M&A INTERVIEW

インタビューイメージ 株式会社CyberFight 代表取締役社長 高木 規 氏

株式会社CyberFight(旧社名:株式会社DDTプロレスリング)
代表取締役社長
高木 規 氏

DDTプロレスは今年で旗揚げ20周年を迎えたプロレス団体で、通常のリングではない場所で行なう「路上プロレス」や魅力あるレスラーなどを特徴にファンを増やし、インディーズプロレスを代表する存在となっている。
当初は小規模会場やライブハウスで定期的な興行を開催して、エンターテインメント色を大胆に打ち出すことによって支持を拡大。現在は定期的な両国国技館大会を満員にし、さいたまスーパーアリーナ大会を大成功させるほどの人気団体となっている。
2017年9月1日、そのDDTプロレスの運営団体である株式会社DDTプロレスリングの高木規社長(リングネーム:高木三四郎)は、メディア事業とインターネット広告事業を主とする著名なIT企業、サイバーエージェントに同社の全株式を譲渡した。自らも選手でありながら、アメリカの業界誌主催である『レスリング・オブザーバー・アワード』にてベストプロモーター部門・第2位を受賞する実力者である高木社長に、今回の譲渡に至られた経緯や背景、またその際に感じられたことなどを伺った。

「路上プロレス」など意外性のある企画で新たなファン層を開拓
20周年の節目に、さらなる成長を目指してM&Aを選択

ーー今年、DDTプロレスの旗揚げから20周年の節目となりましたが、これまでにないほどの人気団体となった今、譲渡をご決断されたきっかけや経緯を教えてください。

特に決まったきっかけというのはなく、旗揚げから20年という節目が一つの区切りでした。もともとDDTプロレスは100人、200人ぐらいの集客からスタートして、今ようやく両国国技館や、さいたまスーパーアリーナまでは埋められるようになりましたが、ここまで来るのに立ち上げから20年かかりました。
ここから先を見据えたときに、これ以上に団体を拡大していくには、このままのペースではさらにあと何年かかるだろうか、という気持ちがありました。事業をさらに拡大していきたいという気持ちはあるのですが、これまで以上にペースを上げるには、自分たちだけの力では正直なところ厳しい。ちょうど世間的にプロレス人気が盛り返してきている環境があり、自分たちも団体として大きくなっていけている中で、昨年ぐらいから、本当に今のままの体制で良いのか、もう一つステージを上げるには、成長角度を上げていくにはどうすれば良いかと考えるようになりました。

ーーここまでの人気団体に成長されたうえで、さらなる成長と加速を目指されたのですね。

プロレスというのは、やはりスポーツの中でもマニアックなジャンルだと思います。そこから脱却するというわけではないのですが、もう少しメジャースポーツにできるのではないかというような気持ちもありました。うちの団体もそうですし、新日本プロレスさんもそうですし、今、プロレス業界で成功している部類に入る団体というのは、女性ファンの獲得に成功している団体です。そういった意味では、DDTプロレスはかなり早い段階で、従来のプロレスにない取り組みをしてきました。
例えばDDTプロレスの特色の一つである「路上プロレス」という興行では、プロレスのリングではなく、場外乱闘の延長線上のような形で試合を行います。マットも敷きません。商店街の路上であったり、千葉県の銚子電鉄の電車内、また東京・浅草花やしきで開催したこともありました。とにかく知恵を絞ってプロレスの持つ可能性を探り、面白いと思うことには何でもトライして、意外性のある企画を行ってきた結果、女性客や従来のプロレスファン以外の方に見に来てもらうことができました。かなりの急成長を遂げることができて、もちろん新日本プロレスさんと差はあったものの、数年前までは埋められない差ではないと思っていました。
ただ、本当にこの2年くらいで新日本プロレスさんが急成長された。その背景には新日本プロレスさんがブシロードさんのグループに入ったことが大きかったですよね。プロモーションにもお金がかけられるようになって、組織としても従来の個人商店的なプロレス団体ではなく企業化したというか。そういった新日本プロレスさんの急成長を傍から見ていて、焦りみたいなものも感じました。
自分たちDDTプロレスは、このままあと何年ずっと今のペースで続けていけばいいのか?このままで良いのだろうか?そのような思いが強くなってきたのは確かです。だからこそ、自分たちもパートナーシップを一緒に組んでやっていける提携先を考えていました。

インタビューイメージ 株式会社DDTプロレスリング 代表取締役社長 高木 規 氏

パートナーに求めた条件は、ただプロレスが好きなのでなく、
DDTプロレスの特長を知り、ビジネスとして魅力を感じてくれること

ーーパートナーを募るうえで、どういった相手先が良いかなど、具体的に考えていらっしゃいましたか?

最初に考えたのが「相手先の経営者の方は、必ずしもプロレスが好きな方でなくて結構」ということでした。プロレス団体のパートナーに希望する条件としては意外に感じられるかもしれませんが、DDTの魅力はプロレスのファンの方よりも、“プロレスがビジネスになる”と判断していただける方のほうによく伝わるのではないかと考えていたのです。
というのも、プロレス団体というのは昔から分離・独立したり、売却されてオーナーが変わったり、M&A的なことが多くあって、必ずプロレス好きなオーナーに引き継がれている。それはもちろん良い部分もあるのですが、逆に良くない部分もあるわけです。
同じプロレス団体でも、オーナーや選手達の好きなプロレスの方向性が違うこともあります。それが軋轢となって、結局、また分離したりして落ち着かない。ですから、DDTプロレスの特長を知り、プロレスというビジネスに魅力を感じてもらえる企業さんが望ましい、という希望がありました。
パートナーとして我々に関心を示していただいた企業の中でも、特にサイバーエージェントさんは若い世代を中心に支持されているAbemaTVやアメブロなどのコンテンツを持たれていて、何よりネットビジネスに長けていらっしゃる。今後の展開という意味においては一番の可能性を感じました。そこで、サイバーエージェントさんに相談したところ、とんとんと話が進んでいったのです。

スピード契約となったが、トップ面談の感触も良く、
M&A後にどんなことができるのか、ワクワク感ばかりだった

ーーM&Aの交渉で感じられたことがあれば教えてください。

サーバーエージェントの藤田社長とのトップ面談が、僕は一番緊張しましたね。藤田社長は若手経営者の中では有名で、もちろん存じ上げてはいましたが、まったく面識のない方だったので、面談の前日ぐらいまで「本当に大丈夫か?服は何を着ていけばいいか?どんなことを話したらいいか?」と不安になっていました。リング上では全く緊張しないのに……。
DDTプロレスは理解していただくのに時間がかかるので、「路上プロレス」の動画などをスマホで再生しながら説明することがあるのですが、今回も藤田社長に動画をお見せしたりしました。そんな感じで正直、M&Aの手順というか、作法というか、いまひとつわかっていない状態のまま始まりました。最終契約まで相当なスピードで進んだそうです。次回のプロレスの大会で発表するから、そこから逆算してM&Aのスケジュールを組んだ感じです。そこからは大変でした。会社の状況を把握するために、これらの資料を全部そろえるようにと依頼され、これからはもうスピード勝負になりますということで、僕らもついていくのに必死でした。しかもサイバーエージェントさんはスピード感が速い。夏はイベントが多く、全国を回りながらの同時並行で大変でした。

ーーどのような希望条件を挙げられたのですか?

僕の場合、経済的な条件というのは正直、二の次、三の次でした。どちらかというと、一般的知名度が高い企業に、という条件が第一条件でした。一般的な知名度があるプロレス団体といえば、新日本プロレスさんや全日本プロレスさんがあって、そこはすでにブランドがあるわけですが、DDTプロレスはその点が弱い。誰もが知っている企業のグループに入ることが、DDTプロレスが一般化していく上で一番重要なことだと思ったのです。

ーーM&Aが進む中での不安や、譲渡するにあたっての寂しさはありましたか?

僕らは数字を出すだけだったので、本当に不安はなかったです。僕自身も藤田社長とのトップ面談の感触がとても良くて、とんとん拍子で進んでいきました。不安よりむしろ、サイバーエージェントさんと一緒になった後、「どんなことができるだろう?」というようなワクワク感ばかりでした。最終契約の前、サイバーエージェントさんからの最終回答をいただくまではドキドキしました。

インタビューイメージ 株式会社DDTプロレスリング 代表取締役社長 高木 規 氏

自分の会社でなくなる寂しさはない
一歩も二歩も大きな舞台に向かう期待が大きい

ーー譲渡後の体制について教えてください。

株式は譲渡しましたが、私は今後もDDTプロレスリングの代表取締役社長を継続することになっています。今後は、どちらかというと、サイバーエージェントさんと一緒になって、どれぐらいのスピード感でやるのか、それに現場の社員や選手達をどう巻き込んでいくのかということを意識していく必要があると思っています。一般化していく、世に出られるというのは、とてもありがたいことですが、それだけ注目も浴びることになりますので、上っ面の部分だけだとすぐメッキがはがれてしまいます。そうならないように気を引き締めなければなりませんね。

ーー最後に、同じようなお立場の経営者の方に一言お願いします。

個人的には、自分の会社でなくなる、ということに寂しさは一切ありません。自分がやりたいことというのは、どうしても自分たちの力だけでは限界が出てくると思います。だからこそ一緒に成長させてくれるパートナーが必要で、今回のような選択を僕はしましたが、まったく後悔もしていないですし、今は本当に今後への期待しかないですね。今回のことで、DDTプロレスの東京ドーム大会というのも夢ではなくなった。もちろんそれに対して、僕らのほうも今まで以上に頑張らなければなりません。自分達が今まで築き上げた舞台から、さらに一歩も二歩も大きな舞台に上がれるワクワク感でいっぱいです。