M&Aの業界動向 ソフトウェア業界

2017年 業界動向

業界定義
ソフトウェア業とは、日本標準産業分類では情報サービス業に属し、情報処理振興事業協会(IPA)の分類では情報処理産業に属する。具体的には、受託開発ソフトウェア業、組込みソフトウェア業、パッケージソフトウェア業又はゲームソフトウェア業などを指す。
(特定サービス産業実態調査)
業界シェア
ソフトウェア業界は、SI系(NEC、富士通、日立、NTTデータなど)、独立系(ITホールディングス、CSK、富士ソフトなど)、コンサル系(野村総研など)の大手が存在し、それらに中小の下請企業がぶらさがる多重下請構造となっている。パッケージソフト分野では、マイクロソフト、オラクル、SAP等グローバル企業が大きな地位を占める。
市場規模
2.7兆円

(IDCジャパン調べ、2017年6月)

成長率
2.2%増

(IDCジャパン調べ、2017年6月)

関連法規
個人情報保護法、不正アクセス行為の禁止等に関する法律、電気通信事業法

ソフトウェア業界には、マイクロソフトやオラクルのようなパッケージソフト開発企業、アクセンチュアや野村総研のようなコンサル系など、多様な事業形態があるが、今回はSI業界の動向について詳述する。

受託開発中心の事業を展開するSI業界は、複数の下請けからなるピラミッド構造となっており、その頂点に位置するのがNECや富士通、NTTデータなどのシステムインテグレータで、最下層に位置するのがプロジェクト単位で業務を請け負い、エンジニアを供給するシステムエンジニアリングサービス(以下、SES)と呼ばれる事業者である。

SESは、IT業界でもっとも事業所数の多い業態だが、その実態は社内での開発はほとんどなく、社員の大半を客先に出向・常駐させている人材派遣的業務で成り立っている。SESの中でも、独自技術を持つ企業は高い市場価値を見込めるが、社員エンジニアをすべて出向させている企業は、技術の蓄積がないので、技術者の頭数分の市場価値しかないと評価されてしまうことが多い。

独自技術を持つ企業の中で、引く手あまたとなのが、AI、Fintech、Big Data、Data Analytics、IoT関連の技術を持つ企業だ。特に、IoT分野は、ソフトウェアだけではなくハードウェアの知識も必要なので担い手が少なく、同分野の技術を持つ企業の市場価値は非常に高い。

M&Aの視点で注目したいのは、事業会社がIT企業を買収するケースだ。特に、全国展開する大規模流通小売企業が、IT企業に仕掛けるM&Aは、今後のトレンドになる可能性が高い。その背景にあるのは、既存のシステムインテグレータに対する不満だ。この規模の企業は、商品の仕入れ・在庫管理・販売管理のために専用システムを開発しており、その開発費用は数億円~数十億円規模に上る。発注企業にとっては巨額の投資だが、システムインテグレータにとってはエースを投入するほどのプロジェクトではないため、そこそこの布陣で開発に望むことが多く、結果的に操作性や機能、パフォーマンス、運用性などもそこそこで納品されることが多い。その上、数年ごとに更新が必要で、その都度、数億円規模の投資が必要となることから、事業会社の不満が募っている。

その解決策の一つとして、コンサル系のIT会社へ現状分析と基本設計を委託したり、開発会社のプロジェクト工程監視を専門に請け負う会社などもあるが、結果として予算が膨れ上がる結果となる。そこで新たな選択肢となるのが、技術力の高い中小規模のIT企業をグループ内に取り込むM&Aだ。グループ内に取り込めば、日常業務のシステム運用まで任せられるので、開発・運用コストを低く抑えられる。一方、傘下に入るIT企業側も、大手資本が入り経営が安定することに加え、大手企業の生データを扱う経験を積むことができ、これを生かした独自システムを外販するチャンスを手に入る。さらに、ブランド力のあるグループに入れば、人材採用でもプラスの効果が大きい。インハウス型の開発会社は昔から存在するが、当初からグループ内にいるのと違い、既にビジネス展開ができている技術・経営基盤のある会社とのM&Aはシナジー効果が大きい。

IT業界では、近年クラウドの普及が進み、パッケージソフト開発のような仕事が激減。技術力のある中小IT企業は将来の見通しが立たなくなっている。そのような企業が、大手事業会社の傘下に入るM&Aが今後増加することが予想される。

■国内ソフトウェア市場予測 2016~2021年

国内ソフトウェア市場予測 2016~2021年

出典:IDCジャパン「国内ソフトウェア市場予測」

近年、クラウドサービス世界大手のセールスフォース・ドットコムによる国内企業への資本参加が急増している。2016年には、1月にクラウド名刺管理サービスのSansan(東京)の出資比率を高め、2月にWebサービス開発のグッドパッチ(同)、3月には人材領域のネットサービスを展開するビズリーチ(同)、6月にWeb電話帳開発のフォンアプリ(同)、12月にはクラウド型企業内ポータルを提供するユニファイド・サービス(同)とクラウド会計ベンチャーのフリー(同)、2017年5月にはクラウド型マニュアル作成・共有プラットフォームえお展開するスタディスト(同)、6月にはSalesforce関連システム開発のキットアライブ(北海道)に資本参加している。

注目のIoT分野では、2016年の2月にインフォメーションディベロップメント(東京)がIoT事業を展開するリアルグローブ(同)に資本参加、3月にはウフル(同)がIoTプラットフォーム「Milkcocoa」を運営するTechnical Rockstars(福岡)から事業を譲り受けた。IoT通信プラットフォーム「SORACOM」を展開するソラコム(東京)は、2016年の7月に通信サービスベンチャーのM2B通信企画(同)とスタートアップ企業支援のABBALab(同)に出資、TIS(東京)は、IoT/O2Oプラットフォームソリューション提供のTangerine(同)に資本参加、電通国際情報サービス(同)はIoTゲートウェイサービスベンチャーのXSHELL(同)に資本参加、NTTデータ(同)は自動車やスマートフォンなどのIoT領域の事業拡大を目指しシャープビジネスコンピュータソフトウェア(大阪)を2016年11月に買収した。

Fintech領域では、2016年の2月にミロク情報サービス(東京)が中小企業向け融資仲介のFintechベンチャーであるスクワイル(イギリス)に資本参加、日本経済新聞社(東京)の子会社で金融情報サービスのQUICK(同)が同業のエクシグナイト(アメリカ)にし資本参加したほか、仮想通貨ウォレットアプリ「breadwallet」を提供するブレッドウォレット(アメリカ)には、2016年の5月にオウケイウェイブ(東京)、6月に国内最大手の仮想通貨取引所bitFlyer(同)、7月に現金や電子マネーに交換可能なポイントサービスを手掛けるセレス(東京)が資本参加している。11月にはスマートバリューがブロック儀jy通開発ベンチャーのシビラ(大阪)に資本参加した。2017年6月にはデータセクション(同)がFintechベンチャーのトランザックス(同)に資本参加している。M&A案件を俯瞰してみるとFintech分野は、国内より欧米のベンチャーに勢いがあることがわかる。

AI/ロボティクス/自動運転分野では、2016年の11月にNTTデータ(東京)がAIに高い技術を持つSELTECH(同)に資本参加、ショーケース・ティービー(同)がAI技術を活用したソリューションを提供するコグニロボ(千葉)に資本参加、TISは2016年12月にAIビジネスベンチャーのエルブズ(東京)、12月に個性を学習するパートナーロボット開発のユニロボット(同)、2017年2月に明治大学発ベンチャーで自立型移動ロボット開発のSEQSENSE(神奈川)に資本参加している。ヤフーは2017年の3月に自動運転技術を活用したスマートモビリティサービスのSBドライブ(東京)に資本参加、エボラブルアジア(同)は5月に小型ロボット開発ベンチャーのドーナツ・ロボティクス(福岡)に資本参加、6月には電通国際情報サービス・日清紡ホールディングス(東京)・ライドオンエクスプレス(同)の子会社エースタート(同)などは、自動運転システム開発ベンチャーのZMP(同)に資本参加している。

このように先進的な技術を有している企業には、M&Aによって資本がどんどん流入し開発がさらに加速する好循環が生まれている。今後数年間は、こうした傾向が続くことが予想される。

ソフトウェア開発業界は、労働集約的なビジネスであるため財務構造として固定費の占める割合が高い。業務用パッケージソフトはシェアの大半を外国製が占めており、国内企業はドメスティックかつニッチな市場で厳しい競争を続けている。今は、パッケージソフトよりもクラウドでのサービス提供に重きが置かれており、クラウド技術を持っていない企業は、市場価値が低い。逆に市場価値が高いのは、Fintech、Big Data、AI、IoT、Data Analytics、AR/VRなどの先進技術を有している企業だ。ソフトウェア業界の企業価値を判断する場合、簿価上の資産だけで評価するのではなく、数字に表れないSEやプログラマーのスキルレベルなど人材面にも目を向ける必要がある。

EV/EBITDA倍率の平均は11.6倍であるが、最頻値は12~14倍だが数値は分散しており、主だった特徴は見出しにくい。

EV/EBITDA(ソフトウェア開発業;n=240)

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