M&Aの業界動向 飲食業

2017年 業界動向(飲食店・飲食チェーン)

業界定義
食事をする空間とともに食事を提供する形態の業種を指す。食堂、レストラン、ファーストフードや喫茶店(カフェ)など一般に「飲食店」と称する業種
業界シェア
業界トップは、ゼンショーホールディングスで売上高は5,440億円、第2位はすかいらーくで3,545億円、第3位は日本マクドナルドホールディングスで2,266億円となっている。
市場規模
25.4兆円

(日本フードサービス協会「2016年外食産業市場規模推計」より)

成長率
0.1%増

(日本フードサービス協会「2016年外食産業市場規模推計」より)

外食産業の市場規模は、大手飲食チェーンが堅調だったことと、訪日外国人の増加、法人交際費の増加などの影響で前年比0.1%増加し、25兆4,169億円だった。ファミリーレストランは、ファミリー層の減少や節約志向の高まりを受けて成長が鈍化しているが、専門レストラン業態は堅調で、特にファーストフードはハンバーガー系、牛丼系ともに2016年度は全期でプラスとなった。一方、居酒屋やパブ・レストランなど料飲系は全期で前年を下回る厳しい状況が続いている。

単価を上げて売り上げを増やす

外食は「単価×席×回転率」の商売なので、事業を成長させるには、3項目のいずれかを強化、あるいは全体を上げる戦略が必要だ。

単価を上げるには、グランドメニュー全体を刷新する手法、新メニュー・季節限定メニューを高価格帯で提供する手法、さらに別ブランドで店舗を展開する手法などがある。

グランドメニュー刷新の例としては、2017年10月1日から28年ぶりに全品を値上げした鳥貴族の例がある。同業者が失速する中、唯一成長軌道を描いていた鳥貴族だが、原材料や人件費などのコスト増に耐え切れず値上げを図ったといわれている。もともとの価格が安かっただけに値上げしても他店よりコストパフォーマンスが高く、影響は軽微と思われるが今後の動向に注目したい。一方、季節限定メニューを高価格で提供して成功したのは、具材にこだわった「マックグラン」という新バーガーをヒットさせた日本マクドナルドや、健康を意識したメニューやボリューム感のある限定メニューを1,000円超で提供し客単価の上昇に成功したガストの例などがある。別ブランドの展開では、モスバーガーが出店した高級路線の「モスクラシック」などが挙げられる。

店舗網を拡張して席数を増やす

席数を増やすには、フランチャイズやM&A、新規出店により店舗数を拡張する方法が有効だ。セントラルキッチンや調達先・物流網を確保できていれば、店舗が増えれば増えるほど効率化が進み、収益は拡大していく。既存店が成功しているエリアでも業態を変えれば、さらに集客可能になるため、他業態の店舗を買収する方法も効果的だ。近年、出店攻勢をかけているのは24時間営業の居酒屋「磯丸水産」を展開するSFPホールディングスや、名古屋流のモーニングサービスで人気の「コメダ珈琲店」などが挙げられる。また、多様な業態で出店数を増やしているのは、牛丼の「すき家」「なか卯」、回転ずしの「はま寿司」、ファミレスの「華屋与兵衛」「ココス」、イタリアンの「ジョリーパスタ」などを展開するゼンショーホールディングスや、居酒屋の「甘太郎」、焼肉の「牛角」、回転ずしの「かっぱ寿司」、ハンバーガーの「フレッシュネスバーガー」、ステーキの「宮」、カジュアルダイニング「ウルフギャング・パック・カフェ」などを展開するコロワイドグループが典型例だ。

回転率を上げるには、立ち食いや宅配導入が有効

もうひとつの指標である回転率を上げるには、集客力の高い駅前などに出店する方法と、立ち食いを取り入れる方法、出前サービスを導入する方法が考えられる。集客力の高い駅前への出店で成長したのがラーメン「日高屋」を展開するハイデイ日高だ。同社は、牛丼チェーンやマクドナルドの近くに出店するコバンザメ戦略で店舗数を伸ばしている。立ち食いで急成長したのは、ペッパーフードサービスの「いきなり!ステーキ」だ。「いきなり!ステーキ」は2016年度の事業売上高が対前年比166.9%と爆発的な伸びを見せている。しかし、原価率が55%と高く、成長には店舗網の拡大が不可欠であるため、出店攻勢を強めている。出前サービスの注目は、ウーバージャパンが展開する「UVER EATS」やライドオンエクスプレスが展開する「ファインダイン」など提携レストランの料理を配達する宅配アウトソーシングだ。このサービスを利用すれば、配達スタッフや配送車などのリソースを所有することなく、店舗の席数を超える売上げを上げられるため、今後導入するレストランが増えると思われる。

外食業界共通の課題は人手不足

外食業界が抱えている共通の課題は、人手不足だ。大手企業を中心に、短時間労働者への厚生年金・健康保険適用拡大、タッチパネル式注文機の導入など、さまざまな対策が進められ、ここ数年で労働環境は大幅に改善されたが、小規模なチェーンは労働環境の改善が進まず、人材不足解消の目途は立っていない。

今後、人口減少の影響で外食市場の縮小が予想されており、業界では近い将来、新たな対策が必要になるだろう。たとえば、増え続ける高齢者人口を対象にしたシニア向けの店舗や、訪日外国人などをターゲットにする店舗、スポーツ愛好家をターゲットにする店舗、地方でしか食せない希少な食材を使った店舗など、個性と独創性のある店舗の開発がひとつの解決策になるかもしれない。

■外食産業売上高推移

外食産業売上高推移

出典:日本フードサービス協会

外食業界でM&A攻勢をかけているのがダイヤモンドダイニング(東京)だ。同社は「1,000店舗、売上1,000億円」を目標に、国内外で店舗拡大を進めている。2014年4月には、シンガポールでラーメンダイニング6店舗を展開するコマースF&B(シンガポール)を買収し東南アジアに進出、同年9月には関連会社を通じて飲食店経営の萩原商事(東京)とサンクス(東京)から8店舗を譲り受け、同年12月には米国出資子会社を通じてハワイでウエディング事業を手掛けるKNGコーポレーション(アメリカ)を買収、2015年7月にはマカオで飲食店を展開するDiamond Dining Macau Limitedを買収、2016年には一家ダイニングプロジェクト(千葉)と資本提携しゼットン(愛知)を買収、2017年にも商業藝術(東京)を買収し、事業を拡大、その勢いは止まりそうにない。

アスラポート・ダイニング(東京)は、戦略的な視点で多様なM&Aを進めている。2014年10月には、食のバリューチェーンのグローバル化を目指し水産物加工・卸のT&Sエンタープライズ(イギリス)を買収、2015年3月には筑豊ラーメン店を展開するワイエスフード(福岡)、さらに同年4月には茨城乳業(茨城)を買収して生産事業へ進出、同年6月にはジャパン・フード&リカー・アライアンス(大阪)に資本参加し、PB商品の共同開発、海外事業のための輸出入などに関する協業を行う。2016年9月には、食料品輸入販売のShowa Boeki B.V.(オランダ)、Aki Horeca B.V.(オランダ)を買収、同年12月には小僧寿し(東京)に資本参加している。

トリドール(兵庫)は、独自性のある店舗の買収と海外進出を目指したM&Aが多い。2014年5月には、産官学連携プロジェクトでスポーツ栄養学に基づくメニューを提供するアスリート食堂(東京)に資本参加、2016年5月には食を軸に美と健康を提案するライフスタイルブランドSONOKO(東京)を買収し、独自性のある店舗を展開。海外では、2015年にカジュアルレストランを展開するノムノムエンタープライズ(アメリカ)、欧州でアジアンファストフードチェーンを展開するWalk to Walkフランチャイズ(オランダ)、2016年にはスープヌードル店を展開するウタラ・ファイブ・フード・アンド・ビバレ(マレーシア)、同年8月にはウガンダの日本発フードベンチャーこつこつ(ウガンダ)、同年12月にはロンドンにあるラーメン店の運営会社SHORYU HOLDINGS(イギリス)に資本参加、世界各地で事業を展開している。

事業多角化のために他業態を取り込むM&Aも件数が多い。牛肉チェーンを展開するあみやき亭(愛知)は、2014年に寿司店「すしまみれ」を展開するアクトグループ(東京)、2015年にしゃぶしゃぶ店を展開するマイフードサービス(愛知)を買収。ステーキチェーンのあさくま(愛知)は、2014年にイタリア料理店5店を展開するエイドアルファ(群馬)を買収、日本レストランビジネス(東京)からコーヒーチェーン「オランダ坂珈琲邸」、和食ビュッフェ「まいにちごはん」を譲り受けた。2015年にも子会社を通じて「浜焼市場きよっぱち」を展開するきよっぱち総本店(千葉)を、ダイビングツアー企画会社のマリンスポーツ・オフィス(静岡)からインドネシア料理店「スラバヤ」など5店を譲り受けている。吉野家ホールディングス(東京)も2014年に海外子会社を通じてマレーシアで回転寿司チェーンを運営するスシキン(マレーシア)を、2016年にはラーメン店のせたが屋(東京)と、肉あんかけチャーハン専門店「炒王」を手掛けるエフアールジェイ(東京)を買収し、事業の多角化を進めている。2014年にコロワイドが回転寿司チェーン大手のカッパ・クリエイトホールディングス(神奈川)を買収した事例や、同年のゼンショーホールディングス子会社による食品スーパー経営の尾張屋(千葉)を買収した事例も、事業多角化の典型的な案件といえるだろう。

近年増えているM&Aは、他との差別化、安定した原材料調達、食材の品質向上、仕入れコスト低減などを目的に、生産加工業者や卸商社などの隣接業種を買収するケースだ。「まいどおおきに食堂」を展開するフジオフードシステム(大阪)が、2015年に辛子明太子製造の博多ふくいち(福岡)に資本参加した案件や、イタリア料理店「ミアボッカ」を運営するイーストン(北海道)が、阿部養鶏場(北海道)の経営を譲り受けた案件、梅の花(福岡)が水産加工品製造の丸平商店(山口)を買収した案件などが、これにあたる。

件数は少ないが、業務効率化や労働環境改善のためにIT企業をM&Aする企業も見受けられる。ラーメン店運営の丸千代山岡家(北海道)が、システム開発のイー・カムトゥルー(北海道)に資本参加したのは、店舗で利用している券売機からデータを吸い上げて管理するSaaS型売上情報管理システムや、店舗勤怠管理サービスなどを外販することが目的だと考えられる。複数の外食店を運営・プロデュースするきちり(大阪)は、IT企業のBEC(東京)と資本業務提携した。これは両者の強みを活かし、入社手続きなどの労務をウェブで完結するサービスを開発するためと発表されている。

市場が低迷する中、外食業界では、さまざまな目的や戦略のもとで数多くのM&Aが行われている。M&Aの動向をウオッチしていくと、多くの企業が次なる成長市場として海外に目を向けていることが見えてくる。国内では、今後もさらなるM&Aが続き、業界再編劇が続くことが予想される。

外食業界は、スケールメリットが効きやすいため事業買収の効果が生まれやすい。M&&Aの際に注意しなければならないのは、深夜勤務やシフト、社会保険などに関わる従業員の雇用環境を確認することだ。労働環境が悪ければ、人材採用が難しいだけではなく、改善のためのコストもかかる。店舗オペレーションのマニュアル化状況もチェックしておくとよいだろう。食材の仕入れ先として、地元の生産者や市場からの直接仕入れなどを行っている場合、店舗の独自性を引き出すことにつながることが多いので、仕入れ先まで調査することをお勧めしたい。

なお、上場89社のEBITDA倍率の平均は13.4倍、構成比では10~16倍が45.5%と約半分を占めている。

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