2012年業界ニュース

2012/04
物流企業の値段 第75回 センコー
M&Aで事業領域を拡大し一段の成長へ
利益面ではコスト効率に課題が残る
事業構造を転換し3PLで躍進

 センコーは住宅、石化樹脂、流通ロジスティクス(以下、流通ロジ)分野での貨物取り扱いを得意とし、自動車運送を中心に鉄道利用運送、海上運送、国際物流等、幅広い物流サービスを提供している。従来の総合物流の枠組みを超える高品質なサービスを提供する「流通情報企業」への転換を標榜しており、流通ロジ分野を中心とした物流センター運営/3PLニーズへの対応を進めてきた。

 1990年代前半までは旭化成グループ、積水化学グループ、積水ハウス、チッソグループといった大型荷主の工場から施工現場への合成樹脂、住宅建材等の輸送を中心に業務を展開していた。これら大型荷主四社向けの売上高が全売上高のおよそ五割を占める程、深い関係にあった。

 ところが90年代後半に入り、長引く国内経済低迷に伴う新設住宅着工戸数の減少を背景に、取扱貨物量が低迷。これを受け、既存の主力事業依存からの脱却を目指して経営改革に取り組んできた。とはいえ現在も住宅建材、合成樹脂輸送の売上構成比は三割程度あり、センコーの運送事業の根幹として存在感を示している。

 新たな収益基盤として注力してきたのが流通ロジ事業である。90年代後半、日系小売業は外資系小売業の日本進出に対抗するべく物流費用の削減を急務としていた。ホームセンター向けの物流オペレーションを担っていたセンコーは、そこから日系小売店のニーズを取り込む形で流通ロジ分野を対象とした「PDセンター」と呼ぶ物流センター運営業務の拡大を進めた。

 サービスの差別化を図るべく、「ベストパートナーシステム」という独自の物流システムの提供も開始した。これはサプライチェーン上で発生するロジスティクス業務を一貫して請け負うために、本来は荷主の業務である調達・受発注等のオペレーションにまで踏み込んだものであった。

 所謂3PLビジネスの拡大を牽引役に、流通ロジの売上構成は急拡大。イオングループに代表されるGMS、ドン・キホーテ等の量販店、ドラッグストアにまで業務領域を拡大し、流通分野の3PLで着実に実績を積み上げている。

 ここ数年の変化としては、M&A等を通じた新たな事業領域の拡大が挙げられる。2007年度以降で見ると、建設用資材輸送、ファッション物流、引っ越し、生協向け家庭用品卸売、百貨店向け物流、商事・貿易、特殊貨物輸送といった機能を取り込んできた。得意とする流通市場の成熟化に対し、事業領域の拡大を通じたサービスの拡充、貨物波動の吸収によって、成長を図っている点は評価出来るだろう。

 物流子会社の再編や物流部門の完全外部委託といったアウトソーシングに対するニーズが顕在化する中で、柔軟かつ品質の担保されたサービスの領域を広げる事は、他社との差別化になると考えている。震災からの復興需要も高まっていることから、今後の売上拡大に期待している。

 その一方で、物流事業の収益性には課題が残る。荷主企業からの料金改定要請や既存取扱貨物量の縮小といった要素のほかに、大型拠点整備の積極化等によるコスト負担の増加があると考えている。

 センコーは10年から昨年にかけて福井県二日市、石川県白山市、埼玉県戸田市に大型物流センターを設置する等、近年、拠点集約を適宜行っていると理解しているが、センターの共同化(複合センター化)や既存センターの空きスペースへの案件組み入れ等、保有資産の有効活用といった点でもう一段の効率性改善施策が必要なのではなかろうか。

 加えて、M&A等に伴い、管理コスト面での負担も大きくなっているとみられる。管理機能の一元化、重複業務の見直しといったコストの絞り込みも早急に求められる対応の一つであろう。

過去10年間の株価推移

過去10年間の株価推移

カザフスタンに物流センター

 2012年度を最終年度とする現中期経営計画では、「物流を超える、世界を動かす、ビジネスを変える」をキャッチフレーズに、国内外での新たな市場創出を標榜。売上高3,000億円(10年度実績2,410億円)、営業利益90億円(同61億円)、営業利益率3.0%(同2.5%)、といった数値目標を掲げている。中計期間の残り一年、厳しい環境下でも持続的成長を果たすため、引き続きM&Aを通じた新規領域の拡大、流通ロジや商事・貿易事業での売上拡大を牽引役に、攻めの姿勢を示すものと捉えている。

 目標数値の達成に向けては物流アウトソーシングニーズの更なる拡大が一つの契機となろうが、コスト面での積極的な対応による収益性・効率性の向上といった点での課題解消が必要となろう。

 「グローバル」での事業展開も、今後の重要なポイントと考えている。荷主企業の海外進出に伴い、生産・調達・販売といった局面ごとに、海外での物流機能の提供やコスト低減が求められる状況も多くなろう。

 近年取引を拡大させてきたアパレル関連では、荷主企業の生産拠点整備に合わせ、中国での物流センター事業を強化・拡大している。検品、出荷業務を一貫して手掛けて物流効率化を図ると共に、新たな取引先の開拓を通じ、更なる生産性向上を目指している状況にある。

 米国でも国際物流事業を拡大すべく拠点の増強を図っている。昨年7月にケンタッキー州の工業団地内に設置した物流センターでは、米小売大手のクローガーに対して工場内物流サービスを、日系ケミカル系企業に低温物流サービスを提供。現在請け負っている業務範囲は狭いものの、これを足がかりに日本で得意としているチェーンストア向け物流を米国においても展開していくこととなろう。

 その他、カザフスタン(以下、カザフ)での事業展開は、センコー特有の案件として引続き注目している。資源大国でもあるカザフの成長性、ユーラシア大陸における地理的重要性(いわゆるシルクロード上の中継拠点)等から、物流事業展開のための基盤づくりを進めてきた。

 鉄道輸送を主体とするカザフにおいて、08年3月に国有鉄道100%子会社のカズトランスサービス社と鉄道コンテナ一貫輸送における「優先積み替え業務」の提携を結んでおり、10年4月にはカザフと中国の国境沿いのホルゴスでのカザフ・中国の共同国家プロジェクトへの参画も決定している。

 センコーは今後、カザフ経済の中心地であるアルマトイ、西部のアクタウで物流センターの開発を進める方針としている。同国の経済成長次第ではあるが、日系物流業者として先行者メリットを享受しうる立場にあると考えている。

PROFILE

一柳 創

一柳 創(ひとつやなぎ・はじめ)

大和証券キャピタル・マーケッツ 金融証券研究所 企業調査第一部
1997年3月早稲田大学理工学部土木工学科卒。同年4月大和総研入社、企業調査部インフラチームに配属。99年から物流担当に。

転載元

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