M&Aの業界動向 運送業

2017年 業界動向

業界定義
陸上運送、海上運送、航空運送のうち主に陸上運送を記載。
業界シェア
業界トップは、日本郵便で売上高は1兆9,248億円(郵便・物流事業のみ)、2位は日本通運で1兆9,091億円、3位はヤマトホールディングスで1兆4,164億円。
市場規模
14.5兆円

(日本物流団体連合会「数字で見る物流2016」)

成長率
1.0%減

(日本物流団体連合会「数字で見る物流2016」)

関連法規
貨物自動車運送事業法、自動車関係諸税、自動車排出ガス規制

全日本トラック協会の調査によると、2015年以降業績は徐々に上向き、8年間続いてきた営業赤字に終止符が打たれることとなった。しかし、この営業利益の改善は、燃料価格下落に起因するものであり、景気の回復によるものとは言い難い。さらにいえば、燃料費下落によるコストダウン効果は、車両台数が多いほど恩恵が大きく、車両台数が少ないほど効果は小さいため、中小企業の経営は依然厳しい状況が続いている。

トラック輸送業界は巨大企業数社が市場を牽引しているが、実態は車両保有台数10台~20台までの中小零細事業者が72.1%で、従業員数は10名以下が49%を占め、11~50名までに広げると業界の90.9%となる。一方、従業員1,000名を超える企業は0.1%に過ぎない。業界の56%を占める車両保有台数10台以下の事業者では、約55%が赤字を計上。これらの業者は、ドライバー不足による人件費および備車比が増大し、実働率も低下しており、燃油価格の下落効果を打ち消してしまっている。

トラック輸送業界は、1990年以降の規制緩和により事業者が急増し、競争が激化、さらに運賃設定自由化に伴い極端なコストダウン競争がはじまった。トラック輸送事業は、人件費が約50%、燃料費が約20%を占めているため、コストダウンを図るには人件費削減に頼らざるを得ない。こうした背景により、中小零細事業者の約6割は、社会保険にも加入していないといわれている。過酷な労働を強いられる上に、社会保障も未整備という悪条件が、人手不足に拍車をかける結果を招いている。

今後も、燃料費高騰という悪条件が重なれば、中小零細事業者の大半が経営破たんする可能性が高い。しかし、赤字続きで法人税を納めることができず、社会保険にも未加入で労働者に無理を強いる事業者は、経済システムへの貢献は低く、淘汰されてもやむを得ないという厳しい見方もある。

こうした背景を鑑みると、今後、運送業界の再編が避けられないことは、容易に予想がつく。大手および中堅企業は、これまで以上に積極的なM&Aを実行し、人的リソースと車両を確保するとともに、自動倉庫や自動運転、IoT、AIなどを導入して積載率を高め、最適配送ルートで効率的なネットワークを整備し、総合物流事業者への道を進むことになるだろう。

車両規模別の経常利益率の推移

最大のトピックスは、佐川急便(京都)を傘下に持つSGホールディングス(同)が日立物流(東京)と経営統合を見据えて資本提携に踏み切ったことだ。SGホールディングスが日立物流株の29.01%を875億円で、日立物流が佐川急便株の20%を663億円で取得。この統合が実現すれば、売上高合計は1兆5,360億円となりヤマトホールディングスを抜き、業界2位の総合物流グループが誕生することになる。スマートロジスティクスを標榜しIT、LTを駆使した先進的な3PLを展開する日立物流と、航空宅配便シェア1位・宅配便シェア2位、取扱個数約12億個を誇るデリバリー事業に強いSGホールディングスが経営統合すれば、宅配から国際物流まで手掛けるグローバルな総合物流企業が誕生する。

国内物流最大手の日本通運(東京)は、2016年4月に中部を地盤とする名鉄運輸(愛知)の発行済み株式を20%取得して資本業務提携を締結。これまでも日本通運グループと名鉄運輸グループは、一部地域で特別積み合わせ運送事業(以下、特積み)の共同配送や施設の共同利用を実施してきたが、今後の特積みマーケットの成長が見込めない中、労働力不足が深刻化する外部環境の変化に対応するため、より強固な関係を築くことが両社グループにとって有効だと判断し、今回の資本業務提携に踏み切った。

国内法人向け「アスクルサービス」、一般消費者向け「LOHACO」を展開するアスクル(東京)は、2015年9月に自転車を活用した軽貨物運送を手掛けるエコ配(東京)を子会社化した。エコ配は、エコロジー&エコノミーな新発想の宅配便として、都市部に自社ネットワークを集中するビジネスで事業を拡大してきた異色の物流企業だ。アスクルは、この資本提携について環境負荷のかからない配送の実現は、将来の環境社会における自社グループの競争優位を高めることにつながると発表しているが、その背景には、都市部に張り巡らされた小回りの利くエコ配ネットワークを活用し、当日配送などの事業拡大を目指しているのではないかと推察される。

国内の輸送需要が頭打ちになる中、多くの物流企業がアジアを中心とする海外事業に注力している。日本通運は、現地法人を通じてAGS(アメリカ)、APC Asia Pacific Cargo(香港)、Franco Vago(イタリア)を相次いで子会社化、日立物流もEternity Grand Logistics(タイ)、James J.Boyle & Co.(アメリカ)を子会社化しており、現地企業をターゲットにした買収案件が増加している。

積極的なM&Aで急成長を遂げた物流ベンチャーのSBSホールディングス(東京)は、2011年10月にAtlas Logistics(インド)を買収して海外へ進出。2012年5月には、シンガポールにアジア地域統括会社SBS Logistics Holdings Singaporeを設立、シンガポール、タイ、ベトナム、マレーシアの拠点整備を実施。2014年7月にはインドに本拠を置く国際物流会社Transpole Logisticsを買収した。しかし、中国経済の成長鈍化、新興国経済の低迷などによる国際貨物フォワーダー間の価格競争の影響を受け、債権回収が困難となり資金繰りが悪化、シンガポールの投資会社Global International Network Pte. Ltd.へ現地子会社ごと売却することとなった。

アジア新興国市場にビジネスチャンスがあることは間違いないが、一方で多くの企業が参入し価格競争が起きていること、また政情の不安定さによるリスクの大きいこともあり、成功が容易ではないことも事実である。

EV/EBITDA倍率は平均9.38倍となっており、全体的には6~10倍の幅が広く約41.3%を占めている。

収益の拡大は、トラックや倉庫、不動産などへの設備投資と比例する傾向があるため、業種構造的に負債が拡大しやすい傾向がみられる。また、設備投資にリースを活用するケースが多く、特に非上場企業の場合、リース債務を決算上の負債に計上していないことが多いため、買収価額の算定時には、売却価額の推測に注意が必要だ。

なお、運送業(特に倉庫業)では、不動産を保有する企業が多いため、不動産価値が企業価値に影響を与えることが少なくない。このため収益性指標による評価だけではなく、不動産価値にも目を向けたうえで、企業価値を判断しなくてはならない。

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