売却後インタビュー
2004年3月
後継者不在で会社を譲渡した社長のその後
以下は弊社で仲介した企業 (M&A市場コード: SS0020) の創業オーナーのその後を追跡取材したものです。
本件は売却からすでに3年が経過しています。
社長ご本人に売却当時を振り返ってもらい、現在の心境語っていただきました。
なお、文中は仮名で記載されておりますが、内容は全て実話です。
インタビュー
ヤマト防災は消防設備の点検や改修工事を堅実に行ってきました。永野社長 (当時) の手堅い経営手腕もあり、創業以来30年間赤字になったことがない優良企業でした。しかし、永野社長には2つの問題がありました。1つはご自身の健康状態が良くないことで、もうひとつは後継者がいないことでした。
- 荒井
- 「優良企業を手放すというのは創業経営者にとってはさびしいことでもあり、大変なご決断です。なぜ、M&Aを検討にするようになったのでしょうか?」
- 永野社長
- 「おっしゃるとおり、私も簡単に決断したわけではありません。私も最初は身内や部下に会社の経営を任せようと模索しておりました。ただ、息子には全くその気もないし、部下は現在の待遇で満足しているとの回答でした。逡巡しているうちに次第にM&Aという選択肢が現実的な解決方法であると考えるようになりました。」
- 荒井
- 「通常、創業経営者が会社を売却するのは一生に1回のことです。実際にM&Aに踏み切る際に不安はありませんでしたか?」
- 永野社長
- 「いや、最初は不安だらけだったですよ (笑)。自力では相手先探しもできないし、社員や顧客に情報が漏れないか心配だったですし、だいたい自分の会社の価値が分かってませんでしたし。」
- 荒井
- 「ただ、永野社長はそのご不安を乗り越えてヨコハマビルサービスという有力企業への譲渡をなさりました。交渉過程で特につらかったことは何でしょう?」
- 永野社長
- 「確かに交渉過程ではいろいろありましたね。でも、一番つらかったのは (ヨコハマビルサービス以外の) 候補先から梯子をはずされた時ですね。今だから言えることですが、あの時はもう青天の霹靂だったですよ。「あぁ、これで会社が売れるんだ」という安心をしていたところに「やっぱり買収できない」だったですからね。」
- 荒井
- 「最終的に調印した時のお気持ちはいかがだったですか?」
- 永野社長
- 「複雑だったですね。「やっと長旅から解放された」という安堵感と「やっぱり少し寂しいな」という寂しさがありましたが、安堵感の方が少しだけ勝っていた感じでしょうかね。」
- 荒井
- 「譲渡後に永野社長は従業員に宛ててお手紙を書かれましたよね?」
- 永野社長
- 「ええ。長年連れ添った社員ですから、やはり節目としての挨拶は必要だと思いましてね。」
- 荒井
- 「あのお手紙は永野社長のお人柄が出ていて私も非常に心を打たれました。」
- 永野社長
- 「……」
- 荒井
- 「あれからもう3年経ちましたが、今のご心境はいかがですか?」
- 永野社長
- 「そうですね…。ヨコハマビルサービスとは売却時に3年間の顧問契約を結びましたが、それも終了し、私が創業したヤマト防災と名実ともにお別れしました。自分が創業した会社を去るのはやはり寂しいものですが、今でも会社は健全経営で、残した社員たちも皆元気で張り切ってやっています。そういう会社を創り上げられたことは私が生きてきたうえで最高の誇りであると今は思っています。」
- 荒井
- 「個人的な面ではいかがでしょう?」
- 永野社長
- 「会社を売却してからは毎日がゆったりしていて、非常に穏やかな気持ちでいます。これも妻の愛情のおかげでしょうか (笑)。妻にはとても感謝してますよ。」
- 荒井
- 「それでは死ぬまで奥さんに頭が上がりませんね (笑)。」
- 永野社長
- 「いやいや、死んでも頭が上がりませんよ (笑)。」
- 荒井
- 「最後にこれから会社を売却しようとしている創業経営者の方に“先輩”として何か一言お願いします。」
- 永野社長
- 「創業経営者にとって会社は自分の分身のようなものです。だから大きく発展して欲しいという思いは強い。しかし、会社がどんなに発展したとしても人生は有限。どこかで会社と人生を秤にかけなければならない。創業経営者が会社を売却するというのは、自分が創り上げた会社の発展と個人の人生の充実の両方を考えた場合に自然な選択だったと思います。私自身は会社を売却して、個人的にもゆとりができましたし、社員達も相変わらず元気です。本当に良い選択をしたと思っています。」
取材後の永野社長
永野社長はこの取材後に永眠されました。
故人のご冥福をお祈り申し上げます。
永野社長は生前奥様に「本当に良い会社に売却してよかった」とおっしゃっておられたそうです。
詳細は拙著『創業者のかしこい選択 M&A』の中でもご紹介させていただいております。ぜひご一読ください。



