2012年業界ニュース

2012/04
CASE STUDY アウトソーシング 日本ケンタッキー・フライド・チキン
PLを導入して“見える化”を推進
東西2分割管理を8エリアに細分化

2010年に3PLを導入した。そのうえで全国を東西に2分割していた従来の物流管理体制を改め、8エリア制に移行。1年余りかけてエリアごとに業務委託先を選び直した。今年4月の新SCMシステム稼働後には、受発注業務の一部も3PLにアウトソーシングする計画で、自らは戦略的なマネジメント業務に専念する体制を整える。

ニチレイ系3PLをパートナーに

 大手外食チェーンの日本ケンタッキー・フライド・チキン(以下、KFC)が物流体制を刷新した。2009年まで、同社は全国を東西に二分割(沖縄だけ別管理)して物流を管理していた。協力物流会社も、東西に元請けを一社ずつ置いていた。これを8エリア制(北海道・東北・関東・東海・関西・中四国・九州・沖縄)に移行。センター業務と店舗配送を任せる協力物流会社もエリアごとに選び直した。

 改革推進のパートナーとして、10年の春にニチレイロジグループ系のロジスティクス・プランナー(以下、ロジプラン)と3PL契約を交わし、各エリアでそれぞれ約三カ月かけて物流コンペを実施した。10年秋から新しい協力物流会社による業務を各エリアで順次スタートし、約一年後の昨年11月に全国すべてを新体制に移行した。

 その直後に、売り上げが年間のピークとなるクリスマス・シーズンを迎えた。これを乗り切ることが三年越しで進めてきた物流改革の成果を問う最初の試金石となった。

 総売上の約七割をチキン関連が占めるKFCにとってのクリスマス・シーズンは特別な時期だ。他の外食チェーンでは類のないレベルで物量が集中する。とりわけ12月24日分の注文は、約二カ月前に店舗で事前予約の受け付けをスタートすると、すぐに埋まってしまうほど人気が高い。

 もちろん、おおよその物量は前年までの実績から想定できる。だが現場で実際に経験してみなければ、その凄まじさはなかなか実感できないのだという。実際、過去には事前に物流に手を加えたことで倉庫が対応できずにパンクしたり、悪天候でトラックが遅延するなど混乱してしまった苦い経験もある。

 それだけに新体制が初のクリスマスに対応できるかどうかは、KFCの物流部門にとってまさしく正念場だった。万全を期するために、ロジプランと共に協力物流業者など関係者への周知を図った。

 「一部の地域は二回目だったが、それ以外のエリアを担当する企業にとっては初めての経験。過去のケーススタディに基づく準備や、物量急増のシミュレーションなどを繰り返した。すべての協力物流会社に、どう対応するつもりなのかを提案してもらい、われわれと温度差を感じたところには徹底的に準備を促した」とKFCでサプライチェーンマネジメントグループを管掌する小林吉明執行役員は振り返る。

 その甲斐あって昨年のクリスマス・シーズンを無事に乗り切ることができた。これによって、新たな物流体制を名実ともに軌道に乗せることに成功した。

サプライチェーンマネジメントグループ管掌の小林吉明執行役員

サプライチェーンマネジメントグループ管掌の小林吉明執行役員

燃料費高騰などを機に物流を再点検

 KFCが抜本的な物流改革に踏み切った背景には、従来の管理手法への反省があった。同社は全国にKFCチェーンを約1,150店、ピザ宅配の「ピザハット」チェーンを約360店展開している。関東・関西の大都市圏は直営店、それ以外の地域はフランチャイズ店が中心だ。これらの店舗に滞りなく商材を納品することが、KFCの物流部門にとって最大の使命となる。

東西2分割を基本としていた物流管理を全国8エリア制に移行

 前述した通り、09年まではそのための物流管理を基本的に東西二分割で手掛けていた。東西でそれぞれに元請けとなる協力物流会社と契約し、彼らを通してKFCの物流部門が全体を管理するという体制である。

 ただし、店舗に送りこむ商材の需給調整や、配送に伴う店舗との折衝、さらに物流業務に付随して発生するトラブルへの対応などはKFCの物流部門が直接あたっていた。このため、わずか十数人の物流部門は常に日常業務に追われている状況だった。

 これが中長期的な物流戦略の策定や、全体に目配りしたマネジメントの高度化などを難しいものにしていた。

 従来のやり方の限界を明確に自覚したのは08年のことだ。この年、空前の原油価格の高騰によって物流業界は大きな影響を受けた。運送会社の多くが荷主企業に運賃の引き上げを要請した。

 KFCも同様の立場に置かれた。決して簡単に受け入れられる話ではなかった。しかし、元請け物流会社の要請に代わる有効な解決策を見出すことはできなかった。KFCの物流部門は営業出身者が中心で、物流の専門的なノウハウの蓄積が十分ではなかった。

 その後、ようやく燃料費の高騰が一服したところに、今度はリーマンショックが発生した。経済全体に急ブレーキがかかり、KFCとしても全社を挙げてコスト削減に取り組むことを余儀なくされた。当然、物流部門もコストの見直しを至上命題とされたが、ここでも物流部門が主導権を握って元請け会社を動かしていくのは難しかった。

 こうした経験を経て、09年の春、同社は物流コンサルティング会社の支援を受けることを決めた。「やはり一度、プロの眼で見てもらうほうがいい」という判断だった。

 物流会社系でコンサルの実績のある複数の企業に声を掛け、提案を聞いた。結果として、ロジプランの指導を受けることにした。ただこの時点ではあくまでもコンサルティングの契約だけしか交わしてはいなかった。

 09年9月から約半年かけてロジプランに現状分析や問題点の抽出をしてもらい、10年初めに指針がまとまった。この段階で、8エリア体制への移行をはじめとする物流改革の骨子が固まった。管理単位を細分化することで、オペレーションの「見える化」を進めようというアプローチだった。

 これを実際にどう落とし込んでいくか検討する局面になって、プロジェクト単位のコンサルティングではなく、物流管理の運営パートナーとして3PLを本格的に導入することを決断した。

 「物流管理の専門知識を持つところとタッグを組み、われわれもノウハウを吸収していきたいと考えた」と、サプライチェーンマネジメントグループで物流業務ユニットを率いる新井克巳ゼネラルマネージャーはこのときの狙いを説明する。

 あらためて3PLパートナーを選ぶコンペを開催した。低温物流に強い大手物流会社を中心に十数社に声を掛け、うち8社が入札に応じた。これを提案内容やコスト競争力で二社まで絞り込み、最終プレゼンはKFC側も物流会社側も経営トップが出席するなかで実施した。最終的には、コンサルティングの委託先と同じロジプランを3PLとして再び迎え入れることを決めた。

 ここから、実務レベルの物流改革が本格的に始まった。すぐに全国8エリアそれぞれで業務を任せる協力物流会社を選ぶコンペの準備に入った。KFCとロジプランが一緒になって提案依頼書などを作成し、まずは北海道から着手。その後、二年契約で各エリアの実務を委ねる協力会社を選定する作業をエリアごとに重ねていった。

 10年の11月までに北海道と東海を新体制に移行し、12月の繁忙期には、いったん選定作業を中断。11年に入って作業を再開し、残りの地区の選定作業を進めた。途中、東日本大震災の影響で一カ月ほどの中断を余儀なくされた時期があったが、11年11月までには何とか全8エリアのコンペを完了することができた。

 8エリア制に移行したことによる最大の成果は、よりきめ細かな管理を実現できたことだ。店舗への納品時間の厳密化に象徴的にあらわれている。エリアごとに地場に強い物流会社を迎え入れたことで、原則として予定時間の前後30分以内に納品を実施できるようになり、店舗に提供する物流サービスのレベルを高めることにつながっている。

 また、従来の東西二分割による広域管理体制のなかでは、遅延や誤納などのトラブルが発生した場合の原因究明も簡単ではなかった。この点も新体制に移行したことで、「ずっと迅速に対応できるようになった。店舗へのサービスという意味でのレスポンスは格段に向上している」と物流業務ユニットの佐々木敏彦ゼネラルマネージャー代行は言う。

物流業務ユニットの新井克巳ゼネラルマネージャー

物流業務ユニットの新井克巳ゼネラルマネージャー

組織を新設し購買と物流を統合

 各地で業務を委託する協力物流会社の選定を進めていた最中の11年4月に、KFCは物流部門の組織を変更している。従来はマーケティンググループに所属していた「KFC購買ユニット」と、商品グループに所属していた「商品物流ユニット」(現物流業務ユニット)を統合し、サプライチェーンマネジメントグループを新設したのである。

 購買から店舗物流までを一気通貫で管理し、店舗に提供するサービスレベルなどをより高めていこうという狙いが大きい。現状では別々に管理している調達物流と店舗物流を、将来的に有機的に連携させていくことも視野に入っている。

 購買と物流管理の意思決定を同じ役員の傘下に置いた効果は明らかだった。「従来は購買と物流で決裁者が違っていたため、共通する課題でも意思決定に時間がかかった。これが今はすごく早くなった」と新井ゼネラルマネージャーは実感している。

 この組織変更から一年後の今年4月には、さらに組織を細分化することになる。SCMグループのなかの「KFC購買ユニット」を「チキン購買ユニット」と「一般購買ユニット」に分割し、チキンの購買部門だけを独立させることを決めた。

 同社が扱うチキンの管理は高度に垂直統合されている。なかでもKFCチェーン店の看板商品である「オリジナルチキン」に使う「ハーブ鶏」は、飼育からカットまでをすべて国内の契約施設で完結させている。

 全国約280カ所のKFC登録飼育農場で四種類のハーブを飼料に混ぜて約40日間育て、これを全国10カ所のKFCカットチキン生産認定工場で処理。そこから全国9カ所の配送センターを経由するか、もしくは工場から直送で店舗に納品している。チキン以外の商材とは管理領域が大きく違う。

 しかも鶏肉は、餌の相場や、鳥インフルエンザの発生などの環境要因で調達価格が大きく変動する。その購買には高度の専門性を問われることになる。そうした商材の特殊性と同社にとっての重要性を考慮したうえで、チキンの購買だけを独立したユニットで手掛けることにした。

物流業務ユニットの佐々木敏彦ゼネラルマネージャー代行

物流業務ユニットの佐々木敏彦ゼネラルマネージャー代行

今年4月に新システムが稼働

 今年4月からKFCの物流改革は新しいステージに入る。物流体制の刷新と並行して開発を進めていた新たな受発注システム「ZEUS」が4月に本稼働する。これによって、従来は複数のシステムをつぎはぎで使っていた業務を、統合された仕組みに基づいて運用することが可能になる。

新受発注システム「ZEUS」の稼働で物流改革は新しい段階に入る

 SCMグループが要件定義をして構築したこの新システムは、店舗との受発注管理からKFC全体の需給管理、産地とやりとりする生産計画の管理、協力物流会社への作業指示、さらには支払い請求業務までを一貫して処理することができる。まさにサプライチェーン管理のための仕組みである。

 店舗で棚卸し実績などのデータを通常通り入力しさえすれば、マーケティング部門の販売予測などに基づく需給の予測データを算出できる。在庫管理の精緻化によって、欠品による販売機会ロスを低減するうえでも効果が見込める。物流を高度化していくうえで必須のKPIも一元的に管理できるようになり、業務の「見える化」も進むはずだ。

 すでに関係者は新システムを使いこなすための研修などに取り組んできた。4月以降、まずは新システムの運用を軌道に乗せ、そのうえで次は、3PLパートナーのロジプランに受発注業務の一部をアウトソーシングすることを計画している。新システムの稼働で業務プロセスを簡素化できることが、こうした判断につながっている。

 ただし、業務を3PLに丸投げするつもりはない。「そこはわれわれとしても一番懸念しているところ。すべてを任せてブラックボックスにしてしまってはいけない。今後は彼らから専門知識を吸収していき、当社の物流部門のなかに人材を育てていく必要がある」と新井ゼネラルマネージャーは強調する。

 分業体制の進展と新システムの稼働によって、いまやKFCの物流部門は全体の管理を俯瞰することが可能になった。今後は調査や分析などに時間を割き、さまざまな課題に先手を打って対応していく方針だ。

 「以前のわれわれは業務の細部を把握しきれていない面があった。これが物流管理会社として3PLパートナーを使うようになって変わった。新システムが稼働する今後はさらに業務を『見える化』して、事業環境の変化に素早く対応していきたい」と小林執行役員は意気込んでいる。

(フリージャーナリスト・岡山宏之)

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