M&Aの業界動向 介護事業

2017年 業界動向

業界定義
特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護付き有料老人ホーム(特定施設)、住宅型有料老人ホーム、小規模多機能型居宅介護、訪問介護、訪問看護ステーション、通所介護(デイサービス)、居宅介護支援、短期入所介護(ショートステイ)、福祉用具貸与、ケアハウス等
(総務省日本標準産業分類より)
業界シェア
業界最大手はニチイ学館。2017年3月期の売上高は2,767億円。SOMPOグループは有料老人ホームのメッセージを買収したSOMPOケアメッセージとSOMPOケアネクストを合計すると1,108億円で業界2位に浮上。第3位はベネッセスタイルケアで100,897億円。
市場規模
9.1兆円

(厚生労働省「2015年度介護保険事業状況報告」保険給付費、利用者負担を除く)

成長率
2.2%増

(厚生労働省「2015年度介護保険事業状況報告」保険給付費、利用者負担を除く)

要介護(要支援)認定者数は、2016年3月末時点で620万人を越え、介護費用は10兆円に迫ろうとしている。高齢化の進展で今後も利用者数の増加は必至であり、2025年の介護費用は20兆円を超えるとの予想もある。こうした市場拡大を見込み、大手企業や異業種からの参入が相次いでおり、業界地図が一夜にして一変する事態も起きている。

その象徴が、SOMPOホールディングスによる有料老人ホーム大手メッセージの買収だ。メッセージは、2015年夏に発覚した従業員による入居者への虐待事件により社会的信用が失墜。メッセージと資本・業務提携を結んでいた損保ジャパン日本興亜ホールディングス(現SOMPOホールディングス)が2016年初旬に、株式公開買い付けで子会社化し、一気に業界大手の一角を担う存在となった。

一方、業界最大手のニチイ学館は、2016年3月期に16年ぶりに連結経常赤字に転落。その原因は、買収した英会話学校の先行負担もあるが、人材不足により介護事業の業績が悪化したことと、2015年度の介護報酬改定がマイナスだった影響が大きいと見られる。同社は、次なる成長の糧としてグローバル化を推進しており、中国各地でサービスの提供をめざし、現地の産前産後ケアや家政サービスを提供する事業会社を相次いで買収、2020年3月期までに介護事業基盤を構築する意向を示している。

異業種からの参入組としては、2016年4月にグループ内の介護関連4社を統合したパナソニック、2016年4月に介護付き有料老人ホームを新たに開設したソニーの金融部門を担うソニーフィナンシャルホールディングス、ベネッセグループと提携し総合スーパー内にデイサービス施設を展開するイオングループなどが挙げられる。

介護事業所における介護従業員の過不足 グラフ
出典:(公財)介護労働安定センター「2015年度介護労働実態調査」

市場拡大が続く介護業界だが、今後の課題は介護職員の人材不足だ。低賃金や過酷な労働環境が指摘される介護業界は、景気が良くなり売り手市場になると一気に人材確保が困難となる。現在、全国の特別養護老人ホームには待機老人が50万人もいるといわれているが、施設はつくれても職員が不足しているために、この溝はなかなか埋まりそうにない。政府は「介護離職ゼロ」を打ち出し、離職した介護職員の再就職支援・介護福祉士を目指す学生への支援に261億円、中高年を対象とする介護職の入門研修などに約180億円、介護ロボットやICT導入による人的負荷軽減に約60億円の予算を確保しているが、人材確保が進むかは不透明といわざるを得ない。

特に、中小中堅クラスの介護事業者は、人材不足や過当競争による業績悪化が目立っており、今後、再編・統合が進む可能性が高い。一方、近隣の同業他社より給与水準を良くし、研修などのスキルアップ支援に積極的に行っている介護事業者は、安定して職員を確保できている。また、定期的な個別面談でメンタルケアや職場トラブルを未然に防ぐなどの労働環境改善による離職対策を取る事業者も増えてきた。有能な人材を安定して確保するには、給与をはじめとした処遇改善、労働環境の整備が急務といえる。

また、国は超高齢化社会における社会福祉費削減を旗印に、2018年に大胆な報酬改定を予定している。この改定は、2015年改定と同様に中小中堅の介護事業者の経営にマイナスの影響を与えると考えられるため、今後の動向には十分な注視が必要である。

介護業界における近年の最大のトピックスは、SOMPOホールディングス(東京)が業界3位の売上高を誇る有料老人ホーム大手メッセージ(岡山)を、2016年3月にTOBで連結子会社化したことだ。同社は、2015年12月にも外食大手ワタミ(東京)の子会社で業界7位のワタミの介護(東京)を買収し、SOMPOケアネクスト(東京)を設立。さらに、業界14位でリハビリに重点を置くシダー(福岡)に投資事業有限責任組合を通じて34%出資してグループ化。相次ぐM&Aにより、SOMPOホールディングスは、介護業界大手の一角に名を連ねる存在となった。SOMPOホールディングスは、介護事業を成長戦略の重要な柱と位置付け、今後も積極的にM&Aを仕掛けてくると予想される。

綜合警備保障[ALSOK](東京)も、2014年9月に訪問介護事業のあんていけあ(東京)、同10月に、訪問介護事業所74カ所と有料老人ホーム5カ所を運営するHCM(東京)を買収し、介護業界に進出。さらに、2015年1月にも首都圏で25カ所の訪問介護事業所でサービスを展開するアズビルあんしんケアサポート(東京)を買収し、業界10位まで規模を拡大した。

長谷工コーポレーションの孫会社で有料老人ホーム・高齢者向け住宅などを運営する生活科学運営(東京)は、東宝の孫会社で介護事業の東宝サポートライフ(東京)を2015年10月に買収して規模を拡大した。

アミューズメント施設を運営するアドアーズ(東京)は、2014年11月に日本介護福祉グループを買収し介護事業に参入したが、わずか9カ月後の2015年8月、日本介護福祉グループの創業者である藤田英明氏に5,000万円で全株式を売却、介護事業を撤退した。アドアーズによると、取得後に公正妥当な会計基準で決算を行ったところ、デューデリジェンスで想定した金額を超え、大幅な債務超過に至ったのだという。アドアーズは、契約時の表明保証に関する違反があったとして藤田氏を提訴した。異業種からの参入組が増える中、この一件は新規参入を目指す企業にとって貴重なケーススタディとなるかもしれない。

同業者間のM&Aでは、高級有料老人ホームを運営するアビタシオン(福岡)の動きが活発だ。同社は2014年8月に、総合保険代理店KRC(福岡)から福岡県内の中価格老人ホーム11施設を譲り受けている。さらに、入居者への食事の質を高めるため、福岡県内の料亭経営会社から料亭2店舗を譲り受けている。さらに2015年11月にも、介護付き有料老人ホームを経営する芙蓉商事(千葉)を買収、これによりアビタシオングループは千葉県下でナンバーワンの居室数(800室)を有する事業者となった。

ほかにも、ケア21(大阪)が障がい児童所支援・居宅介護支援事業の孫の手サービス(大阪)を、シノケンウェルネス(東京)がグループホーム施設運営のフレンド(大阪)と介護サービス付帯業務のベスト(大阪)を、ソラスト(東京)が介護サービス事業の住センター(神奈川)を買収するなど、同業者間のM&Aが頻繁に行われている。

居宅系介護施設の新規開設物件は、年々大型化が進んでおり、それに伴いM&Aニーズも40~50床以上の譲渡案件に人気が集中している。また、買収ニーズが首都圏や関西圏に集中する一方で、譲渡ニーズは地方の中小介護事業者が多く需給ギャップが生じている。地方の譲渡案件は、地元の医療法人や介護事業者による買収が大半で、規模は小さいものの件数は増加している。
2018年の大改定により、さらなる介護報酬の削減が予想されているため、各社生き残りを賭けたM&Aの動きを活発化してくると思われる。

主要上場企業の大半は売上高が前年を上回っているが、営業利益が横ばいあるいは下落する企業も見受けられる。これは2015年度の介護報酬改定がマイナスだった影響が考えられる。特に中小中堅クラスの介護事業者でその影響は大きく、経営の先行きは不透明な状況だ。2018年には診療報酬と介護報酬のダブル改定が行われる。国内全産業の収支差率4.0%と比較すれば、介護業界の収支差率は8%程度(H26年度調査)と依然として高い。2018年報酬改定では通所介護をはじめ、さらなる介護報酬の減額が予想されるため、企業価値評価も現在より厳しいトレンドになっていくであろう。

企業価値を見ると、EV/EBITDA倍率(n=17)は平均10.8倍。分布としては4~6倍台が多い。介護業界のM&Aは、財務面だけではなく、従業員の構成や人員配置、地代家賃、リース・消耗品などにも目を向ける必要がある。また、介護事業所数は、特養および通所介護を筆頭に右肩上がりで増加しており、地域によっては入居者獲得競争が激化しているところもあるので、地域の事情にも注意が必要である。

EV/EBITDA

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