M&Aの業界動向 ホテル・旅館業

2017年 業界動向

業界定義
宿泊料を受けて人を宿泊させる施設
(旅館業法より)
業界シェア
売上高では、業界トップはプリンスホテルの1,741億円、2位は東急ホテルズで838億円、3位はホテルオークラの763億円となっている。(2016年度)
市場規模
1.7兆円

(経済産業省「訪日外国人の消費促進のための観光関連サービス産業等の在り方に関する調査研究」)

成長率
5%増

(経済産業省「訪日外国人の消費促進のための観光関連サービス産業等の在り方に関する調査研究」)

関連法規
旅館業法、国際観光ホテル整備法

ホテル・旅館業界は、活況に沸いている。2016年には、訪日外国人観光客が過去最高の2,400万人を越えており、4年連続で過去最高を更新。さらに、2020年の東京オリンピック・パラリンピック効果もあり、今後さらなる増加が見込まれており、政府は2020年までに訪日外国人観光客数を4,000万人、2030年には6,000万人に拡大する目標を掲げている。客室稼働率は、シティホテル78.7%、ビジネスホテル74.4%、リゾートホテル56.9%と高い稼働水準にあるが、旅館だけは37.1%と伸び悩んでいる。

好況を受けて市場には国内外からマネーが流入しており、水面下では既存ホテルの売買も活発化、取引数は100件を超えている。ホテル特化型の不動産投資信託(REIT)の設立も相次ぐ。

現在、ホテル業界が注力しているのは、インバウンド獲得に向けた取り組みだ。2020年に向けて新規出店や大型改修、M&Aが活発に行われている。東京都心では「コートヤード・バイ・マリオット 東京ステーション」、「アンダーズ東京」、「アマン東京」など外資系高級ホテルが続々出店、国内ホテルも「星のや東京」、「ザ・プリンスギャラリー紀尾井町」が開業、「ホテルオークラ」は1,000億円を投じて本館を建て替えるなど、ブランドホテル間の競争が激化している。

ビジネス客を主体とする宿泊特化型ホテルもシングルを改装してツインルームを増やすなど、外国人観光客対応を進めている。このカテゴリーでは、東横INN、ルートインジャパン、アパホテル、スーパーホテルなどの大手チェーンが、地方のホテルなどを買収し全国へ出店を拡大する競争が続いている。

リゾートホテル・旅館は、客室平均単価1万円(1泊2食)程度の伊藤園ホテルや湯快リゾートなどと、客室単価数万円の星野リゾートなどの高級ラグジュアリーホテルに二極分化している。いずれも、経営破たんしたリゾートホテルや後継者不足に悩む旅館などを買収し、事業再生することが多い。

新しいタイプの都市型カプセルホテルが伸びている

業界で注目されているのは、新しいタイプの簡易宿所だ。簡易宿所とは、宿泊スペースを多人数で共用するカプセルホテルやゲストハウスなどを指す。カプセルホテルといえば、以前は終電に乗り遅れたサラリーマンやお金のない学生が利用するイメージだったが、近年はシティホテル並みに清潔で施設が整っていたり、女性専用の施設があったり、これまでとは異なるタイプが増えている。特に、飛行機のファーストクラスをコンセプトにしたファーストキャビンは、大都市圏の好立地を中心に出店し急成長している。出店件数は少ないがナインアワーズも、清潔な施設と納得感のある価格設定で人気を博す。空港や観光地に近い好立地であることに加え、カプセルホテルという日本独自の宿泊形態が訪日外国人観光客の人気となっており、今後も都市型カプセルホテルが増えることが予想される。

一方、個人経営の旅館は台所事情が厳しい。昨今、日本人すらあまり行かない地方にも訪日外国人が観光に訪れているが、その恩恵を受けているのは、インターネットを活用できる施設に限られる。現在、宿泊取引の7割はオンライン予約になっているが、サイト運営業者に支払う仲介手数料は決して安くないため、個人経営の旅館は、その費用が捻出できずネットを活用できていない。その結果、インバウンド需要の恩恵を受けられないでいる。経営者の高齢化も進んでおり、地方の旅館は事業継承の課題を抱えているところが少なくない。

年別延べ宿泊者数(2012年~2016年)

ホテル・旅館業界では、事業再生に長けた大手事業者による地方のホテル・旅館のM&Aが活発に行われている。

星野リゾート(長野)は、2015年5月に沖縄県読谷村でリゾート開発を手掛けていた沖縄うみの園(沖縄)の全株式を取得、大型リゾート施設に再生することを目指している。2015年10月には「ANAクラウンホテルズ」4施設を保有するホライズン・ホテルズ(富山)を買収し、リゾート地だけではなく都市観光需要に応える新カテゴリーへの進出を表明している。ほかにも2016年3月に旭川グランドホテル(北海道)を買収するなど、積極的にM&Aを仕掛けている。

ブリーズベイホテル(神奈川)は、2015年4月に網走観光ホテル(北海道)の事業譲渡を受け、同年10月にはナガクラ(茨城)を買収し、「ニューセントラルホテル」の再生に取り組んでいる。

「コンフォートホテル」「ベストインホテル」などのブランドでホテルチェーンを展開するグリーンズ(三重)は、2015年12月にロードサイド型ホテルの開発と運営に強みを持つベスト(新潟)と、三重県で「センターワンホテル半田」を展開する半田電化工業(三重)からホテル事業を譲り受け、チェーン展開をさらに加速する。

2015年3月に米ベインキャピタルに買収された大江戸温泉物語(東京)は、強大な資本力を背景に矢継ぎ早のM&Aを仕掛けている。2016年5月にはソラーレホテルズ&リゾーツ(東京)から「ロワジールホテル函館」の運営権を取得、同年8月には九州ホテルリゾート(福岡)から「長崎ホテル清風」と「別府ホテル清風」を譲り受けて九州に初上陸。同年10月にもホテル水葉亭(静岡)を買収し、伊豆エリア4館目の温泉宿の運営に乗り出した。

ほかにも、伊藤園ホテルズ(東京)による老舗旅館「湯田中温泉郷ホテル水明館」を運営する水明館(長野)の買収、湯快リゾート(京都)による蘭風(長崎)の買収、ホテルテトラ(北海道)による運営する海麓園(山形)とホテルオーシタ(青森)の買収など、各地で積極的なM&Aが行われている。

異業種参入と海外進出に向けたM&Aが増加傾向

異業種の参入が多いのもホテル・旅館業界の特徴だ。大手デベロッパーの森トラスト(東京)は、虎の門ヒルズに「アンダーズ東京」を出店、京都ではスターウッドの最高級ブランド「ラグジュアリーコレクション」を誘致、箱根中強羅、銀座二丁目、札幌大通公園にもインターナショナルブランドのラグジュアリーホテルを開業する計画を発表。2017年1月には、「シェラトン沖縄サンマリーナリゾート」を展開するサンマリーナ・オペレーションズ(沖縄)も買収している。

フジサンケイホールディングス傘下のサンケイビル(東京)は、2015年3月に札幌で「札幌グランドホテル」や「札幌パークホテル」、「鴨川シーワールド」などを展開するグランビスタ ホテル&リゾート(東京)を買収し、ホテル事業に参入。

ブライダル業界大手のベストブライダル(東京)は、「ホテルインターコンチネンタル東京ベイ」を運営するホスピタリティネットワーク(東京)と、セントラルホテルズ(東京)から「ストリングスホテル東京インターコンチネンタル」を譲り受けてホテル事業に参入した。

インバウンド需要が拡大する中、訪日外国人観光客の指名を狙って海外でホテル事業を展開する事業者も増えている。2016年7月には、アパホテル(東京)がカナダの現地子会社を通じてコーストホテルズLTDを傘下に持つオカベ・ノースアメリカINC(アメリカ)を買収。これによりアパホテルの北米エリアネットワークは40ホテルに拡大することになる。ほかに、レンブラントホールディングス(神奈川)が、リゾートホテル「メーパールシーサンホテル」を運営する日越カインホア(ベトナム)を買収してベトナムに進出するなど、海外進出の足掛かりとしてM&Aを活用する企業が多い。

EBITDA倍率の平均は約20倍となっているが、これは設備投資やランニングコストで多額の資金が必要であることと、周辺事業も営んでいる会社が多く、その投資に多額の資金が必要なため、借入金が多いことが要因だと考えられる。なお、EBITDA倍率の分布としては、10倍未満の会社が1社、10倍以上20倍未満の会社が5社、20倍以上の会社が5社となっている。

営業利益が黒字の会社ほど、投資キャッシュフローが膨大なマイナスとなっていることが多く、利益の計上に大規模な設備投資が必要であることがわかる。一方、営業利益が大幅に赤字で投資キャッシュフローがプラスになっている会社は、固定資産の売却による収入が要因だと考えていいだろう。M&Aを検討する際には、買収後も設備投資によるキャッシュアウトが毎期必要であることを考慮した事業計画を立てないと、資金がショートする可能性があるので注意が必要である。

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