M&Aインタビュー

インタビューイメージ 株式会社CyberFight 代表取締役社長 高木 規 氏

MBSイノベーションドライブ 社長
日笠 賢治 氏(左)
Vogaro 代表取締役CEO
米田 純也 氏(右)

在阪準キー局の毎日放送(MBS)のグループ会社で、新規事業創出を担うMBSイノベーションドライブ(東京都港区、日笠賢治社長)は2月に、デジタルマーケティング支援を通じて、ブランディングや事業グロースを担うVogaro(大阪市、米田純也代表取締役CEO)の過半数の株式を取得した。マスメディアとデジタルを融合して、次世代のメディアビジネス創出に挑む。今後の事業展望について、両社トップが語り合った。

マスとデジタルの融合なくして未来を描けない時代へ

(Vogaro代表取締役CEO・米田)日本のネット広告費は2020年にテレビ広告費を上回る2.2兆円を記録し、23年には2.8兆円まで成長すると予想されています。このようなマスとネットメディアの市場構造の変化について、どうお考えですか。

(MBSイノベーションドライブ社長・日笠)10年前は、我々放送業界の人間はネットに脅威を感じていませんでした。映像はデータ量が大きいので新聞、出版、音楽業界のようにデジタル化の波に飲み込まれることはなかったからです。テレビ広告市場はずっと堅調でした。しかし、この数年、YouTubeやNetflixなどが一気に市場を拡大、放送業界はデジタル化の荒波に、処方箋もなく途方にくれている状況です。

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(米田)当社が創業した18年前ごろにはマスメディアは花形の業界で、特にテレビは憧れの存在でした。当時はブランディングやマーケティング戦略も、まずマスメディアというセンターピンを倒すことが重要な戦略とされていました。しかし、近年は必ずしもマスがセンターピンといえない状況にあることは、デジタル業界でも認識されています。

(日笠)ネット広告とテレビCMの最大の違いは、効果検証ができるか否かです。放送業界には、視聴者がいつどのCMを見て、それが購買につながったかどうかを知る術がないので、ネットメディアと対等な勝負ができませんでした。
今、放送業界は「TVer」のような配信事業に乗り出し、急速に成長を遂げつつありますが、まだデジタルの海に漕ぎ出したばかりの状態です。こうした環境を鑑みると、これからの放送業界はデジタルマーケティングの手法を取り込まなければ生き残ることは困難です。これが、我々がVogaroをグループ化した最大の理由です。

マスのリーチ力とデジタルのデータ活用力が生み出すシナジー

(日笠)放送業界では、以前から国が旗を振って「通信と放送の融合」を目指し、携帯電話でテレビが観られる施策や、デジタル放送への移行など、さまざまな取り組みが進められました。しかし、それがビジネスにまで発展するには至りませんでした。
放送業界は、長らく安定した事業環境に身を置いていたため、ITベンチャーがテレビ局に買収を仕掛けたときも相手にせず、何も変わろうとしませんでした。しかしIT業界が強大な力を持つに至った今、放送業界の人たちは、途端に諦めモードに近い状態に陥ってしまっています。

(米田)日笠さんは悲観的な見方をされますが、我々デジタル業界にとってマスメディアは、今でもやっぱり魅力的です。なぜなら、ネットは顕在化したものを販売・拡散する力はあるものの、世の中に認知されていないものを広げる力は、今もマスが圧倒的に強いからです。これまで我々は、お客さまから「新しい商材をテレビに出したい」と依頼されても、コンプライアンスが厳しいマスに、商材を取り上げてもらう方法や理由を、きちんと設計するノウハウがないため、多くの事業機会を逸してきました。

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(日笠)そういう意味で、まさに我々とVogaroは補完関係にあったわけですね。

(米田)おっしゃる通りです。新しい商材をマスで認知させ、我々の持つブランディングやコンセプトメーキングのノウハウを生かして一過性ではないブランドに育てれば、大きなビジネスチャンスが生まれると考えています。それが今回の戦略的資本業務提携の最大のシナジー(相乗効果)だと思っています。

互いに大阪を本社とする企業であることが“決め手”だった

(米田)MBSグループに魅力を感じた理由は2つあります。1つは、ネットとマスを融合させてマーケティング領域を強化できること。もう1つは、MBSイノベーションドライブが保有する資本を我々のデジタルマーケティングと掛け合わせれば、新たなビジネスやブランド創出が可能になることです。

(日笠)実は、我々はVogaro以外にもたくさんのデジタル系企業とお会いし、「一緒にやりたい」と多くの企業からオファーを受けましたが、それを全部お断りしてVogaroをパートナーに選びました。その理由の1つは互いの本社が大阪にあることです。
経営分析からブランディング、サイトデザイン、SNS設計、2年目、3年目の戦略立案まで、すべて自社でできることがVogaroの魅力ですが、それは大阪という土地柄と無関係とは思えません。東京でお会いした会社は、どこも事業が細分化されていて、Vogaroのような会社はありませんでした。おそらく専門分化した事業分野に特化した方が、採算が取りやすいからだと思います。

(米田)大阪の伝統的な上場企業の多くは、オーナー企業です。そのような企業と伴走していくには、オーナーに物を申さなければいけません。我々は、例えオーナーに対しても時代に合わないマーケティングやブランディングをしていれば、遠慮なく物申します。
物を申すには、すべてのプロセスを理解し、価値を設計し、実行する力が必要です。そういう意味では、おっしゃる通り我々がトータルサービスを提供している理由は、土地柄にも関係しているかもしれませんね。

(日笠)会社の損得より、まず、お客さまのニーズに寄り添い、真っ当に事業をされているところは、我々MBSグループのポリシーと合致しています。また、デジタル化の体制がまったく整っていなかった我々にとって、1から10まで任せられるVogaroの事業形態は非常に魅力的でした。

(米田)我々は、デジタル化が進むと単発サービスではなく、大きなコンセプトやブランドパーパスを中心にコミュニケーションを考えなければ、勝負できなくなるという意識があります。そういう意味で、物申す文化や、ブランドパーパスを中核にした事業形態に、追い風が吹いているのかもしれませんね。

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デジタル×マスで次の時代のメディア創出に取り組みたい

(米田)まずはデジタル×マスのマーケティング融合を目指し、両者の出資先企業への支援体制を強化していきたいと考えています。また、日笠さんとは、イノベーションを創出する人材や事業輩出などを目的としたアカデミー「ヴォガロ(Vogaro)大学(仮称)」の設立についてもお話させていただいています。これが実現すれば、次世代ビジネス・ブランド創出を加速する共通プラットフォームも構築できると考えています。

(日笠)大阪を本拠とするMBSは名古屋のCBC(中部放送)と並び、日本で最初にラジオの電波を出した最古の民間放送局です。しかし広告も番組制作も東京に集中するなか、今はMBSも全国ネットの番組はほぼ東京で制作しています。大阪は個性ある番組作りはしているものの、ほとんどがローカル枠での放送になっています。しかし、デジタル化が進めば、物理的な距離は関係なくなりますから、今後はVogaroと一緒に大阪から世界に貢献できる事業を創りたいと思っています。
さらに風呂敷を広げますと、デジタル技術を生かして放送局という古いメディアを新しい時代にアップデートしたいと考えています。今、全国に、民間放送局が100社ほどあり、多くは事業経営が厳しくなっています。我々がデジタルを活用した新たなメディアを提示できれば、彼らにも刺激を与えられるはずです。その方法論をVogaroと一緒に提示することが、我々の描いている最大の野心です。

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企画:株式会社ストライクコンサルティング本部