M&Aの業界動向 建設・土木業界

2017年 業界動向

業界定義
土木工事業、建築工事業、建築リフォーム工事業、大工工事業、電気工事業等
(総務省日本標準産業分類より)
業界シェア
ゼネコンの売上高1位は大林組の1兆8,727億円、第2位は鹿島建設で1兆8,218億円、第3位は清水建設で1兆5,674億円となっている。全国約50万社ある建設会社のうち、約99%は資本金額が3億円未満の中小零細企業が占めている。
市場規模
52兆円

(日本建設業連合会「建設業ハンドブック2017」)

成長率
3.2%増

(日本建設業連合会「建設業ハンドブック2017」)

関連法規
建設業法、建築基準法、都市計画法、景観法 など

2020年の東京オリンピック・パラリンピックをはじめ大型再開発が相次ぐ建設・土木業界は、ゼネコンを中心に活況を呈している。大手ゼネコン4社は、2017年3月期の連結決算で軒並み過去最高益を更新。受注工事で利益率改善が進んだことに加え、資材価格が一段落したことが、その要因と思われる。準大手以下のゼネコンもマンションや物流施設などの受注が多く、業績は好調となっている。

しかし、民間開発の大部分が都心に集中しており、地域との格差は開く一方だ。都道府県別の受注高をみると、公共工事で23都道府県、民間工事で22都道府県、土木工事で25都道府県が前年比マイナスとなっており、地方の疲弊ぶりがうかがえる。また、人材不足は業界全体の課題だが若者が少ない地方ではさらに深刻だ。人材不足の影響は労務単価の上昇を招き、これが資金不足や後継者不足と相まって、地方では事業継承に課題を抱える建設会社が少なくない。

住宅メーカーも厳しい状況が続いている。新設住宅着工数は、最盛期のバブル期には170万戸もあったが、2016年は96万戸と市場が半減している。直近2年は前年比増となったが、これは節税対策でアパートなど貸家を建てる動きが活発化したことと、日銀のマイナス金利政策による低金利の影響と考えられる。シンクタンクの調査によれば、人口減少の影響を受けて新設住宅着工数は、2030年に55万戸まで減少すると予想されており、事業の多角化を進めなければ生き残りは難しいだろう。

建設・土木業界では、2020年の東京オリンピック・パラリンピック後の減速が懸念されていたが、老朽インフラの更新や災害復旧工事、観光関連のインフラ整備、再開発に伴うオフィスビルの解体工事やリフォーム需要、賃貸住宅のリノベーションなどが活発なため、すぐに仕事が枯渇する心配はないと思われる。しかし、長期的には高齢化と人材不足を避けられないため、ドローンやIoT、AIなどのテクノロジーを活用して建機を自動化し、人手不足を補っていくことが大きなテーマになると考えられる。

建設業界の課題は、人手不足と労務単価の増大
建設業界の課題は、人手不足と労務単価の増大 グラフ
出典:総務省「労働力調査」、国土交通省「公共工事設計労務単価(基準額)」

建設・土木業界では、入札できる営業エリアが限られているため、同一地域または隣接地域でのM&Aが多くなる傾向がある。特に、売上高10~100億円規模の中堅ゼネコンが、事業継承に課題を抱える同業者を買収するケースが目立つ。

美樹工業(兵庫)は、人材不足の解消と商圏の拡大を目指し、2016年1月に下村建設(大阪)から建設部門を従業員ごと引き継ぎぐ形で買収した。山東工業社(滋賀)は、同エリアで舗装工事を中心に事業を展開する古澤建設(滋賀)を買収、今後発注増加が期待される社会インフラ整備事業の強化を目指す。札幌の岩田建設グループを傘下に持つICホールディングスは(北海道)は、マンションの防水工事や河川の護岸工事を得意としているが後継者不在だった板谷土建(北海道)を買収し、事業拡大に取り組んでいる。

住宅メーカーが生き残りを賭けて中堅ゼネコンを買収

新設戸建住宅が減少する中、再開発などで大型分譲物件が好調に伸びている状況を背景に、大手住宅メーカーが大型物件施工のノウハウを持つ中堅ゼネコンを買収するケースが増えている。典型例は、2012年に準大手ゼネコンのフジタ(東京)を、2015年2月に大和小田急建設(東京)を買収した大和ハウス工業(大阪)だ。他にも、積水ハウス(大阪)が2016年1月、中堅ゼネコン鴻池組(大阪)を傘下に持つ鳳ホールディングス(大阪)に資本参加、2016年5月の旭化成ホームズ(東京)による森組(大阪)の買収、2015年3月に新昭和(千葉)が幕張メッセのホールなどを手掛けた老舗ゼネコンの旭建設(千葉)を買収したケースなどが、これにあたる。

工事の幅を増やすために隣接業界を買収するM&Aも増えてきた。前田建設工業(東京)が2014年3月に風力発電事業の吹越台地風力開発(東京)を、大和ハウス工業が駐車場機器設備販売のトモ(東京)を、住友林業(東京)が再生可能エネルギー発電所開発のレノバ(東京)を買収したケースなどが、その代表例だ。

日本の市場縮小を見越して海外進出する企業が増加

海外進出の足掛かりとしてM&Aに取り組む企業も多い。鹿島(東京)はITベンチャーのドルテック(韓国)、準大手建設会社アイコン(オーストラリア)を買収、大林組も現地子会社を通じて建設会社クレマー(アメリカ)を買収、住友林業も現地子会社を通じて分譲住宅事業を展開するギーエンホームズ・グループ(アメリカ)、梱包材製造・木質製品流通を手掛けるパン・アジア・パッキング(タイ)、システムキッチン・家具メーカーのスペースウッド(インド)、三井物産と共同で建材製造会社の北京金属(中国)、住宅大手DRBエンタープライゼス(アメリカ)、住宅会社ウィズダムグループ(オーストラリア)などを次々に買収している。タマホーム(東京)もインドの現地子会社を通じてデベロッパーグループ・プライベート・リミテッド(シンガポール)を買収、大和ハウス工業も現地子会社を通じて住宅会社スタンレー・マーチン(アメリカ)を買収している。

新規事業開発に向けたM&Aを積極的に行っているのは、前田建設工業だ。2016年8月に、超高感度・高精度衛星測位システムに関する研究・開発ベンチャーのマゼランシステムズジャパン(兵庫)を、同時期に次世代型発蓄電システムベンチャーのCONNEX SYSTEMS(京都)に資本参加、同年9月にも金属材料メーカーのナプラ(東京)に出資。同社は「MAEDA SII(社会・地球環境課題解決ベンチャーへの投資)」という取り組みを通じて社会に新たな付加価値を創造して社会課題の解決を目指すとしており、これらのM&Aはその戦略に則ったものである。

EV/EBITDA倍率は平均6.59倍で、分布としては2~8倍台が多く、数値上はやや低めの分布となっている。EBITDA倍率が低めに分布している理由として、事業価値に比してEBITDAが過大な会社が多い可能性が考えられるため、企業価値算定に当たっては注意が必要である。

建設業は、製造業などと比べてキャッシュフローに基づく企業価値の評価が難しいといわれる。なぜなら、翌年度以降の受注が突然なくなることもあれば、施工中に発注者が破綻して工事費が不良在庫化するリスクを孕んでいるからだ。

建設業界でM&Aを進める場合、人材に対する価値評価にも注意を払いたい。とりわけ、中小建設業の場合、有能な人材の退職や転職により事業そのものが危うくなることも珍しくない。こうした人的リスクも考慮した上で、企業価値評価の妥当性を慎重に吟味する必要があるだろう。

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