M&Aの業界動向 介護事業

2011年 業界動向

業界定義
訪問介護(ホームヘルプサービス)、通所介護(デイサービス)、短期入所介護(ショートステイ)、福祉用具貸与、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、ケアハウス等
(総務省日本標準産業分類より)
業界シェア
業界最大手はニチイ学館。2011年3月期の売上高は前年比5.3%増の1243億円。 全国1700拠点を展開する(訪問介護サービスの拠点も含む)。
市場規模
6.9兆円

(厚生労働省「2009年度介護保険事業状況報告」保険給付費、利用者負担を除く)

成長率
7.1%増

(厚生労働省「2009年度介護保険事業状況報告」保険給付費、利用者負担を除く)

介護業界は、順調に市場が拡大し続ける数少ない業界である。2009年度介護保険事業状況報告(厚生労働省)によると、介護サービスの利用者負担をのぞく給付費は6兆8721億円と、介護保険制度が導入された2000年度の3兆2427億円からほぼ倍増している。予防や健康、生活支援といった周辺サービスを含めると、市場規模は10兆円を超えるとも言われており、2025年には24兆円まで成長するという試算もある(社会保障国民会議)。

主な利用者である75歳以上人口(後期高齢者)も増加の一途をたどっている。国立社会保障・人口問題所の「日本の将来推計人口」によると、2025年には75歳以上人口が2000万人を突破。介護を必要とする高齢者も大幅に増えることが予想される。

有料老人ホームの施設数・高齢者人口の推移 グラフ

非常に魅力的な成長市場である介護ビジネスだが、同時に報酬や制度が急激に変わるリスクもはらんでいる。現在、国内の介護サービスの料金は介護保険制度によって決められており、その1割を利用者が、残り9割を国が負担する。介護保険は、制度見直しが5年に1回、報酬見直しが3年に1回実施される。財政面の理由などから介護報酬を削減しようという動きがあれば、利用者はもちろん、介護サービスを運営する企業にも影響が及ぶ。

例えば、2006年4月に実施された改定介護保険制度では「予防重視」を全面的に打ち出し、2003年に続いて、2度目となる介護報酬の引き下げが実施された。結果、多くの介護ビジネスが収益減の苦境に立たされ、業界最大手のニチイ学館の2006年9月中間決算における営業利益(全社)は前年比50%マイナスの13億円となった。

しかし、逆風となる制度改定ばかりではない。2009年4月改定では介護保険制度開始以来、初めて介護報酬が3%アップ。その背景には介護報酬全体の底上げで各企業を潤わせ、介護労働者の処遇改善をはかりたいという政府の思惑がある。また、同年10月から介護職員の待遇改善のための交付金がスタートするなど、人材採用をバックアップする環境は好転しつつある。介護大手各社の業績も好調。業界大手のニチイ学館は訪問介護や通所介護などの利用者増も堅調で、2011年3月期の決算時には1242億400万円と過去最高の売上をマークした。ツクイも通所介護などの拠点が増え、2011年の売上高は対前年比13.1%増の446億2400万円。また、メッセージやベネッセホールディングスなど、全国に介護施設を展開するサービス業者も、いずれも増収増益となった。医療報酬と介護報酬の同時改定に加えて、新たな制度改革が予想される2012年までは順風が続くと考えてよいだろう。

介護・福祉サービスは大別すると、自宅で暮らしながら介護を受ける「在宅サービス」と、専門施設への入所を前提とする「施設・居住サービス」に分かれる。

在宅系サービスのなかで、民間企業の参入意欲が高いのは「通所介護(デイサービス)」である。利用者を一カ所に集めて、食事やレクリエーション、リハビリなどのサービスを提供するため、訪問介護事業と比べて収益性が高いとされる。

食事を自宅まで届ける「配食サービス」も成長分野のひとつとして注目を集めている。シニアライフクリエイト(旧・エックスヴィン)がフランチャイズ展開する高齢者専門の宅配弁当「宅配クック123」は2009年に月間配食数150万食を突破。こうした配食サービスは介護保険の対象外だが、大手介護サービスのメディカジャパンはデイサービス利用者向けに夕食の持ち帰りサービスを提供。ニチイ学館も高齢者向けに開発された冷凍食品の宅配サービス「食卓ヘルパー」を展開している。

施設サービスは「介護保険施設」と「その他の施設」に分けられる。介護保険施設には特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)、老人保健施設(介護老人保健施設)、介護療養型医療施設という3タイプがあり、これら施設の運営主体は社会福祉法人、医療法人に限られる。

一方、民間企業が積極的に参入しているのは「有料老人ホーム」。2009年10月の有料老人ホームの施設数は3565か所と、2004年(1045か所)の3倍以上に増えている。これまで有料老人ホームといえば、入居時に数千万円単位を入居一時金として納め、さらに毎月、家賃や食費など月額利用料を負担するのが一般的だった。しかし、最近では老人ホーム大手のメッセージが入居一時金を無料化するなど、サービスの多様化が進んでいる。

介護業界のM&Aが初めて行われたのは1997年。以降、2010年12月までに308件のM&Aが行われている(レコフデータ調べ)。M&Aの件数だけを見ると、2008年の44件をピークに減少傾向にあり、2010年は16件にとどまった。しかし、その中身を見るとホッチキスなどで知られるマックスが介護用車いすを中心とした福祉用具の製造販売を手掛けるカワムラサイクルをTOBで買収するなど、新規事業者による新たな市場参入の動きが活発化している。

その他、医療用・高齢者用ベッドの製造・販売を手がけるパラマウントペッドは2007年に福祉用具レンタル卸のサンネットワーク(静岡市)を買収。さらに2010年には医療機器販売のシバタインテック(静岡市)から事業を譲り受け、東北地方における事業拡大を図る。

居酒屋チェーンのワタミなど他業界からの参入組の活躍も目立つ。ワタミは2007年に「アールの介護」を買収し、本格的に介護事業に進出。翌2008年に高齢者向け宅配事業を手掛ける「タクショク」を買収し、外食事業で培ったノウハウを活用した有料老人ホーム事業を展開。今年3月期通期の連結決算によると、介護事業の売上高は222億円(前期比27.4%増)、営業利益は37億8000万円(同40.9%増)と好調そのもの。M&Aを通じて、既存企業のノウハウを獲得し、新しい事業の柱をつくるというスタイルが確立されつつある。

また、投資会社のACA(旧・アント・コーポレートアドバイザリー)は、全額出資子会社の合同会社ACAアセットを通じて、ドラッグストアを運営するクリエイトSDホールディングスに資本参加。ヘルスケアファンドを通じて、施設介護事業会社の統合などを行うとともに、ヘルスケアサービス分野での実績とネットワークを活用し、地域の医療機関や介護事業所との連携を強化する。

既存のノウハウを吸収し、新たな事業の柱を育てるため、あるいは採算性アップを目的としたM&Aは今後ますます増えることが予想される。

損益面では主要な上場企業12社すべてが直近決算で営業黒字となっている。介護ビジネスは在宅サービスの場合は初期投資負担が比較的少ない。しかし、有料老人ホームなど施設サービスとなると、土地や建物、設備など、固定資産が必要となる。開業時の投資額がかさみがちなこともあり、借入が預金を超過している企業が大半を占めている。

一方、企業価値を見ると、EV/EBITDA倍率(n=12。EV、EBITDAがマイナスの企業を除いて集計)は平均6.5倍。分布としては8倍台が多い。

介護業界でM&Aを進める場合、財務面はもちろん重要だが、従業員の構成や人員配置、地代家賃、リース・消耗品などにも目を向けたい。また、公的介護保険法内のサービスが大半を占めるため、介護保険制度や介護報酬の見直しが収益に大きな影響を及ぼす可能性があることも留意する必要がある。

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