M&Aの業界動向 運送業

2015年 業界動向

業界定義
陸上運送、海上運送、航空運送のうち主に陸上運送を記載。
業界シェア
業界トップは、日本通運で売上高は1兆7,524億円、2位はヤマト運輸(ヤマトホールディングス)で1兆3,746億円、3位は佐川急便(SGホールディングス)で8,350億円。中小・零細企業の事業者数が多いことが業界の特徴である。
市場規模
18兆円

(社団法人全日本トラック協会(全ト協の経営分析 2012年度決算版)

成長率
4.3%減

(社団法人全日本トラック協会(全ト協の経営分析 2012年度決算版))

関連法規
貨物自動車運送事業法、自動車関係諸税、自動車排出ガス規制

内需縮小ならびに円安や燃料高を背景に国内物流市場は縮小傾向にある。輸送量の頭打ち、荷主企業からの物流コスト削減要求、同業者間の値下げ競争の激化、人材不足に苦しむ物流業界が、生き残りと成長を賭けて取り組んでいるのが「3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)」である。3PLとは、荷物の配送に留まらず、在庫管理から組み立て梱包、システム構築などの周辺サービスを含めて一括で請け負うアウトソーシングサービスのことだ。長引く景気低迷により、荷主企業も物流に関わるすべての業務をアウトソーシングし、コスト削減したいと要望しており、国内外で市場が拡大しつつある。

運送業者が3PLを推進するには、M&Aや事業提携により物流以外の付加機能を補完する必要がある。国内で3PLの先駆者と言われる日立物流は、「物流子会社再構築事業」とのスローガンを掲げ、M&Aを繰り返すことで3PL事業を拡大してきた。2005年にはクラリオン・エム・アンド・エル、2007年には資生堂物流サービス、2008年には「おかめ納豆」ブランドを展開するタカノフーズの子会社タカノ物流サービスと、靴卸大手トークツの子会社スミダロジネット、2009年には内田洋行の子会社オリエント・ロジを買収。2011年にもインキ最大手DICの子会社DICロジック、DCMホールディングスの孫会社ダイレックスを買収。2013年3月には日立電線の子会社日立ロジテックを傘下に収めた。このように荷主企業の物流子会社を傘下に収めることで、さまざまな業界の物流ノウハウと付加機能を取り入れ、3PL事業を拡大してきたのだ。同様の動きは、日本通運をはじめとする競合他社にもみられる。今後は国際的な3PL事業に向けて、海外でのM&Aが活発化すると予想される。

一方、市場全般が縮小する国内で唯一伸びているのがインターネット通販に伴う宅配便市場である。2013年度の宅配便取扱個数は、36億3,668万個で対前年度比3.1%増、4年連続の対前年度比増を記録。しかし、インターネット通販市場は、送料無料や当日配送など運送業者への負荷が大きく、取扱個数が増えても利益が上がらないという構造的問題をはらむ。また、近年は楽天やアマゾンなどのインターネット通販事業者自身が物流機能の構築に乗り出しており、競争は一層の激化が予想される。

トラック運転者の年齢構成比

最も厳しい経営を迫られているのは、保有車両数の少ない中小事業者である。全日本トラック協会の「2012年度経営分析報告書」によれば、業界の大半を占める50台以下の事業者は約6割が営業赤字となっており、営業利益率は6年連続で赤字となっている。その原因は、輸送量の停滞、安全・環境対策にかかるコスト、軽油価格の上昇、高速道路料金の値上げ、人材不足という経営努力だけではどうにもならない要素が大きい。

トラック運転者の年齢構成比

明るい兆しといえば、2014年後半から原油価格が下落していることと、2015年秋に予定されていた消費増税再引き上げが先送りされたこと、震災復興ならびに東京オリンピック・パラリンピックに起因する建設需要が期待できることくらいだろうか。いずれにせよ、3PL化やネット通販、国際物流などに対応できない企業の経営は、今後も厳しさを増すと言わざるを得ない。

国内貨物の減少に伴い、物流業界ではチャネル拡大のためのM&Aや、3PL事業拡大のためのM&A、グローバル事業に向けた海外でのM&Aが活発に行われている。

国内では、3PL拡大に向けた案件が目立つ。日本通運は、2013年12月にNECロジスティクス(神奈川)、2014年1月にパナソニックロジスティクス(大阪)を買収した。近鉄エクスプレス(東京)も、2014年4月に同じくパナソニックの全額出資子会社で同社製品の輸出入・三国間貿易手続きを手掛けるパナソニックトレーディングサービスジャパン(大阪)を買収し、多様化する物流ニーズへの対応を目指す。

内外トランスライン(大阪)は、2013年2月に国際複合一貫輸送業のフライング・フィッシュ・サービス(東京)から国内で行う国際複合輸送事業を譲り受け、事業規模の拡大を図る。企業物流大手のセンコー(大阪)は、2013年9月に家庭紙卸売のアスト(大阪)を買収することで製造から販売までワンストップの商流・物流一体型のビジネスモデルを構築する。

また、DHL(ドイツ)がコニカミノルタ物流(東京)から全国十数カ所の物流施設・車両を譲り受けたり、富士通グループの物流を請け負うなど、外資系企業による国内メーカーの企業物流事業取り込みも始まっている。

このように荷主企業の物流子会社を傘下に収め、3PL化やチャネル拡大を目指すM&Aが今後も活発化すると予想される。

一方、宅配便市場では、楽天(東京)による物流網構築に向けたM&Aが活発化。2010年に楽天物流(東京)を設立し、2012年8月から総合フルフィルメントサービス「楽天スーパーロジスティクス」を開始。千葉県市川市に楽天フルフィルメントセンター(RFC)を稼動させ、近年中に5都市8拠点に物流拠点を整備する方針を表明している。さらに、東京・名古屋・大阪の三大都市圏で30を超える配送拠点を保有し、主要都市間での翌日配送サービスを手掛けるエコ配(東京)と資本・業務提携を行った。さらに、楽天は米国の中堅物流会社ウェブジスティクス(ネバタ州)買収も進めており、いずれ全世界に物流網を構築し、アマゾンやイーベイに対抗する戦略を掲げている。

海外の動きとしては、日立物流が、米国のフォワーディング会社ジェームズJ・ボイル(カリフォルニア州)、香港の物流会社のCDS FREIGHT HOLDING LTD.、トルコの物流会社のマーズロジスティクスグループを買収。日本通運も、欧州日本通運を通じて、高級ファッションブランドなど衣料品関連の物流会社フランコ・ヴァーゴ(イタリア)を買収。SGホールディングスは、シンガポールの倉庫・陸送運輸会社アメロイド・ロジスティクスを買収、各社、海外の事業拡大を積極的に進めている。

EV/EBITDA倍率は平均8.12倍となっており、全体的には4~12倍の幅が広く約83%を占めている。

収益の拡大は、トラックや倉庫、不動産などへの設備投資と比例する傾向があるため、業種構造的に負債が拡大しやすい傾向がみられる。

また、設備投資にリースを活用するケースが多く、特に非上場企業の場合、リース債務を決算上の負債に計上していないことが多いため、買収価額の算定時には、売却価額の推測に注意が必要だ。

なお、運送業(特に倉庫業)では、不動産を保有する企業が多いため、不動産価値が企業価値に影響を与えることが少なくない。このため収益性指標による評価だけではなく、不動産価値にも目を向けたうえで、企業価値を判断しなくてはならない。

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