M&Aの業界動向 介護事業

2014年 業界動向

業界定義
訪問介護(ホームヘルプサービス)、通所介護(デイサービス)、短期入所介護(ショートステイ)、福祉用具貸与、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、ケアハウス等
(総務省日本標準産業分類より)
業界シェア
業界最大手はニチイ学館。2014年3月期の部門売上高(介護部門とヘルスケア部門の売上合計)は1,465億円。 全国2,600拠点を展開する(訪問介護サービスの拠点も含む)。
市場規模
8.1兆円

(厚生労働省「2013年度介護保険事業状況報告」保険給付費、利用者負担を除く)

成長率
6.5%増

(厚生労働省「2013年度介護保険事業状況報告」保険給付費、利用者負担を除く)

関連法規
介護保険法、老人福祉法、社会福祉事業法

我が国の高齢者人口は過去最高の3,190万人(前年3,079万人)となり、総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は25.1%に達した。その中で、要介護認定者数は561万人と前年比5.8%増、さらに団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、75歳以上の人口が2,100万人となり、総人口の2割弱になる見通しだ(※1)。こうした高齢者人口の増加を背景に、介護業界は拡大を続けており、2013年度の介護保険給付額は8兆1,283億円(※2)に達し、今後もさらなる成長が見込まれる。

要介護(要支援)認定者数の推移 グラフ
要介護(要支援)認定者数の推移 (出典:「2013年度介護保険事業状況報告」厚生労働省)

介護保険給付費の推移 グラフ
介護保険給付費の推移(出典:「2013年度介護保険事業状況報告」厚生労働省)

成長産業として注目を集める介護市場だが、報酬や制度の改正に伴う環境変化が激しいことは事業リスクのひとつである。現在、介護サービスの料金は介護保険制度によって定められ、その1割を利用者が、残り9割を国が負担する。介護保険は、制度見直しが5年に1回、報酬見直しが3年に1回実施されており、財源不足を背景に介護報酬の削減という動きがあれば、利用者はもちろん介護サービスを運営する企業にも影響が及ぶことになる。2015年3月は、3年に1度の改定年にあたり、要支援者に対する訪問介護とデイサービスの両事業が自治体に移管される。同時に介護保険制度の見直しも行われ、利用者の負担割合を年収に応じて2割に引き上げる案が検討されているが、需要増には影響はないと予想される。

業界全体の課題といわれているのが人材不足である。試算によれば2025年には、介護職員の不足は100万人に達するといわれており、各社ともに新卒採用・人材育成に力を入れているが、労働環境や給与面に課題があり、定着率は低いといわざるを得ない。政府は技能実習制度を活用した外国人の受け入れも検討しているが、課題解決には時間がかかるであろう。

2013年に目立ったのは、サービス付き高齢者向け住宅市場の拡大だ。低価格の物件が市場に多く供給され、市場が活性化した。大手では「アミーユ」ブランドを運営するメッセージでは同施設への入居率が96~97%と計画を上回り過去最高益を達成。ニチイ学館も施設数・利用者数ともに増大させ、ベネッセホールディングスも有料老人ホームを新たに15か所開設させるなど、各社ともに好業績を記録した。

今後の成長が期待されているのは、医療機関との連携をベースにした在宅系サービスだ。政府は、地域における医療・介護の関係機関が連携して包括的かつ継続的な在宅医療・介護の提供を行う「地域包括ケアシステム」の実現を提唱しており、これに向けて予防給付(訪問介護・適所介護)の介護保険財源を市町村へ移行する制度改正を2015年4月以降に行うと発表している。

こうした流れを見据えて、すでに多くの事業者が在宅系サービスの強化を勧めている。セコム医療システムは、デイサービスと訪問看護・訪問介護を一元的に提供する施設を2014年4月にスタート。セントケア・ホールディングは、デイサービスと併せて点滴などの医療行為を提供する施設を開設した。今後は、介護と医療の垣根を越えたサービスの多機能化がさらに進むことが予想される。

(※1)出典:「2014年版高齢社会白書」内閣府

(※2)出典:「2013年度介護保険事業状況報告」厚生労働省

施設系介護では、小規模事業者の経営難等による売却ニーズが高まっている。2013年11月末には、長谷工コーポレーションが生活科学ホールディングスの全株式を取得して子会社化し、高齢者向け事業の拡大方針を鮮明にした。また、リゾートトラストは、2014年5月1日付でメッセージが経営する有料老人ホーム遊雅東嶺町を会社分割(吸収分割)により承継、さらなる拡大路線に踏み切った。

近年のM&Aのトピックとしては、異業種の新規参入が再び活発化していることが挙げられる。2013年11月には、ソニーフィナンシャルホールディングスが、介護付有料老人ホーム「ぴあはーと藤が丘」を運営するシニア・エンタープライズの全株式を取得して介護事業に参入。2014年1月31日には、牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーホールディングスが、北海道でサービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームなどを運営する「介護サービス輝(かがやき)」の全株を取得し子会社化し、介護事業に参入した。

訪問系介護でも、異業種による新規参入が目立つ。スポーツ用品製造・販売のダンロップスポーツは、2014年10月1日、フィットネスクラブや通所介護事業所を展開するキッツウェルネス(千葉市美浜区)の全株式を取得し子会社化する意向を表明。スポーツ用品大手のアシックスも、2014年9月をめどに、兵庫県西宮市に通所介護事業所を開設すると発表、コンビニエンスストア大手のローソンも、介護事業者と提携し、要介護・要支援者やその家族、一般高齢者向けのサービスを拡充したコンビニを展開するとしている。こうした新規参入組は、事業基盤を整えるために各地でM&Aを展開することが予想される。

もうひとつのトレンドは海外展開だ。2014年7月7日、ニチイ学館の子会社「日醫香港有限公司(ニチイ香港)」は、家事代行・清掃サービス会社、介護職員・保育士養成会社など10社を子会社化した。一人っ子政策の影響により高齢化が進む中国では、2013年時点で60歳以上の人口が2億人を突破、今後介護市場が拡大することは想像に難くない。ニチイ学館に留まらず、日本の介護事業者が海外でのM&Aに乗り出す可能性は十分に考えられる。

損益面では主要な上場企業12社すべてが直近決算で営業黒字となっている。介護ビジネスは在宅サービスの場合は初期投資負担が比較的少ない。しかし、有料老人ホームなど施設サービスとなると、土地や建物、設備など、固定資産が必要となる。開業時の投資額がかさみがちなこともあり、借入が預金を超過している企業が多い。預金が借入を超過している企業も、不動産の売却による収入や貸付金の回収などの一時的な要因で預金が増加しているケースが多い。

一方、企業価値を見ると、EV/EBITDA倍率(n=12)は平均6.5倍。分布としては4~5倍台が多い。

介護業界でM&Aを進める場合、財務面はもちろん重要だが、従業員の構成や人員配置、地代家賃、リース・消耗品などにも目を向けたい。また、公的介護保険法内のサービスが大半を占めるため、介護保険制度や介護報酬の見直しが収益に大きな影響を及ぼす可能性があることも留意する必要がある。

Page Top