M&Aの業界動向 人材派遣業界

2011年 業界動向

業界定義
一般労働者派遣事業及び特定労働者派遣事業(労働者派遣法)
(総務省日本標準産業分類より)
業界シェア
テンプホールディングスが最大手。上位5社で業界シェア12%程度。
市場規模
6.3兆円

(厚生労働省「2009年度労働者派遣事業報告の集計結果(確報版)」)

成長率
19.0%減

(厚生労働省「2009年度労働者派遣事業報告の集計結果(確報版)」)

関連法規
労働法、職業安定法、雇用対策法

人材派遣業は法整備と規制緩和に伴い、順調に成長を遂げてきた。しかし、2008年のリーマン・ショックによる景気悪化と企業の雇用抑制により、求人需要が減少。また、社会問題にもなった"派遣切り"や偽装請負、不透明な天引き問題などが相次いで表面化したこともあり、規制強化への流れが加速している。

厚生労働省がまとめた「2009年度労働者派遣事業報告の集計結果」によると、2009年度における人材派遣業の年間売上高は前年比19%減の6兆3055億円。派遣労働者数は約302万人(前年比24.3%)、派遣先件数は約90万件(前年度比29.3%減)と、いずれも減少している。規制強化が進んだ場合、2017年度には市場規模はピークだった2007年度の6兆4652億円から約27.3%減の約4兆7千億円規模まで落ち込むという試算もある。

事業所数は2008年度の1万9503カ所をピークに減少に転じた。一方、売上高1000万円未満の事業所は2009年に過去最高の2962カ所となり、全体の16.8%を占めている。また、2009年の一事業所あたりの売上高は前年比13.0%減の2億6800万円。この数字は1994年度と同水準で、3億円を割り込むのはじつに15年ぶりとなる。

2010年4月1日には改正労働基準法が施行。月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率を50%以上に引き上げたほか、代替休暇制度や時間単位年休制度などが創設された。これらは派遣社員の待遇改善を目的としたものだが、賃金の支払いに関するシステム変更や計算の複雑化など企業側の負担を増大させる側面もある。

依然として逆風が続く中、各社は再就職支援事業やアウトソーシング事業を新設するなど新たな事業展開をスタートさせている。2011年2月には業界最大手のテンプホールディングスが再就職支援サービスを手掛ける子会社2社を統合し、再就職支援コンサルティングを行う「テンプスタッフ・ドレーク・ビーム・モリン」として事業を開始。同年6月にはパソナグループが販売・営業職の人材サービスに特化した「パソナマーケティング」を発足させた。

矢野経済研究所の調査によれば、2009年度の人材紹介市場規模は前年比51.8%減の670億円。逆に、再就職支援市場は前年比71.5%の283億円と大きく数字を伸ばしている。景気後退を背景に、企業の雇用調整にともなう再就職支援への需要が高まったことが追い風になったとされる。ただし、2010年度は雇用調整フェーズが一段落し、前年度比15.2%の240億円程度にとどまるものと予測されている。

総務省統計局の「労働力調査」によると2000年以降、65歳以上の派遣労働者が増加。ここ数年は6万人規模で定着しており、2010年には全体の6.3%を占めた。その男女比を見ると男性が約4万人、女性が約2万人。公的年金の受給開始年齢が65歳に移行し、将来的には68歳~70歳に引き上げようという議論もある。こうした状況下で、人材派遣事業は高齢者雇用の窓口としての役割も担いつつあるようだ。

海外事業を強化する動きもある。人材・情報事業最大手リクルートは2011年1月にシンガポールで人材紹介・転職支援業務をスタートさせ、続いてベトナム、インドにも現地拠点を新設。同年7月にはロバート・ウォルターズ社もベトナム・ホーチミンに進出。ロンドンに本社を持つ同社の世界21カ国目、45カ所目のオフィスとなる。中国の人件費上昇を背景に、東南アジア各国が中国を集めるなか、現地での新規事業立ち上げや採用支援などのニーズが急速に高まっている。

2011年には世界43カ国に人材サービスを展開し、世界2位の規模を誇るランスタッドが、フジスタッフホールディングスを傘下におさめ、話題となった。今後は、大企業による中小企業の合併・吸収や中小企業同士のM&Aなど、生き残りをかけた業界再編はますます活発化するものと予想される。

人材派遣業界はM&Aによる取引企業や営業エリア、派遣社員数の拡大などスケールメリットを得やすいため、M&Aが盛んな業種のひとつである。また、中小企業によるM&Aが活発に行われているも、この業界の特徴である。売上数億円クラスの会社同士がM&Aを行うことも珍しくない。

主な大型案件ではリクルートによる人材派遣最大手スタッフサービス・ホールディングスの買収(2007年)やピープルスタッフとテンプスタッフの経営統合(2008年)があげられる。リクルートは、この買収によって当時1500億円だった売上を5000億円に拡大することに成功し、業界2位だったパソナを大きく引き離した。

また、業界大手のテンプホールディングスも、M&Aを成長戦略の一つとして捉えている。2009年2月に同社の子会社であるテンプスタッフが、カー用品の販売やイベントを手がけるサポート・エーの株式を取得したのを皮切りに、9社のM&Aを実施。2010年度の連結売上高は約2253億円にものぼる。

さらに最近では、ソーシャルメディアを活用した事業創出も目論む動きもある。リクルートはグーグルやフェイスブックとの連携を進めており、ツイッターやフェイスブックを採用の窓口として活用する企業も登場している。2011年10月には米国シリコンバレ―のビジネスマッチングに欠かせないとされるビジネス用SNS「LinkedIn」の日本語版もスタートした。

今後は、同業他社間でのM&Aはもちろん、ソーシャルメディアをはじめとする異業種とのM&Aも活発化していくものと予想される。

人材派遣業は大型の設備投資が不要なこともあり、現金預金が有利子負債を上回る企業が多い。人材派遣ビジネスを手がける主な上場企業22社のうち、14社が預金超過となっていた。主要22社のうち、21社が直近決算で営業黒字。さらに9社が3期連続で営業キャッシュフローが黒字となっている。

企業価値ではEV/EBITDA倍率(n=22。EV、EBITDAがマイナスの企業を除いて集計)は平均7.94倍。分布は2.98~13.97倍という結果になっている。

財務内容が良好な会社が多いのが人材派遣業の特徴である。ただし、派遣者の募集や定着のための経費や広告・宣伝費がかさみがちな側面もある。労働者派遣法や労働基準法など法的規制がビジネスモデルや収益に大きな影響を及ぼす業界であるという点にも留意したい。

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