INTERVIEW

少子化で厳しい未来が予想される学習塾業界
「競合」ではなく「協業」で
首都圏戦略の強化を図る

  • #事業拡大
  • #業界再編
  • #戦略的M&A
  • #老舗
  • #教育・コンサル
株式会社仙台進学プラザ 代表取締役 矢澤 俊一 氏

進学プラザグループ(株式会社仙台進学プラザ) 代表取締役 阿部 孝治 氏
株式会社東京進学ゼミナール 顧問 三澤 徹 氏

東京、千葉、茨城で学習塾を運営する株式会社東京進学ゼミナール(東京都荒川区)は2023年10月、東北地方を中心に北海道や関東圏でも広く教室を展開する進学プラザグループ(株式会社仙台進学プラザ/宮城県仙台市)の傘下に入った。一部エリアで競合関係にあった両社は今後、協業によって「地域No.1」の教室を目指すとともに、さらなる事業拡大を図るという。厳しさを増す学習塾業界において成長を続けるための生き残り戦略とは?進学プラザグループの阿部孝治氏、東京進学ゼミナールの三澤徹氏にお話を伺った。

株式会社仙台進学プラザ
ご成約インタビュー動画

地方では少子化の影響が顕著
人口の多い首都圏で
地域No.1の塾を目指す

進学プラザグループ様の沿革を教えてください。

進学プラザグループ 代表取締役 阿部 孝治氏
進学プラザグループ 代表取締役 阿部 孝治氏

阿部:1985年に宮城県塩釜市で学習塾を始め、仙台市を中心に東北地方で教室を運営していましたが、2000年代半ばからM&Aを展開、特に関東圏への進出を進めてきました。新しい教室を自社だけでどんどん開くのは難しいので、一緒にやっていけそうな近隣の塾とM&Aにより手を結び、事業を拡大してきた形です。
東日本大震災などの危機もありましたが、そのたびに新たな事業展開を図り乗り越えてきました。グループの規模は現在、東北地方のほかに北海道、茨城、千葉、埼玉など約350教室となっています。

関東圏への進出を図る狙いは?

阿部:地方は少子化の影響が顕著で、学習塾産業のマーケット縮小が加速しています。トップクラスの公立高校の難易度が下がり、なかには定員割れ、定員減をしている高校もあるため、「塾に通って難関高を目指しましょう」というビジネスが成り立たなくなってきた。塾がどんなに努力して特徴を出しても生徒が集まらない時代になりつつあり、我々はかなり早い時期から人口が多い首都圏に力を入れています。
TSS(東京進学ゼミナール)さんは当社と競合するエリアもあり、提携すれば相乗効果が生み出せるだろうと考え、ストライクさんを通じてお声掛けしました。TSSさんは中学受験で実績があり、当社は高校・大学受験に強いので、協業すれば「地域No.1」を目指せることが大きな魅力でした。

競合相手とのM&Aはハードルが高いように思いますが……。

阿部:切磋琢磨することでどちらも生徒数が増えた時代もありましたが、今は違います。マーケットが限られているところで競争しても、お互いすり減ってしまうだけ。我々は生き残るために「無駄な競争をするより、規模を問わず協業できる塾と一緒に首都圏での事業拡大を図ろう」という戦略をとっています。

TSS様の沿革を教えてください。

東京進学ゼミナール つくば予備校
東京進学ゼミナール つくば予備校

三澤:1965年に創業、東京を中心に教室展開をしていましたが、人口のドーナツ化に伴い千葉や茨城に教室を開校するようになりました。変化する地域のニーズに応えつつ開校と閉校を繰り返し、現在では東京・南千住、千葉ニュータウン、つくばの3教室を運営しています。
近年は中学受験の過熱を受けて私立中学・公立中高一貫校の受験対策を手厚く行っています。社員登用率が高く、正社員が責任を持って丁寧な指導を行っているのが特徴で、指導の質の高さが合格実績にも表れています。

ストライクからM&Aのオファーがあると聞いたときの率直なお気持ちをお聞かせください。

三澤:正直とても驚きました。将来を見据えたとき、M&Aの可能性を考えてみたことはありましたが、そのウエイトは小さかったですし、当社の規模・拠点数から考えて、どこかからお声がかかるとは思ってもみませんでした。ストライクさんのことも知りませんでしたし、当初は本当に全く中身がわからず“おっかなびっくり”でした。M&Aは初めての経験ですから、その後、会社がどうなっていくのか?社員・スタッフは?教室は?ブランド名は?わからないことを一つひとつ、ストライクさんから具体的にイメージできるようご説明いただいて、だんだんほぐれていったような感じです。

進学プラザグループ様の印象は?

(株)東京進学ゼミナール 顧問 三澤 徹 氏
(株)東京進学ゼミナール 顧問 三澤 徹 氏

三澤:競合している地域もありましたから、うまくいくのか不安もありましたが、お話を重ねていく中で、逆に近しいところでやっているからこそ相乗効果が期待できると前向きに考えられるようになりました。指導体制などを最初から大きく変えることはしない、一緒になってから具体的に考えていきましょうというお話があったことも安心材料になりました。
決め手になったのは、やはり阿部さんに実際にお会いして、今後の業界についての展望やグループのビジョンをしっかりお聞きできたことです。親しみやすいお人柄で、不安な点をいろいろご相談することもでき、「この方が経営されているグループなら」という気持ちになりました。やはりお相手の“顔が見える”ことはとても重要で、直接お会いしたことで気持ちが固まったと思います。

ストライクとの面談から約3カ月
スピーディに成約に至る

三澤様とストライク担当者が初めてお会いしたのが7月21日、トップ面談が9月13日、クロージングが10月12日とスピーディな展開でした。

ストライクのスピード感と対応力が成約の追い風になったと話す三澤氏。写真左がストライクの鈴木、写真右がストライクの魚谷。
ストライクのスピード感と対応力が成約の追い風になったと話す三澤氏。
写真左がストライクの鈴木、写真右がストライクの魚谷。

阿部:私はM&Aに関して、時間をかけず結論を出したほうがいいと考えています。経験上、長引くとお互いに粗が見えてくるだけ。時間をかけて丁寧に相手のことを調べても、実際に一緒になってみないとわからないことは多々ありますから、「この塾と一緒にやりたい」と思ったら、その勘を信じて前に進むことを考えます。
何事も考えすぎると「やめておこう」という後ろ向きな思考になりがちですよね。私は東日本大震災の経験もあって、「今日やれることは今日やろう」という姿勢を大切にしています。

三澤:本音を言えば想定外のスピード感で、ついていくのに必死でしたが、勉強になることが多く、よい経験になりました。
ストライクの鈴木さんのスピード感と対応力はありがたかったです。見えないこと・わからないこと・不安なことについて、どんな些細なこともおざなりにせず、細かくわかりやすく誠意を持って答えてくださった。今回の成約の追い風になったと思います。

M&A後の動きやシナジーを教えてください。

阿部:まずはお互いをよく知ることから始めています。特に個々の社員の人柄や考え方、レベルを早期に把握できるように個別に面談を実施したりしているところです。

三澤:今はお互いに「中身を可視化させるための期間」という感じですよね。人となりの部分でいうと、人的な交流が生まれるような様々な催しをしていただけるのはありがたいです。

阿部:11月に幹部の人たちを仙台に招いて交流を深めましたし、忘年会には関東圏の200人近い社員が集まりました。やっぱりそういう場でないと人柄まではなかなかわからない。交流の機会はどんどん増やしたいですね。

三澤:シナジーとしては、まず今回の提携によって生徒数や公立中間一貫校の合格実績などがトップになる地域が出てきます。地域の一番手になるインパクトは大きく、社員のモチベーションも変わってきます。
私にとっては、グループに加わったことで新たな経営ノウハウが得られるようになったことも大きなメリットです。自社だけでは見えなかった問題点や新しい経営手法を学び、もっとシナジーを生み出せる方法を考えていきたいと思っています。

時間の猶予は残されていない
「川中島の戦い」はやめて
経営の次の一手を

今後、塾が生き残るために必要なことは?

三澤:学習塾の中身だけで勝負するのは難しい時代です。合格実績や生徒数で「地域No.1」になれば生徒が集まるとも限りません。私自身も「なぜうまくいかないんだろう」という課題感をずっと抱えていました。

阿部:「地域No.1」は集客の必要条件であって、十分条件ではありません。最初にお話ししたように、必ずしも塾に行かなくても難関公立高校に合格できるし、難関高へ入ってもトップクラスの成績でないと難関大学へ入るのは難しくなっています。ですから、「小学校低学年から難関大学を目指して勉強しましょう」と塾の必要性を訴えていく必要があります。

三澤:「大学受験」というゴールを早期に設定して、小学校から高校まで通い続けてもらう。スキームがしっかり作り込まれているなと思います。

阿部:私立中学受験が過熱しているのは1都3県、大阪、名古屋などの都市部だけですから、それ以外の地域では、小学校低学年から大学受験を見据えて公立中高一貫校や難関高校の合格を目指す。それしかありません。
実際には、安定した財務基盤と人材採用力を持つ塾でないと生き残りは難しいし、異なる業態へのシフトも考えるべき時期に来ています。当社は“ゆりかごから墓場まで”お預かりできるような仕事をしていきたいと考えて、認可保育園やバイリンガル保育施設のほか、介護分野への進出も図っています。

今後のM&A戦略を教えてください。

阿部:学習塾については、これからも相乗効果が見込めるお相手との提携を進めたいです。生徒さんは結局、入れ替わりますから、質の高い先生がいるかどうかが最も重要なポイントになります。
介護や保育の分野に関しては、収益性が低いという大きな課題がありますので、一緒に課題解決に挑んでくれるような人たちとのご縁があればいいなと思います。

最後に、経営課題を抱える塾の経営者に向けてメッセージ、アドバイスをお願いします。

阿部:もう時間の猶予はありません。お客様がいないところで競争をしても「川中島の戦い」になるだけです。協業して次の展開を図る。あるいはもっと付加価値がつけられるような業界に進出する。どの方法がいいかは一概に言えませんが、経営の次の一手を打つべきときが来ていると思います。

三澤:最近、近隣の同業の方からM&Aについて「興味があるが、わからないことばかりで踏み出せない。怖さもある」というような相談を受けました。そのときにもお伝えしたのですが、専門家の話を一度よく聞いてみて、どんなものか知った上で自社に合致するかどうか判断すればいいのではないかと思います。わからないことをわからないままにしておかず、情報の量、選択肢を増やすことが自社の未来へのスタートになるのではないでしょうか。

本日はありがとうございました。

M&Aアドバイザーより一言(鈴木 淳也・法人戦略部アドバイザー談)

ストライク鈴木

本件は、どこの学習塾を運営している会社様にとっても頭を悩まされている少子化という問題をどのように乗り越えるのかの手段として、M&Aを選択したことで、地域の「競業」から「協業」に変わるM&Aとなりました。東京進学ゼミナール様の三澤顧問と初めてご面談を行った際は、M&Aとはどのようなものか、一つの成長の手段として話を聞いてみるという形でスタートしました。その後、阿部代表とのトップ面談を経て、両社が地域トップになることができるM&Aであることをご理解いただき、納得感を持ちながら進んでいったように感じます。
今回のM&Aは、地域内で競合するのでなく、一緒になることで地域トップになることができるという、お互いにとって相乗効果のあるご成約になりました。

本サイトに掲載されていない事例も多数ございます。
是非お気軽にお問い合わせください。