユニー・ファミリーマートHD(東京)傘下の総合スーパー、ユニー(愛知)を282億円で完全子会社化すると発表した案件だ。ドンキホーテHDは過去にも総合スーパーの長崎屋(東京)を子会社化させて業績を回復させた経験があり、今回もユニーを傘下に収めることで、ドンキホーテHDは更なる成長を狙っていると考えられる。

八会社(私鉄系スーパーマーケット)関連の動きが目立った。2018年7月に、広島電鉄(広島)は100%子会社の広電ストア(広島市)が運営するスーパー事業を、マックスバリュ西日本(広島)に譲渡した。また同月に、東武鉄道(東京)はスーパーマーケットの東武ストア(東京)に対してTOBを実施することを決めた。私鉄系スーパーの業績は立地に左右されることが多く、事業拡大に向けて私鉄系スーパーを鉄道会社が買収する場合もあれば、事業再編に伴い、私鉄系スーパーを売却する鉄道会社もある。

地方のスーパーマーケットが地場で事業を拡大する動きも目立っている。2018年8月、バローホールディングス(岐阜)は、食品スーパーのフタバヤ(滋賀)を完全子会社し、2018年12月にはアークス(北海道)とリテールパートナーズ(山口)と資本提携を結んだ。バローホールディングスの商業地域拡大が目立つ。

2018年10月には、アルビス(富山)が地場食品スーパーマーケットのオレンジマート(富山)を完全子会社化することを発表した。地方のスーパーは、大型店スーパーマーケットの進出や人口減少の問題などから、苦戦を強いられているケースが多く、生き残りをかけたM&Aが発生している。

中小のスーパーマーケットが大型店に店舗を譲渡するケースもある。西日本で岡山県を中心に事業を発展させている大黒天物産(岡山)は、2018年12月にスーパーマーケットのマミーズ(福岡)が展開する30店舗のうち22店舗を取得した。大黒天物産は西日本で151店舗を保有しており、マミーズが九州地方で展開する22店舗のエリアが今後の店舗網の拡大エリアと合致していたため、店舗の大半を譲り受けることとした。

海外の事例で、国内市場の参考になるのが、米国Amazonによる食品スーパーのホールフーズ・マーケットの買収だ。IT大手による食品スーパー買収は、生鮮ECの「Amazonフレッシュ」との相乗効果を狙ったものだと考えられている。日本でも、高齢化に伴い生鮮品・日配品の宅配需要が拡大しているため、物流システムのノウハウを持つ異業種企業が食品スーパーを買収し、ECや宅配に乗り出すことは十分に考えられる。

企業価値の目安

スーパーマーケットは、設備投資を抑えて薄利多売で売り上げを確保しているため、投下資本を短期回収できる業態といえる。ただし、売上高人件費率が高く労働装備率は低い。つまり、店舗などの固定資産投資を抑えつつ、パート・アルバイトを含めた人件費に投資している業態ということができる。基本的に掛け売りはなく、現金回収での取引が多いため、短期の支払い能力を示す数値は他業種より低いが、これはビジネスモデルを考えれば大きな影響を与えるものではない。競争力の源泉となるのは、水産・鮮魚、精肉などを市場で仕入れる目利きや、異なる温度管理帯の食材を適切に管理し、最適な発注・在庫管理ができるノウハウを持っている人材である。M&Aを考える際には、人材という資源にも注目したい。

EV/EBITDA倍率は平均9.6倍、分布としては4~8倍が40%を占めている。

EV/EBITDA倍率グラフ