M&Aの業界動向 学習塾業界

2017年 業界動向

業界定義
学習塾とは、学校教育の補習や入試対策のための教育を行う私塾。予備校とは、入学試験(特に大学受験)のための教育を行う機関。
(貸出審査辞典より)
業界シェア
上場企業における業界トップは、公文教育研究会で売上高は905億円、第2位は河合塾で508億円、第3位はZEホールディングスで468億円となっている。
市場規模
1兆円

(矢野経済研究所 「教育産業白書2017年版」より)

成長率
0.5%増

(矢野経済研究所「教育産業白書 2017年版」より)

関連法規
特定商取引に関する法律、不当景品類及び不当表示防止法、著作権法、個人情報の保護に関する法律

近年、学習塾・予備校業界では、集団指導型から個別指導型へのシフトが進んでいる。従来、個別指導は小規模な学習塾でなければ難しいと考えられていたが、生徒個々のレベルに合わせた学習ニーズが大きくなったことから、大手学習塾が個別指導に続々参入している。大手学習塾は、ブランド力を活かしたメディア戦略とともに、独自の個別指導用カリキュラムを作成し、中小規模の学習塾との違いを打ち出し、シェアを伸ばしている。

もうひとつのトレンドは、映像授業を提供する予備校の増加だ。これは講師の人手不足と、都心部の立地不足という2つの課題の解決策となっており、ナガセの「東進ハイスクール・東進衛星予備校」や、市進ホールディングスの「ウイングネット」など、大手予備校の新たな成長戦略の基軸となっている。昨今では、さなるの「@Will」や、すららネットの「すらら」など、小・中学生を対象とする衛星授業に取り組む事業者も出ており、今後さらに裾野が広がることが予想される。

学習塾の約6割は従業者4人以下の小規模な事業者が占めている(※)。これは、学習塾の開業には公的認可が不要で参入障壁が低いことが背景にある。自宅を教室として開業する個人塾や小規模な学習塾は、少人数個別指導をウリに業績を伸ばしてきたが、近年、大手学習塾が個別指導と衛星授業で、この市場に参入してきたため、今後、小規模な学習塾の淘汰が進むことが予想される。

また、2020年度から大学入試センター試験に代わり「大学入学共通テスト」が実施されることと、新学習指導要領が同時期に実施されることを受けて、新システムに合わせた学習メソッドを持たない個人塾や小規模学習塾は、事業の継続が難しくなる可能性が高い。

今後、生き残りを賭けた業界再編が進む中で、M&Aの対象は、学習指導や講師・生徒管理のノウハウを活かせる隣接業種に向かうことが考えられる。たとえば、小中学生向けの補習塾が幼児教育へ進出したり、受験予備校が社会人向けの英会話教室やシニア向けの生涯学習スクールを開講したり、教育というコアコンピテンスを生かしながら、事業を多角化するM&Aが増えていくだろう。

※出典:経済産業省「特定サービス産業実態調査(2015年度)」

■学習塾・予備校市場規模推移

学習塾・予備校市場規模推移

出典:「教育産業白書 2017年版」矢野経済研究所

学習塾・予備校業界では、同業者間で行われる拡大型と、英会話スクールなど教育ノウハウを活かせる事業者を取り込む隣接業種型、縮小する市場を見越して多角化を進める異業種型という3タイプのM&Aが見受けられる。

拡大型の典型は、通信教育のZ会を展開する増進会出版社(静岡)の子会社ZEホールディングス(同)を通じて栄光ホールディングス(東京)を買収したケースだ。両社は、2009年に業務資本提携を結び、Z会のノウハウを活かしたテキスト制作や、Z会教材と栄光の対面教育の組み合わせによる新サービス、相互送客などを進めてきたが、2015年11月に栄光ホールディングスがZEホールディングスの傘下に入り、上場廃止となった。

拡大型のM&Aでは、ほかにもベネッセホールディングス(岡山)が2014年3月に、オンライン学習のすららネット(東京)とモバイル教育プラットフォーム開発のクイッパー(イギリス)、同年9月に「スマホ家庭教師mana.bo」を展開するマナボ(東京)を買収したケースや、個別指導の明学館(愛知)が2015年3月にフランチャイジーの稲垣学舎(愛知)とエスワイテーセミナー(埼玉)の全株式を取得したケース、明光ネットワークスジャパン(東京)が2014年9月にフランチャイジーのMAXISホールディングス(東京)と2016年2月に大学入試問題査定・作成の古賀事務所(東京)を買収したケース、ナガセ(東京)が「早稲田塾」を管理・運営するサマデイ(東京)を買収したケースなどが挙げられる。

隣接業種型のM&Aも件数が多い。増進会出版社は、2015年9月に学校向けSNSを提供するエドモド(アメリカ)を買収、同社のプラットフォームを使って教材コンテンツの提供・販売を行うという。2016年2月には、オンライン英会話のレアジョブ(東京)も買収している。

明光ネットワークスジャパンは、2014年10月に日本語学校を運営する早稲田EDU(東京)、2016年2月にも「JCLI日本語学校」を運営する国際人材開発(同)を買収。城南進学研究社(神奈川)は、2015年11月に留学試験対策専門予備校のリンゴ・エル・エル・シー(東京)を買収。河合塾グループのKJホールディングス(同)は、英語学校を運営する日米英語学院(大阪)を買収。京進(京都)は2017年4月に、英会話教室運営のコペル・インターナショナル(東京)を買収し、日本語学校運営の日本語アカデミー(福岡)から全事業を譲り受けた。市進ホールディングス(千葉)は、2015年10月に学習塾と幼児教室を運営するアンドゥ(同)と、幼稚園・小学校低学年向けの英会話教室を運営するみらいえインターナショナル(同)を買収。代々木ゼミナールを展開する学校法人高宮学園(東京)は、大学生専用のOB・OG訪問専用サービス「VISIT OB」を運営するVISIT WORKS(同)に資本参加している。

異業種型のM&Aは、明学館(愛知)が不動産仲介業をフランチャイズ展開するワンズリアルコミュニケーションズ(大阪)を買収したケースや、城南進学研究社が2015年11月にスポーツクラブ・スイミングクラブを運営する久ヶ原スポーツクラブ(東京)や保育サービスのJBSナーサリー(同)を買収したケースなどが挙げられる。

学習塾・予備校業界では、生徒数を増やすための競争が激化しており、常に新しいサービス、差別化が模索され、業界で4大経費と呼ばれる、「施設費」、「教材・印刷費」、「人件費」、「広告宣伝費」の負担が重く、損益分岐点が高いため、稼働率が下がると赤字になりやすい。稼働率は、学校が長期休暇に入る夏季、冬季、春期は良いが、生徒が学校を終えてから通塾しなければならない平時の稼働率の維持が課題だ。

全国区の大手は、オンライン授業型の講師のいない小規模校を次々新設している。オンライン型の小規模校は、一時的に通信技術やデジタル教材に関わる投資を増大させるが、中長期的には不動産や講師への人件費を圧縮しつつ受験生を増やせるため収益拡大につながることが期待できる。

また、大手ではほぼ解消されたが、中小規模の学習塾・予備校では、アルバイト講師のサービス残業が問題視されており、買収後のトラブルを避けるために労働環境にも目を配っておく必要がある。

上場18社のEBITDA倍率の平均は7.8倍、構成比では6~8倍が22.2%を占めている。

EV/EBITDA(学習塾・予備校;n=18)

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